Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
意思表示の基本問題2 瑕疵ある意思表示のアウトライン/隔地者の意思表示の効力発生
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | ○ | ○ |
●瑕疵ある意思表示 ⇒ 意思と表示は一応一致しているが, 意思形成過程に,他人の違法行為が介在している |
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詐欺 | 他人の違法な欺罔行為によって,表意者が錯誤に陥り,意思表示 |
強迫 | 他人の違法な強迫行為によって,表意者がそれを免れようとして意思表示 |
1.「詐欺による意思表示は取消すことができるが,この取消をもって善意の第三者に対抗することはできない。」 |
【正解:○】 ◆詐欺 強迫による意思表示の取消の場合は取消前の第三者に対抗できますが、詐欺による意思表示の取消の場合は、取消前の第三者に対抗できません。 詐欺を理由に取り消したことによって、初めから所有権は移転していなかったことになり、譲渡したものは取り返すことができるはずですが、取消前に善意の第三者が出現すると、取り返すことはできなくなります。 ▼この場合、表意者は相手方に損害賠償を請求することはできますが、詐欺を働く位ですから当然、無資力であることが予想され、取り戻すことは難しいでしょう。 |
●類題 |
1.「相手方の詐欺によって意思表示をした者は,善意の第三者が現れても,相手方に対しては取消を主張できる。」 |
【正解 : ○】
取消前なので,本肢の第三者は『取消前の第三者』になります。 表意者は,取消前の善意の第三者には対抗できないだけであって,当然,当事者間では,つまり相手方には取消を主張できます。 |
2.「相手方の詐欺により意思表示をした者は,重大な過失があっても,その意思表示を取り消すことができる。」 |
【正解 : ○】
重過失があると錯誤による無効を主張することはできませんが,詐欺の場合は,表意者に重過失があっても取り消すことができます。 |
2.「強迫による意思表示は取り消すことができるが,取消しをもって善意の第三者に対抗することはできない。」 |
【正解:×】 ◆強迫 強迫では、詐欺と異なり、強迫されて行った意思表示の取消は取消前の第三者に対抗できます。(96条3項の反対解釈) |
●類題 |
強迫されて行なった意思表示は,常に取り消すことができる。(昭和46年) |
【正解 : ○】
強迫による意思表示は常に取り消すことができます。(96条・1項) (詐欺の場合は,第三者による詐欺では相手方がそのことに悪意のときにのみ取り消しができるので,詐欺による意思表示は常に取り消すことができるとは言えません。) 詐欺・強迫は、他人の違法行為によって意思決定の自由を妨げられた意思表示なので、取消権を与えられています。 ▼強迫とは,相手方が違法な害悪を示し,表意者が畏怖して,害悪から免れようとして為した意思表示のことです。詐欺が任意によりダマされていることに比べると,意思形成過程が歪められている度合いが強く,取消前の善意の第三者にも対抗できるなど詐欺と相異点があります。 |
3.「隔地者に対する意思表示は,その通知が相手方に到達したときにより効力が生じるが,表意者が意思表示を発した後に死亡しても,その効力に変わりない。」(類・昭和46年) |
【正解:○】 ◆到達主義 隔地者に対する意思表示は,表意者と相手方の利害を調整するため、効力の発生時期は「到達主義」が原則となります。(97条1項)
また到達は客観的な事実なので、その事実が生ずるには、表意者の権利能力や行為能力については問題とされず、表意者が死亡の場合はその相続人、行為能力喪失の場合はその法定代理人が承継します。 したがって、表意者が発信後に死亡したり、行為能力を喪失した場合でも、意思表示はその効力を妨げられることはありません。 |
●類題 |
AがA所有の土地をBにだまされて売り渡し,その後契約を取り消す旨の手紙を出したが,その到達前にAが死亡した場合,取消の効果は生じない。 |
【正解 : ×】
意思表示を発信した後に、表意者が死亡したり行為能力を喪失したとしても、発信した意思表示はその影響を受けません。 本肢では取消の意思表示が到達しているので、Aの取消の効果が生じ、AB間の売買契約は取り消されたことになります。 |
●関連問題 |
1.「Aが意思表示を相手方Bに発信した後,相手方が死亡した場合,Aの意思表示はBの相続人Cにつき,当然その効力を生じる。」 |
【正解 : ×】
◆到達前に相手方が死亡→当然には,効力を生じない 民法は原則として到達主義をとっており,Aの意思表示が到達する前にBが死亡している(B本人に届いていない)以上,AとBとの間には,法律関係は生じていません。 相続人は,被相続人の一切の権利・義務を承継しますが,何の効力も生じていないものが相続人に対しても当然その効力を生ずるとは解しがたく,本肢は×になります。 ▼原則としては,上記のようになりますが,Aの意思表示の内容が相続人Cが承継する性質の場合は,相続人にも効力を生じます。 |
2.「隔地者間の意思表示において,意思表示が相手方に到達した後は,その意思表示は,原則として,取り消すことができない。」 |
【正解:○】
◆到達後は撤回できない 民法は原則として到達主義をとっており,意思表示到達後は,原則として,表意者は意思表示を撤回することができなくなります。 ▼到達前であれば,撤回は可能です。〔遅くとも先の意思表示と同時に到達することが必要〕 |
3.「隔地者間の意思表示において,相手方に到達したと認められるためには,相手方が現実にその内容を了知したことが必要である。」 |
【正解:×】
◆到達 : 相手方の支配領域内に到達 判例では,その通知の有無や内容を現実に了知することは必ずしも必要ではなく,意思表示が相手方の支配領域内に到達し,相手方に了知可能な状態に置かれていれば足りる,としています。(最高裁・昭和36.4.20) また,相手方が正当な理由なく,通知の受領を拒絶した場合でも,『本来到達すべかりし時』に到達したことになり,その効力を生じる,としています。(最高裁・昭和11.2.14) |
4.「意思表示の相手方が受領当時,被保佐人または被補助人であった場合には,表意者は意思表示がなされたことを相手方に対抗することはできない。」 |
【正解:×】
◆相手方 : 被保佐人または被補助人が受領したとき 制限行為能力者の中でも,被保佐人や被補助人には,『意思表示の受領能力』が認められています。したがって,表意者は,相手方が受領当時被保佐人や被補助人であったときには,意思表示がなされたことを,相手方に対抗できます。 しかし,未成年や成年被後見人には受領能力は認められていません。(98条の2)この場合は,法定代理人が知った段階で意思表示の到達があったものとされています。(98条の2但書) |
4. 「隔地者間の契約は,承諾の通知を発したときに成立する。」
【正解:○】 ◆承諾での発信主義 ”意思表示”は、前問のように「相手方に到達」することにより効力を生じるのが原則ですが、”契約の成立”は簡易・迅速の要望があり、承諾の通知は、「発信主義」が取られています。 |