Brush Up! 権利の変動篇

契約総合の過去問アーカイブス 金銭消費貸借契約 平成2年・問3

債権譲渡・貸金債権の消滅時効・返済の場所・返済の請求


に対する貸金(返済の時期は定めていない。)に関する次の記述のうち,民法の規定によれば,誤っているものはどれか。(平成2年・問3)

1.「に対する貸金債権をに譲渡した場合,は,その旨をに確定日付のある証書で通知しなければ,第三者に対抗することができない。」

2.「の貸金債権の消滅時効は,の催告の有無にかかわらず,貸し付けたときから起算される。」

3.「返済の場所を定めていない場合において,が住所を移転したときは,は,の新たな住所で返済しなければならない。」

4.「は,にいつでも返済することができるが,が返済を請求するには,相当の期間を定めて催告しなければならない。」

【正解】

×

出題者は2をとし,正解肢は1のみとしていたようですが,後述の理由で,にしました。

1.「に対する貸金債権をに譲渡した場合,は,その旨をに確定日付のある証書で通知しなければ,第三者に対抗することができない。」

【正解:×

◆債権譲渡の対抗要件

 債権譲渡の過去問(単独問題)

               債権譲渡
 (債権者,譲渡人)――――――→(譲受人)
 ↓貸金債権
 (債務者)

 指名債権の譲渡の債務者以外の第三者への対抗要件は,『譲渡人(元の債権者)から債務者への確定日付のある通知』または『債務者から 譲渡人 or 譲受人 への確定日付のある承諾』でした。

 本肢では,『譲受人のが債務者に通知』となつているので×になります。

              債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  | AからBへ債権譲渡の通知
 (債務者)
  BがA or Cに、承諾する。

2.「の貸金債権の消滅時効は,の催告の有無にかかわらず,貸し付けたときから起算される。」

【正解:判例によればと解される】

◆消滅時効の起算点

 本肢は,下記に示す通り,学説と判例(昭和5.6.4)対立しており,少なくとも宅建試験では出題してほしくない問題だと考えます。             

 消滅時効は,権利を行使できるときから進行(スタート)します。(166条1項)
つまり,権利者が権利の行使ができるのに行使しないで放置しておいた時から進行するわけです。

 期限の定めのない債権の場合は,原則として債権発生の時を消滅時効の起算点としています。(166条1項,判例)

    履行期 (遅滞責任の発生時)  消滅時効の起算点
 確定期限  期限が到来した時  期限が到来した時
 不確定期限  期限が到来し、かつ

 債務者がそのことを知ったとき

 期限が到来した時
 期限の定めなし  原則として、

 履行の請求を受けたとき

 債権が発生した時

しかし,通説では,『返済時期について定めがない消費貸借』での返還請求の消滅時効は消費貸借成立時より相当の期間を経過した時から進行を開始するとしています。(我妻榮・有泉亨『民法1』一粒社,p.228)
 下級審でもこの学説を認めているものがあります。(東京地裁・昭和44.1.20)

◆参考知識・履行遅滞 : 判例と通説の違い

 関連 民法412条3項 期限の定めのない債務の弁済期は,債権者の履行の請求によって期限が到来し,この請求の時点から履行遅滞になります。期限の定めのない債務の消滅時効の起算点は,債権者が履行請求しなければ時効が進行開始しないというのは貸主に著しく有利であり不合理なので,債権成立時になります。〕

 判例では,返済時期を定めない消費貸借では,契約成立時から弁済期であるとし,相当の期間を定めて催告する規定になっているのは借主保護のために,借主に催告についての抗弁権が付与されたのに過ぎず(大審院,大正2.2.19)借主がこの抗弁を主張しなければ貸主の催告のときから直ちに履行遅滞となり,主張したときは催告から相当期間経過により履行遅滞になるとしています。(大審院,昭和5.6.4)

 催告について

 貸主が抗弁しない場合

   契約成立   貸主の催告

  ――――――●――――――――

   弁済期    履行遅滞

 催告について

 貸主が抗弁した場合

   契約成立  貸主の催告 相当期間経過

  ――――――――――●――――

   弁済期            履行遅滞

しかし,学説では,貸主が,催告したことを主張・立証するべきとし(我妻榮『民法講義V2・債権各論・中(一)』岩波書店p.373),催告があったときは,相当期間経過後に,借主の返済がないとき,借主は履行遅滞になるとしています。

 【通説】

 消費貸借の場合,借りた直後に返せと言われるのでは契約を締結した意味がない。だから,借りたことに意味があるような一定の期間を過ぎた後でなければ返還請求はできない。これが民法591条の趣旨である。→ 大村敦志・基本民法2・p.116

●参考
1.「(判例の趣旨に照らすと),期限の定めのない貸金債権の消滅時効は,金銭消費貸借契約が成立したときから進行する。」(司法書士・平成16年・問7・ア)
【正解:
2.「催告後,相当期間を経過して初めて返還を請求することができる消費貸借契約上の消滅時効は,契約成立後相当の期間を経過した時から進行する。」(司法試験・択一・昭和46年・問47)
【正解:】 司法試験択一では通説で出題しています。 

3.「返済の場所を定めていない場合において,が住所を移転したときは,は,の新たな住所で返済しなければならない。」

【正解:

◆弁済の場所

 弁済の場所は,特約または慣習で定めるのが原則です。しかし,当事者で弁済の場所について定めがない場合は,

1) 特定物の引渡し(例・不動産) を目的とする債務では,債権が発生した当時に,その物が存在した場所

2) 上記以外の場合は、弁済をするときの債権者の住所で弁済します。(民法484条)

 本肢ではこの2) で,代金や貸金の債務は、債権者の現時の住所が弁済する場所になります。債権者が住所を移転しているので,債権者が移転した住所で弁済(返済)することになります。

金銭債務では、弁済の場所について、当事者間で定めがなければ、債権者の現時の住所が弁済する場所になります。

4.「は,にいつでも返済することができるが,が返済を請求するには,相当の期間を定めて催告しなければならない。」

【正解:

◆返還時期の定めのない金銭消費貸借の借主と貸主

 金銭消費貸借では,返還時期の定めがないときは,借主はいつでも返還することができます。(591条2項)利息があるときにはそのときまでの利息をつけて返します。〕

 また,返還時期の定めがないとき,貸主が返済を請求するには,相当の期間を定めて催告しなければいけません。(591条1項)

 → 判例では,この催告は,書面・口頭いずれでもよく,訴状の送達でも構わないとされています。(大審院,大正8.5.17)

判例では,返還時期の定めがないときに,貸主が相当の期間を定めないで返還請求した場合でも,催告から返還の準備をするのに相当の期間が経過した後は,借主は履行遅滞になるとしています。(大審院・昭和5.1.29)


契約総合のトップに戻る

Brush Up! 権利の変動のトップに戻る