Brush Up! 権利の変動篇 

借地借家法の過去問アーカイブス 平成8年・問12

借家権 期間の定めのない建物賃貸借


に対して所有の建物を期間を定めないで賃貸した場合に関する次の記述は,借地借家法及び判例によれば,○か×か。(平成8年・問12)

1.「は,に対して,解約の申入れの日から6月を経過しないと建物の明渡しを請求することができない。」

2.「に対し解約の申入れをしても,6月経過後のの建物使用についてが遅滞なく異議を述べないときは,契約は更新されたものとみなされる。」

3.「に対し解約の申入れをするため必要な正当の理由は,解約の申入れ時に存在すれば足り,6月経過後には存在しなくてもよい。」

4.「に対し解約の申入れをするため必要な正当の理由は,の自己使用の必要性のほかに,に対し建物の明渡しの条件として金銭を支払う旨のの申出をも考慮される。」

【正解】

×

◎期間の定めのない賃貸借では,「建物所有のための土地」と「建物」で扱いが異なる。

●期間の定めのない賃貸借
 建物   定期賃貸借ではない、「一年未満の賃貸借」も、期間の定めのない賃貸借と
 みなされる。
 (→借地借家法で考えるが、賃借人からの解約申入れは民法で考える。)

 賃貸人からの解約の申入れには正当事由が必要であり,解約の申入れから
 6ヵ月の経過で終了する。賃借人からの解約の申入れの場合は3ヵ月の経過
 により終了する。

 土地  定めがないときは、借地権の存続期間は、自動的に30年になる。
 (→借地借家法で考える。)

 期間の定めのない建物所有のための借地権は存続期間30年として
 考える。

1.「は,に対して,解約の申入れの日から6月を経過しないと建物の明渡しを請求する

ことができない。」

【正解:

◆解約申入れ

 期間を定めないで賃貸→解約の申入れによって終了(借地借家法27条1項)

 賃貸人からの解約申入れでは、6月を経過することで賃貸借契約は終了します。

<参考>

 期間の定めのない賃貸借で賃借人からの解約申入れの場合は、借地借家法には規定がなく、民法の原則に立ち戻り、解約の申入れより3月経過すると終了します。(民法617条1項)

◆解約の申入れ

 賃貸人  正当事由ある解約の申入れをしたときは、
 申入れの日から6ヵ月を経過しないと
 賃貸借契約は終了しない。
 賃借人  解約の申入れより3月経過すると終了

◆対比

 期間の定めのない

 賃貸借

 賃貸人からの解約申入れには正当事由が必要であり,
解約の申入れから6ヵ月を経過すると賃貸借契約は終了。

 賃借人からの解約申入れには正当事由が必要との規定
はなく,特約がなければ,解約の申入れから3ヵ月を経過
すると賃貸借契約は終了する。

 期間の定めのある

 賃貸借

 賃貸人からの更新拒絶には正当事由が必要であり,
期間満了の1年前から6ヵ月前に通知しなければならない。

 賃借人からの更新拒絶には正当事由が必要との規定
はなく,特約がなければ,期間満了の1年前から6ヵ月前に
通知しなければならない。

2.「AがBに対し解約の申入れをしても,6月経過後のの建物使用について

遅滞なく異議を述べないときは,契約は更新されたものとみなされる。」

【正解:

◆解約申入れ後のみなし法定更新

 いくら6ヶ月前に解約の申入れをしても6月経過後のの建物使用の継続についてが遅滞なく異議を述べないときは、契約は更新されたものとみなされます。なお、この異議を述べる場合には、「正当事由は要求されていない」ことに注意してください。

 (借地借家法27条2項・26条2項)

3.「に対し解約の申入れをするため必要な正当の理由は,解約の申入れ時に存在

すれば足り,6月経過後には存在しなくてもよい。」

【正解:×

◆正当事由はいつまで存在していなければいけないか

 解約申入れに必要な正当事由はいつ存在しなければいけないかという問題については、旧・借家法時代の判例ははっきりしていないという議論があります。

  しかし、(判例を解釈する)学説としては、「解約申入れのときから口頭弁論終結時まで正当事由が存続することを要する」というのが有力な見解とされています。

 本肢では,正当事由は解約の申入れ時点のみではなく契約の終了時点(解約の申入れから6ヶ月後)にも必要であるとして出題されたものと思われます。

4.「に対し解約の申入れをするため必要な正当の理由は,の自己使用の

必要性のほかに,に対し建物の明渡しの条件として金銭を支払う旨のの申出

をも考慮される。」

【正解:

◆立退料の提供または増額の申出−正当事由の判断材料の一つにはなる

 建物の賃貸人による更新拒絶の通知、または解約の申入れは、

1) 賃貸人及び賃借人(転借人を含む)が建物の使用を必要とする事情

2) 建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況

3) 建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引き換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申し出

 を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

(借地借家法28条の抄文)

 旧・借家法時代には,解約申入れ後に立退料の提供またはその増額をもって当初の正当事由を判断することができる旨の判例があったとされています。(最高裁・平成3.3.22)

□■□ ま と め □■□

◆期間満了による終了の通知・賃貸人からの更新拒絶の通知・解約の申入れ

混同しないようにしましょう!! (混同する人が多いので注意)

 定期建物賃貸借・・・・期間満了による終了の通知

 期間の定めのある建物賃貸借・・・賃貸人からの更新拒絶の通知

 期間の定めのない建物賃貸借〔期間一年未満の建物賃貸借〕・・・解約の申入れ

定期建物賃貸借  期間満了の1年前から6ヵ月前までの間に
 期間満了の通知をしなければならない。

 通知期間の間に通知しないと終了を賃借人に
 対抗できない。

 通知期間の経過後に通知した場合は、
 その通知の日から6ヵ月が経過すると終了。

期間の定めのある建物賃貸借  期間満了の1年前から6ヵ月前まで
 の間に更新拒絶または、条件を変更しなければ
 更新しない旨の通知。
 更新拒絶の通知には、正当事由が必要。

 更新しない旨の通知をしないときは、同一条件で
 更新したものとみなされ、期間の定めのない賃貸借
 になる。

期間の定めのない建物賃貸借

〔期間一年未満の建物賃貸借〕

 正当事由ある解約の申入れをしたときは、
 申入れの日から6ヵ月を経過しないと
 賃貸借契約は終了しない。

◆賃借人からの更新拒絶の通知・解約の申入れ

定期建物賃貸借  解約の申入れから1ヵ月経過すると終了。

 (やむを得ない理由により、自己の生活の本拠

 として使用することが困難となったとき)

期間の定めのある建物賃貸借  特約がなければ期間満了の1年前から6ヵ月前まで
 の間に更新拒絶または、条件を変更しなければ
 更新しない旨の通知。

 (借地借家法の26条では、当事者になっていて、
 賃貸人・賃借人とも該当する。しかし、30条により、
 賃借人に有利な特約ならば有効なため、通常は、
 「期間満了の1年前から6ヵ月前まで」という期間
 は、賃借人の場合は特約で短縮されている。)

期間の定めのない建物賃貸借

〔期間一年未満の建物賃貸借〕

 解約の申入れより3月経過すると終了

◆例外的な「解約の申入れ」と「解除」

賃貸人 ・賃貸人の承諾を得ない賃借権の譲渡または転貸による解除(612条2項)

・借賃の遅延〔債務不履行・履行遅滞541条〕、使用目的違反(信頼関係が破壊
された場合)による解約の申入れ

賃借人 ・賃借人の意思に反する保存行為により賃借の目的が達成できない場合の
解除(607条) 

・賃借人の過失によらない一部滅失により賃借の目的が達成できない場合の
解除(611条)

●一時使用の建物の賃貸借

一時使用のための賃貸借では借地借家法は適用されず,民法の賃貸借の規定で考えることになります。(借地借家法・40条)→平成2年出題

 期間の定めのある一時使用の賃貸借・・・民法604条,黙示の更新619条

 期間の定めのない一時使用の賃貸借・・・民法617条,黙示の更新619条

 民法の
 期間の定めのない賃貸借

 〔期間の定めのない
  一時使用の賃貸借〕

 解約の申入れには正当事由はいらない
 賃貸人・賃借人どちらから解約を申入れても
 3ヵ月の経過により終了する。
 借地借家法の
 期間の定めのない賃貸借
 賃貸人からの解約には正当事由が必要。

 契約が終了する時期は以下のとおり。
 賃貸人からの解約の申入れから6ヵ月の経過
 賃借人からの解約の申入れから3ヵ月の経過

→ 旧・借家法時代では,一時使用の賃貸借に該当するかどうかをめぐって係争になることが多かったが,現行の借地借家法では,定期建物賃貸借(38条)取壊し予定の建物の賃貸借(39条)があり,一時使用の建物賃貸借が使われることは少なくなっている
 ex.選挙事務所,別荘,簡易宿泊所,駅構内の建物など。

使用貸借 (民法597条)

存続期間の定めがあるとき その期間満了時に返還する。
存続期間の定めがないとき 使用収益の目的を定めない 貸主はいつでも返還の請求ができる。
使用収益の目的の定めがある ・目的に従った使用収益の終了時に返還する。

・使用収益をするのに足りる期間を経過したとき、貸主は直ちに返還を請求できる。


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