Brush Up! 権利の変動篇

正解・解説

不法行為に関する問題6 賠償責任と相続/工作物責任


【正解】

×

●今回のハイライト

 今回の問題では、『損害賠償責任と相続』(判例、711条)、『土地の工作物等の設置または保存の瑕疵(工作物責任)(717条)の二つがテーマになっています。

甲建物の占有者である(所有者ではない。 )Aは,甲建物の壁が今にも剥離しそうであると分かっていたのに,甲建物の所有者に通知せず,そのまま放置するなど,損害発生の防止のため法律上要求される注意を行わなかった。そのために壁が剥離して通行人Bが死亡した。この場合,Bの相続人からの不法行為に基づく損害賠償請求に関する次の記述は,民法の規定及び判例によれば,○か×か。(平成13年)

1.「Bが即死した場合,B本人の損害賠償請求権は観念できず,その請求権の相続

による相続人への承継はない。」

【正解:×

◆『被害者自身の損害賠償請求権』の、相続人への承継 (判例)

 (被害者)・・・相続人
 即死    → 損害賠償請求権の承継
被害者が即死した場合でも,(受傷した瞬間に)損害賠償請求権が発生し,相続人へ承継されます(大審院・大正15.2.16)

  この判例は、即死した場合にB本人の損害賠償請求権がないとすると、即死の場合、損害賠償請求権は相続されないことになり、重傷を負った後に死亡した場合とアンバランスであることから、即死した場合にも被害者本人に損害賠償請求権があることを認めたものです。

Bが即死しないで、重傷を負い後日死亡した場合には、死ぬ前に被害者が重傷を理由として損害賠償請求権を取得し、被害者の死亡により相続人が損害賠償請求権を相続します。(大審院・大正9.4.20) 

2.「Bに配偶者と子がいた場合は,その配偶者と子は,Bの死亡による自己の精神上

の苦痛に関し,自己の権利として損害賠償請求権を有する。」

【正解:

◆生命侵害 : 近親者固有の慰謝料請求権

他人の生命を害した者は、被害者の父母、配偶者および子に対して、それらの者の財産権を侵害しなかった場合でも、損害賠償する必要があります。(民法711条)

 この条文は、被害者の死亡による近親者の精神上の苦痛に関し、近親者の権利として損害賠償請求権(近親者に固有の慰謝料を請求する権利)を有することを定めたものです。

3.「Bの相続人は,Aに対しては損害賠償請求ができるが,甲建物の所有者に対して

は,損害賠償請求ができない。」

【正解:

◆土地の工作物等の占有者および所有者の責任

 甲建物の所有者 
 |
 (占有者)―――――――――――――――(被害者) 死亡
  所有者に通知せず,そのまま放置       
                             Bの相続人

 土地の工作物の設置または保存の瑕疵によって他人に損害が生じたときは、

占有者が損害賠償の責めを負い、

占有者が損害の発生を防止するために必要な注意を尽くしていた場合は、所有者が損害賠償する。(民法717条1項)

 占有者Aは、甲建物の壁が今にも剥離しそうであると分かっていたのに、甲建物の所有者に通知せず、そのまま放置して、損害発生の防止のため法律上要求される注意を行わなかったので、占有者Aには免責事由がなく損害賠償責任を負います。つまり、本設問のケースでは、建物の所有者には損害賠償責任はありません。

 Bの相続人は、占有者Aに対して損害賠償請求することになります。

 占有者の損害発生防止の注意  誰に不法行為責任があるか
 損害発生の防止の

 注意をしていた場合

 →占有者に免責事由がある

 所有者に損害賠償義務。(717条1項後段)
 損害発生の防止の

 注意をしていなかった場合

 →占有者に免責事由がない

 占有者に損害賠償義務。(717条1項前段)

4.「壁の剥離につき,壁の施工業者にも一部責任がある場合には,Aは,その施工

業者に対して求償権を行使することができる。」

【正解:

◆土地の工作物等の設置または保存の瑕疵での求償権の行使

 壁の施工業者 (一部責任がある)
    ↑
 A (占有者)―――――――――――――――(被害者) 死亡

 土地の工作物の設置または保存の瑕疵によって他人に損害が生じ、占有者や所有者のほかに、損害の原因について責任を負う者がいるときは、占有者または所有者はその者に対して求償権を行使することができます。(民法717条3項)

 本設問の設定では、壁の剥離について、壁の施工業者にも一部責任があるので、Aは、Bの相続人に損害賠償したときに、壁の施工業者に求償することができます。


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