Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
売買契約に関する総合問題1
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | ○ |
Aを売主,Bを買主とする甲建物(設定代金額2,000万円)の売買契約に関し,次のそれぞれの記述は,民法の規定によれば○か、×か。 なお,当該契約につき,別段の定めはないものとする。 |
1.「甲建物の売買契約に関する費用は,売主Aが負担するものとし,弁済に関する費用,
買主Bが負担するものとする。」
【正解:×】 ◆売買契約の費用は平分,弁済に関する費用は買主負担 売買契約により利便を受ける者は、売買契約の当事者の双方であり(つまり、売主は失う権利の相当の代金を取得、買主は支払代金相当の権利を取得)、したがって、“売買契約に要する費用”は、特約がなければ、売主と買主の双方が平分して(半分ずつ)負担します(民法第588条)。→昭和56年出題 なお、“弁済費用” の場合は、弁済者、つまり買主は、弁済するまで利益を受けている(買主は、代金の支払い前でも取得した物はスグに使え、これを「期限の利益」という、第136条1項)ものであり、したがって弁済の費用は、買主(弁済者、債務者に同じ)Bが負担する(第485条)ので、後半は正しくなります。 |
2.「甲建物のAの申入れ代価につき,Bが1,800万円なら承諾する旨をAに通知したが,
Aから相当期間内に確答がないため,Bが2,000万円で承知する旨をあらためてAに
通知したとき,当該契約は成立する。」
【正解:×】 ◆隔地者間の契約 → 過去問を見る 契約(物権の設定及び移転)は、申込と承諾(意思表示)の内容が一致して、はじめて成立するものであり(第176条)、承諾者のBがAの申込(2,000万円)に変更(2,000万円→1,800万円)を加えて承諾したとき、つまり、AとBの内容は一致していないため、Bによる申込の拒絶とみなされ、その時点で当該契約は一旦打ち切りとなります(第528条前段)。 しかし、そのBの減額の申込は、新たな申込とみなされ(第528条後段)、そのBの申込につき、新たにAの承諾(第176条)がなければ契約は成立せず、たとえその後において、Bが当初の代価に戻して申入れをしても、そもそも当初の契約は一旦打ち切られたものであり、今度はそのBの申入れに対し、あらためてAの承諾がなければ(Aには別の考えがあるカモ?)、当該契約は成立しません。 |
3.「甲建物に第三者Cの抵当権が設定されているとき,買主Bがそのことにつき悪意で
あっても,Bは,Aに対し代金の支払いを拒絶することもできる。」
【正解:○】 ◆担保責任 → 過去問を見る 抵当権の付いた不動産を取得した者は、抵当権の実行によって所有権を失うおそれがあり(なお、抵当権が実行されて、所有権が失われたときの契約の解除はできます:第567条1項)、たとえ抵当権が設定されていることを知っている悪意の取得者であっても、抵当権消滅請求の手続(抵当権者に代価を提供して抵当権を抜くこと:第378条)が終わるまで、代金の支払いを拒絶することができます(第577条)。 なお、この場合、買主が抵当権を消滅させるために支払った費用は、売主の債務の弁済となるものであり、後日に売主から償還されます(第567条2項)が、「実務上は」取引簡便化の要請から、買主は、抵当権を消滅させるために支払った費用を、売主の請求額から差し引いて支払っています。 <コメント> |
4.「売買契約が締結された後,甲建物がAからBに引き渡される前に,隣家Dの重過失
による失火により焼失したときであっても,Bは当該契約を解除することができない。」
【正解:○】 ◆危険負担での債権者主義 → 過去問を見る 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示によって、その効力を生じ(第176条)、また、売買は当事者の一方が相手方に移転することを約束し、相手方がこれに代金を払うことを約束することによりその効力を生じる(第555条)ため、 “引渡”又は“移転登記” 等に関係なく、すでに甲建物の所有権はBに移転しており、Bは当該契約を解除できません。 また、甲建物は「特定物(世界に一つしかない物)」であり、この場合は債務者Aの責任によらず滅失したため、「債権者主義」(権利つまり利益の帰する所に損失も帰する)が採用され、特定物におきた事由は建物の債権者Bが負担することになります(第534条)。 なおこの場合、甲建物の滅失は隣家Dの「故意」「重過失」による失火(過失=不法行為)のため、Bは、Dに対して損害賠償を請求できます(第709条)。 |
◇隣家への失火による類焼の賠償責任 軽過失による失火 →損害賠償責任を負わない(失火責任法が適用) 重過失または故意による失火→ 損害賠償責任を負う(不法行為責任) <民法709条> 故意または過失に因りて、他人の権利を侵害したる者は、之に因りて生じたる損害を賠償する責任に任す。 <失火の責任に関する法律> 民法709条の規定は、失火の場合には適用せず。ただし失火者に重大なる過失あるときにはこの限りにあらず。 ▼「故意」「重過失」があった場合には、失火責任法は適用されない 失火の原因に「故意」「重過失」があった場合には、「不法行為責任」が適用され、失火元は損害賠償責任を負うこととなります。 ▼爆発事故の場合 爆発の場合は、失火責任法の適用除外とされています。爆発は火災とは認められないので、民法709条の「不法行為責任」が適用され、加害者には賠償責任が生じます。 ただし、火災後に爆発事故が起きた場合には失火責任法が適用されます。この場合でも、失火元の重過失が認定されれば、失火元には損害賠償責任が生じます。 ▼賃借人の失火による類焼の場合 ・軽過失による失火 →大家に対して損害賠償責任を負う(債務不履行責任) ・重過失または故意による失火→大家に対して損害賠償責任を負う(債務不履行責任) |