Brush Up! 権利の変動篇

正解・解説

意思表示の基本問題3 平成10年・問7


【正解】

×

が,所有の土地をに売却する契約を締結した場合に関する次のそれぞれの記述は,○か×か。 (平成10年・問7)

1.「に対する売却の意思表示がCの詐欺によって行われた場合で,がそのによる詐欺の事実を知っていたとき,は,売却の意思表示を取消すことができる。」

【正解:

◆第三者の詐欺

         (第三者)
         ↓詐欺
  (売主) ― (買主)

 第三者の詐欺により意思表示をした者は、その相手方が詐欺の事実を知っていたとき(悪意の者という)、または、その意思表示は取消すことができます(民法第96条2項)

2.「に対する売却の意思表示がBの強迫によって行われた場合,は,売却の意思表示を取消すことができるが,その取消をもって,からその取消前に当該土地を買い受けた善意のには対抗できない。」(類・平成元年)

【正解:×

◆強迫 : 取消前の第三者

 (売主)←強迫−(買主)−(善意の第三者)
 
取消

強迫による意思表示の取消をもって、善意の第三者に対抗できます
(第96条3項の反対解釈)

 参考までに、詐欺による取消の場合は、その取消をもって善意の第三者に対抗できません。つまり、詐欺よりも強迫の方が犯罪性が強いからという考えもありますが、詐欺にひっかかる者(思慮の足りない者)より、意思の弱い者の方を保護すべきという考え方も法曹界にはあるようです。

※「強迫」と「脅迫」は違いますので、注意してください。

●類題
が土地をに強迫されて譲渡し,さらにがその事情を知らないに転売し,それぞれ所有権移転登記を経由した。は,に取消の意思表示をすれば,に対し,その登記の抹消を請求できる。
【正解 :

 (売主)←強迫−(買主)−(善意の第三者) 移転登記
 
取消----------------AはCに,所有権移転登記の抹消請求

 強迫を理由とする取消は,善意の第三者にも対抗することができました。

は,に対し,その所有権移転登記の抹消を請求することができます。

3.「が,自分の真意ではないと認識しながらに対する売却の意思表示を行った場合で,そのの真意を知っていたときは,売却の意思表示の無効を主張できる。」

【正解:

◆心裡留保 : 相手方が悪意・有過失ならば無効になる

真意でない意思表示のことを心裡留保といい、一種のウソ・ジョウダンを言った場合などが該当します。

 たとえ本人が真意でない意思表示をしても、他人はその意思表示が本人による“ウソ”であるとは知らないため、原則として、その意思表示は有効です(第93条本文)。

 しかし、その相手方が、「本人はウソ(ジョウダン)を言っている」など、本人の真意でないことを知っている場合(悪意)や、通常の注意を払えば真意でないことを知ることができたはずだという場合(過失)は、その相手方を保護する必要はなく、本人はその意思表示の無効をもって主張できます(第93条但書)。

●類題
1.「は,贈与の意思がないのに,所有の分譲マンションをに贈与する旨の意思表示をした。がこれを自分のものとしてに売り渡した。が善意無過失でも,が悪意であれば,は所有権を取得できない。」
【正解 : ×

 −心裡留保−(善意無過失)−(悪意の第三者) 

 心裡留保は,相手方が善意無過失のときには有効であり,からの転得者〔第三者〕が悪意でも,は有効に権利を取得します。(93条)

4.「に対する売却の意思表示につき法律行為の要素に錯誤があった場合,は,売却の意思表示の無効を主張できるが,に重大な過失があったときは,無効を主張できない。」

【正解:

◆錯誤 : 重過失があるときは無効の主張はできない

法律行為の要素に錯誤(ウッカリ・勘違い)があった場合、その表意者を保護する必要があるため、その表意者は無効を主張できるのが原則です(第95条本文)

 しかし、その意思表示をするにつき「重大な過失」があったとき、重過失を犯した者までは法律で保護するわけにはいかないため、その者は無効をもって主張できません(第95条但し書き)

 但し“錯誤(ウッカリミス・勘違い)”であるか“重大な過失”であるかは、裁判において判断されることになります。

ただし,“重大な過失”があっても,『相手方が悪意の場合』,『相手方の詐欺による錯誤の場合』は例外として無効の主張はできるとされています。(通説)

正常ではない意思表示
意思の欠缺 心裡留保(93条)

虚偽表示(94条)

錯誤(95条)

無効
瑕疵ある意思表示 詐欺(96条)

強迫(96条)

有効だが、取り消すことができる

最近の動向では、「意思の欠缺」と「瑕疵ある意思表示」の区別に疑問を持つ法律学者

も出ています。

意思の欠缺
心裡留保 相手方が悪意・有過失では無効

相手方が善意無過失では有効

相手方のない意思表示では有効

善意の第三者に対抗できない
虚偽表示 当事者間では無効 善意の第三者に対抗できない
錯誤 原則として

錯誤無効は本人のみ主張できる。

取消的無効

例外的に、第三者に無効の主張を

認める要件

1表意者が錯誤を認めていること

2当該第三者が表意者に対する債権

を保全する為に必要

(判例.昭和45.3.26)

善意の第三者に対抗できる

要素の錯誤があり、かつ重過失がない

ことが要件となる。

(重過失がないことについては、

相手方が悪意、

相手方の詐欺によって錯誤の場合

には適用されない。[通説])

瑕疵ある意思表示(詐欺と強迫の違い)96条
強迫 (126条)取消権は

追認をなし得る時より5年

行為より20年経つ消滅

取消しでき、かつ善意の第三者に対抗できる。
詐欺 取消しはできても善意の第三者には対抗できない。(3項)

第三者が詐欺を行った場合は相手方が悪意の場合のみ取り消し得る。(96条2項)

追認をなし得る時とは、詐欺・強迫を脱した後を意味する。(124条1項)

【番外知識】 詐欺による取消しと錯誤による無効とどちらがトクか?

詐欺は、欺罔行為によって表意者の錯誤をもたらすものであるため、その錯誤が要素の

錯誤になる場合には、詐欺の要件と錯誤の要件をともに満たすことがありえます。

この場合はどちらを選択してもよいとされています。

 「詐欺による取消しでは善意の第三者に対抗できないが、

錯誤による無効だと第三者に対抗できる」ために、錯誤による無効を主張したほうが

トクだと言われています。


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