Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
意思表示の基本問題1 意思の欠缺のアウトライン
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | × | ○ |
●意思の欠缺 ⇒ 意思≠表示,表示に対応する効果意思が欠けている | |
錯誤 | 『意思≠表示』を表意者が知らない。 |
通謀虚偽表示 | 『意思≠表示』を表意者,相手方とも認識している。 |
心裡留保 | 『意思≠表示』を表意者が認識。 |
1.「相手方と通じてなした虚偽の意思表示は,取消すことができる。」
【正解:×】 ◆通謀虚偽表示 通謀虚偽表示(シメシ合わせたウソ。仮装譲渡など)は、取消のできるレベルではなく、「無効」です。 通謀虚偽表示は、もともと相手方とグルになってなし得た意思表示であり、お互いにウソであることを合意しているのですから、相手方を保護する必要はありません。 相手方と通謀して行った虚偽の表示は無効であり、所有権移転の効果も生じないため、仮装譲受人(相手方)に、仮装譲渡された土地や建物などの返還や登記名義の回復を仮装譲渡の譲渡人は請求することができます。 |
●類題 |
1.「相手方と通じて行った虚偽の意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することができない。」 |
【正解 : ○】
A(譲渡人)−通謀虚偽表示−B(譲受人)−C(善意) 通謀虚偽表示の相手方Bがその事情を知らない第三者Cに売却した場合は、登記があるなどの外観を信頼して取引関係に入ったその第三者Cを犠牲にしてまで、仮装譲渡の譲渡人Aを保護する必要はありません。 民法では、通謀虚偽表示の無効は善意の第三者には対抗できないとしています。(94条2項) ▼この第三者には、仮装譲渡の譲受人Bからの転得者だけでなく、Bから仮装譲渡の目的物について抵当権の設定を受けた抵当権者、目的物を差し押さえたBの債権者も該当するとされています。(判例) ●抵当権者 : 大審院・昭和6.10.24 ┌Bから目的物に抵当権の設定を受けた抵当権者(善意) ●差押えた債権者 : 大審院・昭和12.2.9 ┌目的物を差押さえた債権者(善意) |
2.「土地・甲を所有し占有するAが,Bには無断で,土地・甲の登記を便宜上B名義にしていた。CはそれをBが所有しているものと過失なく信じ,Bより買い受けて登記の移転も行った。Aは,Cからの土地の引渡し請求を拒絶できる。」 |
【正解 : ×】
◆94条2項の類推適用 A−虚偽の登記−B−C(善意無過失) AB間には通謀はありませんが、Aは,自らB名義の虚偽の登記をそのままにしており、虚偽の外観を作出しています。 Cはこの虚偽の外観を善意・無過失に信頼してBから買い受けています。 判例は、このような場合に、94条2項を適用して、Aは、所有権があることをCに対して、対抗できないとしました。(最高裁・昭和41.3.18) |
2.「意思表示は,表意者がその真意でないことを知っていて行っていても,原則としてその効力は有効である。」 |
【正解:○】 ◆心裡留保 表意者がその真意でないことを知っていても、他人はそのことを知りようもないので、その真意を信じている者を保護する必要があり、その表示はそのまま有効となります。 しかし、真意でないことを他人が知っていたとき(悪意), 不注意で知らなかったとき(有過失)は、 その他人を保護する必要はありませんので、「例外として無効」になります。(93条) ▼『裡』という字 もともとは『裏』(り,うら)の俗字。「内側」,「内部」という意味で使われた。『理』とは語義が異なる。 |
●類題 |
1.「Aが真意では買い受けるつもりがなく,Bから土地を買い受ける契約をした場合において,Bは注意すればAの真意を知ることができたときは,その契約は無効である。」 |
【正解 : ○】
心裡留保は,原則として有効ですが,相手方が悪意または有過失のときは,無効になります。(93条) |
3.「意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは無効であるが,その表意者が無効の意思表示をしなくても,その相手方は,無効を主張することができる。」 |
【正解:×】 ◆錯誤による無効は誰が主張できるか 錯誤の主張をするには、以下の三つが揃っていないと主張できません。
要素の錯誤を理由の無効は、あくまでも表意者の保護が目的であり、表意者にその無効を主張する意思がない場合、その相手方が無効を主張することはできません(判例)。 |
●類題 | |
1.「要素に錯誤のある意思表示をした者が無効を主張せず,かつ,その意思もない場合は,原則として,第三者はその無効を主張できない。」 | |
【正解 : ○】
◆錯誤による無効を第三者は主張できるか 錯誤による無効の主張は表意者を保護するためのものであって,表意者が主張する意思がないときは相手方や第三者は無効を主張することはできません。(最高裁・昭和40.9.10)
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4.「法律行為の要素に錯誤がある意思表示は無効であるが,表意者に重過失があるときは,表意者が自らその無効を主張することはできない。」(昭和46,50年出題) |
【正解:○】 ◆要素の錯誤があっても,重過失があるときは,無効の主張はできない 法律行為の要素に錯誤があっても,表意者が無効であることを主張できない場合があります。それが重過失のあるときです。(95条但書) これは、「つい、ウッカリ」というレベルの過失ではありません。「とんでもない勘違い」といったほうがいいかもしれません。普通ならば特別な注意を払わなくてもワカルはずのものなのに思い違いをしてしまったようなケースです。 このようなケースでは、相手方を犠牲にしてまで表意者を保護する必要もなく、表意者には勘違いの責任をとってもらうことになります。 表意者に重過失がある場合、表意者は要素の錯誤があっても無効は主張できず、意思表示は“有効”になります。 ▼通説では、表意者に重過失があっても、そのことを相手方が知っていたときは、相手方は保護するに足りず、そのような場合は、表意者は錯誤による無効を主張できるとされています。 ▼同一の事をしても重過失と認められるものは人によって変わる可能性があります。専門性の強い取引では、一般人よりもその取引に知識・能力のあるはずの人が初歩的な誤りを犯したような場合では重過失と認められやすいようです。 |
●類題 |
1.「宅建業者が,他人所有の土地を錯誤により自己の所有だと思って第三者に売却したときは,この売買は無効である。」 |
【正解 : ×】
1.錯誤は成り立つか 他人所有の土地を自己の所有だと思い込んで売ったのは要素の錯誤です。しかし,宅建業者という不動産のエキスパートであるはずなのに,そのような錯誤をしたというのは重過失があった可能性があります。〔一般の人ならば,また話は別になりますが。〕 → 宅建業者なので,このケースは地番を確認すれば,防ぐことができたはず。 2.他人物売買 民法では,他人物売買も有効であるため(560条),他人のものだったからといって無効になるとは言えません。契約が有効に成立する場合もあります。実際,他人物売買で係争になっているものの中には類題にあげたようなケースがあります。〔他人物売買は宅建業法で原則として禁止されているはず、などと考えると深みにハマリます。〕 したがって,この売買が,錯誤によって無効だとは言えません。 |