Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
不当利得・不法原因給付に関する問題 平成9年・問7
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
●不当利得・不法原因給付 |
不当利得およびその特則である不法原因給付の単独出題は、近年では、平成9年のみですが、肢問としてはよく顔を覗かせています。 不当利得は、民法総則や債権編などの言わば「契約のオモテ」に対して、「契約のウラ」の側面があり、これまで学んだところでも実は、地下水脈のように不当利得が関係しているところがありました。その意味では、多様な不当利得をまとめることは非常に難しいことであり、とりあえず実際に出題されたところを見ておく程度のことしかできないと思われます。(これまでも過去問で出題のあったものはその都度見てきました。) |
不当利得に関する次の記述は、民法の規定及び判例によれば、○か×か。(平成9年・問7) |
1.「A所有の不動産の登記がB所有名義となっているため固定資産税がBに課税
され、Bが自己に納税義務がないことを知らずに税金を納付した場合、Bは、Aに対し
不当利得としてその金額を請求することはできない。」
【正解:×】 ◆不当利得返還請求権
固定資産税の課税 受益 損失 不動産の登記がB所有名義となっていても、A所有なので本来はAが固定資産税を支払うべきものです。Bは、自己に納税義務がないことを知らずに、Aが納付すべき税金を納付しているので、Aは、法律上の原因なくして他人の財産により利益を受け他人に損失を与えていることになります。民法では、このような場合、その利益の存する限度において返還する義務があるとしています。(民法703条) したがって、Bは、Aに対し不当利得としてその金額を請求することができます。
【公式】 不当利得は返還しなければならない(返還請求することができる)。
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●参考問題 | ||||||
Aは、A所有の建物についてBに売却し、BはAから建物の売却を受けて入居したが、2ヵ月経過後に売買契約が解除された。この場合、Bは、Aに建物の返還とともに、2ヵ月分の使用料相当額を支払う必要がある。(H10-8-2) | ||||||
【正解:○】
A (売主) 解除によって、ABとも原状回復義務を負います。Bは解除までの間建物を使用収益して利益を受けていたと考えられるので、その利益を売主Aに償還する義務を負い、一種の不当利得返還義務と考えられます。(民法545条、最高裁・昭和34.9.22)
▼使用収益分を返還するのは同じなのですが、根拠付けに温度差があることに注意。 |
2.「建物の所有者Cが、公序良俗に反する目的でその建物をDに贈与し、その
引渡し及び登記の移転が不法原因給付である場合、CがDに対しその返還を
求めることはできないが、その建物の所有権自体は引き続きCに帰属する。」
【正解:×】 ◆不法原因給付による反射的効果 (判例) C―――――→D (公序良俗に反する目的)
この建物の贈与が、公序良俗に違反する目的の場合、その贈与は、「不法の原因による給付」となります。不法原因給付の反射的効果として、建物の所有権はDに帰属し、Cは、給付したものの返還を請求することはできず、Dから返還してもらえなくても裁判所による救済を受けられません。(最高裁・昭和45.10.21) 【公式】 不法原因給付したものは返還請求できない。 ▼民法のこの規定は、自ら反社会的な行為をした者に対しては、その行為の復旧(元に戻すこと)を訴求することを許さない趣旨のものであり、『自ら不法なことに関与したことを理由として法の保護を求めることは許されない(法による救済や保護を求める者は汚れなき手を持っていなければならない)』という英米法のクリーン・ハンズの原則にも通じるものがあります。(Clean Hands 汚れていない手) |
3.「Eは、F所有のブルドーザーを賃借中のGから依頼されて、それを修理した
が、Gが倒産したため修理代10万円の取立てができない場合、ブルドーザーの
返還を受けたFに対し不当利得として10万円の請求をすることができる。」
【正解:○】 ◆不当利得返還請求権(判例) − 転用物訴権(三角関係的不当利得) F(賃貸人) 受益 本肢は、実際にあった裁判例から出題されたものです。 この修理契約は、GとEにより締結されたもので、本来、修理代金はGが支払わねばなりません。しかし、Gが倒産してGから回収できないときは、Eは、『Eが修理したことによってFは利得を得ており、Fが修理代金を支払わないならば、FはこのかぎりでEに損失を与えている』として、修理代金の請求をFにすることができます。 判例では、所有者Fではなく賃借人Gが修理の給付を受けたことは、修理業者Eの損失と所有者Fの利得との間に直接の因果関係を認めることの妨げになるものではないとしています。(最高裁・45.7.16)
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●不当利得返還請求権での履行遅滞と消滅時効の起算点 (判例による) | ||
いつから履行遅滞になるか (大審院・大正7.2.21) |
消滅時効の起算点 (大審院・昭和12.9.17) |
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受益者が善意のとき | 請求を受けたとき | 債権発生のとき
(消滅時効は10年) |
受益者が悪意のとき | 受益のときから |
●チェック |
善意の不当利得者の不当利得返還債務の履行遅滞に陥る時期又は消滅時効の起算点は,債務者が履行の請求を受けたときである。 |
【正解:×】 不当利得に基づく返還債務は、法律の規定によって生じる期限の定めのない債務として、履行遅滞に陥る時期は、履行の請求を受けた時(412条3項)で、消滅時効の起算点は債権発生のときです。(166条1項) |
4.「土地を購入したHが、その購入資金の出所を税務署から追求されることを
おそれて、Iの所有名義に登記し土地を引き渡した場合は不法原因給付である
から、Hは、Iに対しその登記の抹消と土地の返還を求めることはできない。」
【正解:×】 ◆仮装譲渡(通謀虚偽表示) ≠不法原因給付 (判例) 土地の売主 Hが仮装譲渡をして、土地をIの登記名義にし、後になって『この通謀虚偽表示は当事者間では無効』だから、「土地の登記を抹消して土地を返還しろ」とHがIに請求する裁判事例は多く、このような場合に、Iが、本肢のように、『不法原因給付をした者は返還請求ができない(民法708条)ので登記を抹消して土地を返還することはできない』、と主張することが多いようです。 しかし、判例では、このような給付において虚偽表示は当然には民法708条でいう不法の原因にはならないとして、返還請求を認めています。(最高裁・昭和41.7.28) したがって、この通謀虚偽表示は当事者間では無効であることから、Hは、Iに所有権移転登記の抹消とその土地の返還を求めることができます。 |