Brush Up! 権利の変動篇 借地借家法
借地権の過去問アーカイブス 平成3年・問12
火災による滅失と再築・借地権の譲渡の裁判所の許可・
建物買取請求権と債務不履行解除・地代の先取特権
AがBの所有地を賃借して居住用家屋を所有している場合に関する次の記述のうち,民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば,正しいものはどれか。(平成3年・問12) |
1.「Aは,家屋が火災により滅失したときは,新築することができ,その建物が借地権の残存期間を超えて存続するものであっても,Bは異議を述べることができない。」 |
2.「Aは,家屋と借地権を他に譲渡しようとするときは,Bの承諾又はこれに代わる裁判所の許可を得なければならない。」 |
3.「Aは,借地権が消滅した場合において,家屋があるときは,自らが債務不履行のときでも,Bに対し家屋の買取りを請求することができる。」 |
4.「Bは,弁済期が到来した借賃のうち最後の1年分についてのみ,Aの家屋の上に先取特権を有する。」 |
【正解】2
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | × | × |
AがBの所有地を賃借して居住用家屋を所有している場合に関する次の記述のうち,民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば,正しいものはどれか。 |
1.「Aは,家屋が火災により滅失したときは,新築することができ,その建物が借地権
の残存期間を超えて存続するものであっても,Bは異議を述べることができない。」
【正解:×】借地借家法の創設により、改題。
◆借地権の消滅前に、家屋が火災により滅失 当初の存続期間中に建物が滅失した場合、借地権者Aは原則として建物を再築することができます。(ただし、増改築禁止特約や借地条件の変更がないものとします。) 借地権の存続期間が満了する前に、建物の滅失により、残存期間を超えて存続する建物を再築する場合は、Aは土地の所有者Bの承諾を得るか、Bに事前に通知しなければなりません。(借地借家法・7条1項、2項) その建物を再築することについて土地の所有者Bの承諾があったときには、承諾があった日または建物が再築された日のいずれか早い日から借地権は原則として20年間存続します。〔残存期間がこの20年より長い時、もしくは、当事者がこれより長い期間を定めたときはその期間。〕 また、借地権者Aが土地の所有者Bに建物を再築することを通知したときは、土地の所有者Bは通知を受けて2ヶ月以内に限り、異議を述べることができます。Bが異議を述べた場合は、借地権は残存期間のみ存続し、存続期間の延長はありません。〔異議を述べなかった時には、Bの承諾があったものとみなされます。〕この場合でも、当初の期間が満了したときには、借地契約の更新は原則として可能です。土地の所有者Bが承諾しなかったことが、更新拒絶の正当事由の一要素にはなりますが、それだけでは正当事由とは認められていません。 |
●類題 |
1.「Aは, B所有の土地を賃借し,その上に建物を所有している。借地借家法の規定によれば,Aの建物が借地権の期間満了前に類焼によって焼失した場合,借地権は消滅する。」(昭和57年) |
【正解:×】 建物が借地権の存続期間満了前に滅失しても、借地権は消滅するわけではありません。(借地借家法・7条1項、2項) ▼建物の滅失 地震・火災・風水害などによる倒壊、損傷、流失、焼失など。(建物の朽廃を含む) |
2.「Aは,家屋と借地権を他に譲渡しようとするときは,Bの承諾又はこれに代わる
裁判所の許可を得なければならない。」
【正解:○】
◆借地上の建物の譲渡に伴う借地権の譲渡または転貸の裁判所の許可 B(土地の賃貸人) [借地権の譲渡・・・Aの借地権が賃借権または、譲渡禁止の特約の地上権の譲渡]、 [転貸・・・Aが転貸人となり、Cに又貸し] 賃借人Aは賃貸人Bの承諾がなければ、賃借権を他人に譲渡したり、転貸することはできません。(民法612条) ただし、賃貸人Bの不利となる恐れがないのに、借地上の建物の譲渡に伴う借地権の譲渡または転貸を賃貸人Bが承諾しないときには、賃借人Aは、Bの承諾に代わる裁判所の許可を得て、譲渡または転貸することができます。(借地借家法19条1項) ▼この裁判所の代諾許可は建物賃貸借の転貸には準用されないことに注意。(H1-13-2) |
●⇔対比問題 |
1.「Aは,その所有する建物をBに賃貸した。Bが建物を第三者Cに転貸する場合,Aの承諾を得る必要があるが,Aが承諾を与えないときは,Bは,Aの承諾に代わる許可の裁判を裁判所に対して申し立てることができる。」(昭和60) |
【正解:×】 ◆建物の転貸の貸主の承諾に代わる裁判所の許可はない A(建物の賃貸人) 借地権の譲渡・転貸と異なり、借家の場合には、賃貸人の承諾に代わる許可の裁判を裁判所に申し立てることはできません。 |
●借地権の譲渡・転貸 | ||||||
B(借地権設定者、土地の所有者) | A(借地権者)・・・C(借地上の建物を取得) [借地権の譲渡・・・Aの借地権が賃借権または、譲渡禁止の特約の地上権の譲渡]、 [転貸・・・Aが転貸人となり、Cに又貸し] 1) 借地権の譲渡・転貸
2) 建物買取請求権 Cの借地上の建物の取得が、売買による場合、競売による場合、どちらでも、Cは Bに対して、建物等を時価で買い取るように請求できる。 |
3.「Aは,借地権が消滅した場合において,家屋があるときは,自らが債務不履行の
ときでも,Bに対し家屋の買取りを請求することができる。」
【正解:×】
◆建物買取請求権 民法では、借地権が消滅するにあたり、借地権者は建物等を収去して土地を返還しなければいけません。(民法616条、598条)これを借地借家法では修正し、建物の保護と借地権者の投下した資本の回収を図るため、借地権者に『建物買取請求権』を認めました。この規定に反するもので、借地権者に不利な特約は無効になります。(一般定期借地権、事業用定期借地権を除く) 借地権の存続期間が満了し、借地契約の更新がない場合において、建物があるときは、借地権者Aは、土地の所有者Bに対して建物を買い取るように請求できます。(借地借家法13条1項)この建物買取請求権は形成権のため、この行使によって当然に売買契約が成立します。 ただし、この建物買取請求権は、借地権者に債務不履行があって借地契約を解除されたときには、行使できません。(最高裁・昭和35.2.9) ▼注意!! 建物買取代金の支払いと土地の明渡しは同時履行の関係に立ちます。 |
●参考知識 |
借地権者が建物買取請求権を行使した場合において、もし契約期間の満了前に土地の所有者の承諾なく、契約の残存期間を超えて存続するべきものとしてこの建物が新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者(土地の所有者)の請求により、代金の全部または一部の支払いについて相当の期限を許与することができます。(借地借家法13条2項) |
●建物買取請求権 | ||
1) 借地権者・転借地権者の建物買取請求権
借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないとき 借地権者(一般定期借地権、事業用定期借地権を除く) B(借地権設定者、土地の所有者)
転借地権者(一般定期借地権、事業用定期借地権を除く) B(借地権設定者、土地の所有者) 借地権の存続期間が満了した場合における転借地権者も、借地権設定者に『建物買取請求権』を行使できます。
2) 第三者の建物買取請求権 第三者が、賃借権の目的である土地の上の建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を取得した場合において、借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないとき [借地権の譲渡・・・Aの借地権が賃借権または、譲渡禁止の特約の地上権の譲渡]、 [転貸・・・Aが転貸人となり、Cに又貸し] B(借地権設定者、土地の所有者) Cの借地上の建物の取得が、売買による場合、競売による場合、どちらでも、Cは Bに対して、建物等を時価で買い取るように請求できる。 |
4.「Bは,弁済期が到来した借賃のうち最後の1年分についてのみ,Aの家屋の上に
先取特権を有する。」
【正解:×】
◆借地権設定者の先取特権 借地権設定者(土地の所有者B)は、弁済期の到来した地代等のうち、最後の2年分について、借地権者がその土地において所有する建物の上に先取特権を有します。(借地借家法12条1項) ▼この先取特権は、地上権または土地の賃貸借の登記をすることによって効力を保存するとされています。(借地借家法12条2項) |