Brush Up! 権利の変動篇
共有の過去問アーカイブス 平成13年・問1
A・B・Cが,持分を6・2・2の割合とする建物を共有している場合に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成13年・問1) |
1.「Aが,B・Cに無断で,この建物を自己の所有としてDに売却した場合は,その売買契約は有効であるが,B・Cの持分については,他人の権利の売買となる。」 |
2.「Bが,その持分に基づいて単独でこの建物全部を使用している場合は,A・Cは,Bに対して,理由を明らかにすることなく当然に,その明渡しを求めることができる。」 |
3.「この建物をEが不法占有している場合には,B・Cは単独でEに明渡しを求めることはできないが,Aなら明渡しを求めることができる。」 |
4.「裁判による共有物の分割では,Aに建物を取得させ,AからB・Cに対して適正価格で賠償させる方法によることは許されない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
●コメント |
この平成13年の問題は4問中3問が判例から出題されており、条文の知識としては肢3のみ。共有は比較的よく出題されている学習単元(ほぼ三年に一回出題)ですが,他の単元での今後の出題方法を見る上でも瞠目に値する問題であったと思われます。 自己採点の結果では、本問題の正答率は50%を超えています。 |
1.「Aが,B・Cに無断で,この建物を自己の所有としてDに売却した場合は,その
売買契約は有効であるが,B・Cの持分については,他人の権利の売買となる。」
【正解:○】 ◆共有者の一人が無断処分 原則 共有者Aは自己の持分については自由に処分することができますが、B・Cの持分を処分することはできません。 判例 共有者の一人Aが,他の共有者B・Cに無断で,この建物を自己の単独所有として第三者Dに売却した場合でも、売買契約そのものは有効です。(最高裁・昭和43.4.4) DはAの持分については取得しますが、B・Cの持分については、他人の権利の売買(他人物売買)であることから、B・Cに対してはこのままでは権利を主張することはできません。この後は、AがB・Cから持分を取得することになります。→他人物売買の担保責任 |
2.「Bが,その持分に基づいて単独でこの建物全部を使用している場合は,A・Cは,
Bに対して,理由を明らかにすることなく当然に,その明渡しを求めることができる。」
【正解:×】 ◆共有物の使用−共有者の一人が単独使用しているとき 原則 各所有者はその持分に応じて共有物の全部を使用することができ、使用・収益の方法は共有者全員の協議によります。(249条、大審院・昭和13.2.8) 判例 しかし、判例では、この協議がされずに、共有者の一人が共有物を単独で占有して使用している場合でも、占有している共有者にも持分があって共有物全体を使用する権利があるため、当然には共有物の明渡しを請求することはできないとしています。(最高裁・昭和41.5.19) 〔明渡し請求は、その共有者の使用禁止を意味し、持分権を否定することになる。〕 この場合の対処としては、 ・持分権侵害を理由に損害賠償を求める などが考えられます。 ▼もし約定に反した使用をしていたり、他の共有者の使用収益を妨害しているなどであれば、各共有者が単独で差止請求をすることもできます。(大審院・大正8.9.27、大正11.2.20) |
3.「この建物をEが不法占有している場合には,B・Cは単独でEに明渡しを求める
ことはできないが,Aなら明渡しを求めることができる。」
【正解:×】 ◆保存行為 共有物の現状を維持するための以下の行為は各共有者が単独ですることができます。(252条) ・共有物の補修・修繕 したがって、「AならできてB・Cはできる」ということはないため、×になります。確かにAは持分は6/10で、共有者の持分の中では過半数を占めていますが、保存行為は、この持分割合には関係なくできるため、誰でも明渡しを求めることができます。 |
●共有物の保存・管理・変更 | ||
保存行為 | 共有物の現状を維持する行為 | 単独でできる |
管理行為 | 使用方法の協議
利用行為 (収益を図る) 改良行為 (経済的価値を増加) |
共有者の持分の価格に従い,
その過半数で決定する |
変更行為 | 物理的な変更
法律的な処分 |
全員の同意が必要 |
4.「裁判による共有物の分割では,Aに建物を取得させ,AからB・Cに対して
適正価格で賠償させる方法によることは許されない。」
【正解:×】 ◆裁判による分割−全面的価格賠償 共有者全員での分割の協議が調わないときは裁判所に分割を請求することができます。(258条1項) 裁判所による分割は、原則は現物分割ですが、事情に応じて柔軟な処理が行われています。
本肢の分割方法は、この中の価格賠償の一つで判例により近年認められたものです。
この全面的価格賠償の判例は、この後にも出されています。(例・最高裁・平成11.4.22) ▼裁判による分割では、このほかに、現物を分割することができない場合又は分割により著しく価格が低下するおそれがある場合は,裁判所がその競売を命じて(258条2項)、その代金を分ける方法もあります。→出題・昭和60年・肢3 |