民法クローズ・アップ |
判例による意思表示の研究 |
瑕疵ある意思表示/詐欺と物権変動・2 |
このシリーズは、意思表示の過去問レベルがどのくらいなのかを検証しています。
過去問の出題範囲から特に深入りはしていません。
詐欺が物権変動に関する出題を前回、今回は見ています。
<過去問出題歴> 11- 5-3 偽造の文書所持者への弁済 10-10-4 相続と詐欺 10- 7-1 第3者の詐欺 *前回掲載 9- 6-1 取消し後の第3者 *前回掲載 8- 5-1 取消し前の善意の第3者 *前回掲載 4- 8-4 第3者の詐欺と代金返還 *前回掲載 |
―(ケース1)――――――――――――――――――――――――――――
Aが、Bに対して不動産を売却し、所有権移転登記及び引渡しをした場合の
Bの代金の弁済に関する次の記述は、民法の規定及び判例によれば、○か×
か。
Bが、「AからDに対して代金債権を譲渡した」旨記載された偽造の文書を
持参した代金債権の準占有者Dに弁済した場合で、Bが善意無過失であると
きは、Bは、代金債務を免れる。(平成11年問5肢3)
――――――――――――――――――――――――――――――――――
<関係図>
D(準占有者)
↓
A(売主)――――――B(買主)
<解> 準占有者というムズカシイ言葉が出てきていますが、気にする事は
ありません。要は、ウソの「AからDに対して代金債権を譲渡した」旨記載
された偽造の文書を持ってきたことの法的説明です。
これは、受験者を怖がらせようとして問題文に入れているのではなく、 問題を解くのに、法律的な解釈をしなくてもいいように親切で書いているもの と思われます。このへんは、誤解のないようにしてください。 |
●条文では…
この場合、民法478条の
債権の準占有者に為したる弁済は弁済者の善意なりしときに限り 其の効力を有す。 |
<超訳> →本問に即して訳している為、正確ではありません。
債権者のフリをした者に対する代金の支払い(弁済)は、そのことについて
何も知らなくて支払った場合に限り、効力を持ち、もう一度債権者に
払わなくてもよい。
という文言ソノママ。何と言う親切さ! しかし、この善意という要件については、
「ただ知らなかった」というだけではすまず、判例では補足しています。
●判例では…
(民法の規定及び判例によれば、と問題文にあれば、
「判例」を使って解きなさいよ、と言っているわけです。)
判例では、この条文にプラスして、
1. 弁済者は、善意・無過失 であることを要する 2. 「弁済者が善意」というには、 弁済者は、準占有者が無権利者であることを知らないだけでなく、 真正な権利者だということを信じたということを要する、 (最高裁 判決 昭和37.8.21) |
としています。
▼ 真正な権利者だということを信じたということ
↓
本問では、「AからDに対して代金債権を譲渡した」旨記載された偽造の文書
を見せられており、言葉巧みにDはBをまるめこんだと思いますが、本問では、
これが「真正な権利者だということを信じた」ことの証拠として書かれていると
思います。
▼ 本問では、どのようなシチュエーションで偽造文書を見せられたかわかり
ませんが、善意・無過失とわざわざ断わってある為、本問ではこの判例その
ままに解釈して構わないものと思われます。
▼この弁済は有効な為、Bの債務は消滅します。よって、○ということになります。
<参考>
・この判例では、「債権者の代理人」、「債権者の使者」を詐称して弁済を受領
した者への弁済にも、上の2つを満たしているならば、適用される、とも
言っています。
・「ニセの債権者に払って私は何もしらなかったのだから、その支払いは有効で
私はあなたにまた支払ういわれはありません。」と言われた債権者はどうなるか?
この場合、真正の債権者Aは、準占有者であるニセの債権者Dに対して、
不当利得に基づく返還、あるいは不法利得に基づく損害賠償を請求することに
なります。これによりニセの債権者DはBからせしめた金額以上のお金をAに
支払う事になるかもしれません。世の中、甘くはないということです。
●債権の準占有者
ちなみに、「債権の準占有者」とは、
本当は債権者ではないのに、取引観念上、債権者らしい外観を有して、 自己の利益のためにする意思を盛って債権を行使する者 |
のことを言います。判例では、どういう人が債権の準占有者に当たるのか、
示していますが、宅建ではそこまで知る必要もないため、深入りはしません。
【正解 : ○】
―(ケース2)――――――――――――――――――――――――――――
相続人が、被相続人の妻Aと子Bのみである場合(被相続人の遺言はないもの
とする)の相続の放棄に関する次の記述は、民法の規定及び判例によれば、
○か×か。
Aは、Bの詐欺によって相続の放棄をしたとき、Bに対して取消しの意思表示
をして、遺産の分割を請求することができる。
(平成10年問10肢4)
―――――――――――――――――――――――――――――――――
●相続で詐欺により、相続放棄したことの取消しは、家庭裁判所で申述する |
<関係図>
X(被相続人)―――A(妻、相続人)
|
B(子供、相続人)
このケースは、本来妻は遺産の1/2、子供はその残りという原則があります。
遺留分は、妻と子のみが相続人のときは妻・子合わせて全体の1/2のため、
妻は1/2×1/2=1/4, 子も1/2×1/2=1/4 になります。
「相続は争族だ」という言葉がありますが、身内同士の争いになり、トラブル
はどうしても出てきます。本問のようなケースはよく出てくる話です。例えば
相続人の1人が他の相続人に白紙委任状に署名捺印させて、その白紙の委任状
に「相続を放棄する」旨の文言を書き加えて、ニセの相続放棄の文書を作り、
1人で遺産をせしめるという筋書きはよくドラマなどにも出てきます。
本問は、相続に絡んで
詐欺による「相続放棄の意思表示」を取消す場合の対処の仕方
を知っているかどうか、タメす問題です。
●条文●●民法919条----------------------------------------------------- 1項では、承認及び放棄は自己のために相続の開始があったことを知ってから 3ヶ月以内(利害関係人、検察官の請求によって家庭裁判所で伸長できる)に しなければならないが、この期間でも承認及び放棄を取消す事はできない。 (これは本問とは無関係) 2項では、民法の民法総則および親族の編の規定によって、承認及び放棄の 取消しを行う事は1項の規定に関係なくできる。 ただし、その取消しは追認をする事ができる時から6ヶ月間行わない時は 時効によって消滅する。相続又は放棄の時から10年を経過した時も同じものと する。 3項では、2項の規定によって、限定承認又は放棄の取消しを行う者は、 家庭裁判所に申述しなければならない、となっています。 |
本問では、この条文により、
2項から、詐欺による取消しを追認をする事ができる時から6ヶ月以内に |
3項から、家庭裁判所に申述 |
ということになります。したがって、Bに対して取消ししてもダメということで
本問は×になります。(しかし、子供が母親をダマすというのは考えたくない構図
でしたね。カバチタレの話を思い出します。)
【正解:×】
詐欺については、これまで扱ってきたもの以外にも類似の出題はありますが、 今回までで十分だと思います。どうぞ、自信をもってください。 |