Brush Up! 権利の変動編

債務不履行 履行遅滞と解除の問題3 平成10年・問8

正解・解説


【正解】

×

が,に建物を3,000万円で売却した場合の契約の解除に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,誤っているものはどれか。(平成10年・問8)

1.「が定められた履行期に引渡しをしない場合,は, 3,000万円の提供をしないで,

に対して履行の催告をしたうえ契約を解除できる。」
(類:H4-8-2,H8-9-3,H10-8-1,H11-8-1)

【正解:×

◆債務不履行による解除では、債務の本旨に従った履行の提供をして、相手方の同時履行の抗弁権を失わせておく必要がある

 建物の引渡しと代金の支払いは同時履行の関係にあり、Bは、3,000万円の支払いの履行の提供をしないでAに対して履行の催告をしただけで契約を解除することはできません。

 履行遅滞による解除権の発生には、債務者の責めに帰すべき事由による履行遅滞であることが要件とされており、債務者が履行しないことが違法であることが必要です。同時履行の抗弁権がある以上、履行しないことが違法とはいえません。

 債務者が同時履行の抗弁権を有する場合には、債権者は自分の債務の履行を提供しておかなければ解除をすることができません(最高裁・昭和29.7.27)

2.「が建物の引度しを受けて入居したが,2ヵ月経過後契約が解除された場合,

は,に建物の返還とともに,2ヵ月分の使用料相当額を支払う必要がある。」

【正解:

◆解除での原状回復義務−不当利得の返還義務 

 契約が解除されると、解除によって契約は遡及的に消滅し、契約に基づいてすでになされた給付は、法律上の原因を失うため、その契約で受領されたものは不当利得として返還し、原状を回復する義務を生じます。(545条1項)

 受領したものが金銭である場合は、受領の時からの利息をつけて返還します。(545条2項)→(出題・昭和60-4-3)本肢も判例からの出題で、受領したものが金銭のときに利息をつけることとのバランスを図るため、このような場合は、判例では、次のように規定しています。(大審院・昭11.5.11、最高裁・昭和51.2.13など)

 売主A=すでに受領した代金に利息をつけて買主Bに返還する。

 買主B=建物を返還した上で、建物を使用することによって受けた利益を返還する。

 本肢では、買主Bは,売主Aに建物の返還とともに,2ヵ月分の使用料相当額を支払う必要があります。 

3.「が代金を支払った後が引渡しをしないうちに,の過失で建物が焼失した

場合,は,に対し契約を解除して,代金の返還,その利息の支払い,引渡し不能

による損害賠償の各請求をすることができる。」(頻出問題)

【正解:

◆履行不能による契約の解除と損害賠償 

 (売主)----------(買主) 代金を支払い済み
 引渡し未了
 ↓
 Aの過失により建物が焼失 →履行不能

 引渡しをしないうちに、Aの過失により建物が焼失しているので、債務者の過失による履行不能になります。

 この場合、Bは契約を解除して(543条)、原状回復により代金の返還とその利息の支払いを請求することができ、(545条2項)また損害賠償の請求をすることができます。(545条3項)

 履行遅滞での解除とは異なるのは、次の点です

履行の催告は不要

・(履行期前でも)債務者の帰責事由による履行不能が生じた時点で、直ちに解除できる。(出題:昭和60年・問4・肢2, 昭和59.問6.肢3)

履行の全体ではなく一部が不能でも、それによって契約の意味をなさない場合は全体についても解除できる。(出題:昭和61年・問9・肢4)

4.「特約でに留保された解除権の行使に期間の定めのない場合,が,に対し

相当の期間内に解除するかどうか確答すべき旨を催告し,その期間内に解除の

通知を受けなかったとき,は,契約を解除できなくなる。」(類・昭和60-4-4)

【正解:

◆相手方の催告による解除権の消滅 (547条)

 解除権の行使について期間の定めがない場合は、相手方(解除権を行使される側)はいつ解除されるかわからない不安定な状態に置かれます。民法では、この相手方を保護するため、相手方(本肢での売主)は、解除権を有する者(本肢での買主)に対し、相当の期間内に解除するかどうか確答すべき旨を催告し、その期間内に解除の通知を受けなかったときは、解除権は消滅し、解除権を有する者(本肢での買主)は,契約を解除できなくなる、としました。

 547条適用場面

解除権留保の特約(約定解除権)

・履行遅滞における履行の催告での相当期間が満了

・債務者の帰責事由により履行不能を生じた後


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