Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
代理に関する複合問題1(登記の双方代理・代理人の詐欺・表見代理)
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | ○ | × |
Aが,Bの代理人として,Cとの間でB所有の土地の売買契約を締結した。この場合,次のそれぞれの記述は民法の記述及び判例によると,○か×か。(平成8年・問2) |
1.「AがBから土地売買の代理権を与えられていた場合で,所有権移転登記の申請についてCの同意があったとき,Aは,B及びC双方の代理人として登記の申請をすることができる。」 |
【正解:○】 ◆双方代理 B C 双方代理は、その代理人の一存によって本人に不利益を与えるおそれがあるため、原則として禁止されております(民法第108条)。 しかし、BとCとの間では、すでに売買契約は成立(所有権は移転)しており、Aの所有権移転登記の申請行為は、その権利移動を第三者に対抗するため公簿に記載する単なる事務手続きであるため、判例によれば、債務の履行(第108条但し書き)に準じるものとされ、双方代理行為の禁止規定に違反するものではありません。(最高裁・昭和43.3.8) |
2.「AがBから抵当権設定の代理権を与えられ,土地の登記済証,実印,印鑑証明書の交付を受けていた場合で,CがBC間の売買契約についてAに代理権ありと過失なく信じたとき,Cは,Bに対して土地の引渡しを求めることができる。」 |
【正解:○】 ◆権限ゆ越の表見代理−相手方の善意無過失が要件 B (本人) 土地につき抵当権設定の代理権をBから受けた者Aが、その土地を売り渡したとき、Aの行為は権限を超えた無権代理行為であって、Aはその責任を取らなければなりません(第117条)。 しかし、相手方Cに過失ないときは、Cを保護する必要があるため、実印や登記済証を所持している者Aにつき、CがBC間の売買契約についてAに代理権ありと過失なく信じる「正当の理由」(民法110条参照)にあたるので表見代理が成立し(判例)、Cは本人Bに対して引渡し請求ができます。 |
<参考> 代理人がウッカリ「本人」の名を示すことを忘れたという場合は、その代理行為は錯誤で『無効』になりかねません。 →その意思表示は代理人自身が自分のためにしたものとして扱われます。 →但し、代理人の行為が本人のためにされたのだということを、相手方が知っていた場合(悪意)、および普通ならば当然そのことを知り得る場合には、原則に立ち返り、代理人の行為は「本人」がしたのと同様に扱われます。 |
3.「Aが,Bから土地売買の代理権を与えられ,CをだましてBC間の売買契約を締結した場合は,Bが詐欺の事実を知っていたと否とにかかわらず,Cは,Bに対して売買契約を取消すことができる。」 |
【正解:○】 ◆代理人の詐欺−本人の善意・悪意に関係なく相手方は取り消すことができる B (本人) 本人は、代理人を使用することによって利益を受けるものであるため、その代理人の行為から受ける不利益も受けることになります。〔代理人の詐欺は,第三者の詐欺にはならない。〕→代理人の行為のリスクは本人が負担する。 したがって、意思表示するにつき瑕疵(虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫・悪意・有過失・・・)があるときは、本人ではなく、代理人について考えればよく(第101条1項・判例)、 代理人Aが相手方Cをだましたということは、本人Bの善意・悪意には関係なく、相手方CはAによる詐欺を理由に、本人Bに対して当該契約を取消できます。(第96条1項)
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4.「Aが,Bから土地売買の委任状を受領した後,Aについて破産手続開始の決定があったのに,Cに当該委任状を示して売買契約を締結した場合,Cは,Aについて破産手続開始の決定があったことを知っていたときでも,Bに対して土地の引渡しを求めることができる。」 |
【正解:×】 ◆代理権消滅後の表見代理 B (本人) ※Cが善意無過失ならば表見代理が成立。
本人保護の見地から、委任は委任者又は受任者の死亡又は破産手続開始の決定によって終了し(第653条)、その後の受任者(代理人)の行為は無権代理行為となります。(第113条1項)
※参考までに、「表見代理の基本問題1」の設問4の問題および解説もご覧下さい。
註・×は,代理権は消滅しない。 |