Brush Up! 権利の変動篇 

借地借家法の過去問アーカイブス 平成3年・問13

借家権 賃借人の費用償還請求(必要費・有益費)・造作買取請求


からの所有する建物を賃借している場合に関する次の記述は、民法及び借地借家法の規定によれば、○か×か。(平成3年・問13)

1.「賃貸借契約の締結に関する費用は、ABが平分して負担する。」

2.「は、の負担すべき必要費を支出したときは、直ちに、に対してその償還を請求することができる。」

3.「は、有益費を支出したときは、賃貸借終了の際、その価格の増加が現存する場合に限り、自らの選択によりその費した金額又は増加額の償還を請求できる。」

4.「の同意を得て建物に造作を付加したときは、賃貸借終了の際、に対して時価でその造作を買い取るべきことを請求できる。なお、が造作買取請求権を放棄する旨の特約はなかったものとする。

【正解】

×

1.「賃貸借契約の締結に関する費用は、ABが平分して負担する。」

【正解:

 民法558条によれば、売買契約に関する費用は当事者双方が平分(=お互いに均等に負担すること)して負担することとされており、この規定は、賃貸借契約など有償契約にも準用されます。(民法559条)

 有償契約は、賃貸借以外には、交換、利息付き消費貸借、雇傭、請負、有償委任、有償寄託、代物弁済などがあります。 

≪条文 民法559条≫

 本節の規定は売買以外の有償契約に之を準用す但、其契約の性質が之を許さざるときはこの限りに在らず。 

2.「Aは、Bの負担すべき必要費を支出したときは、直ちに、Bに対してその償還を請求す

ることができる。」

【正解:

 賃貸人には,目的物を単に引き渡すだけではなく,賃借人が使用収益できるようにする義務があり,第三者の妨害を排除したり〔不法占拠者の排除など〕,修繕する義務があります。また,賃借人は修繕の履行を請求し,損害があれば損害賠償を請求することもできます。

 そのため,賃借人は賃貸人が負担すべき必要費を支出したときは、直ちに賃貸人Bに対して必要費全額の償還を請求できます。(民法608条1項)

 判例によれば、この必要費は、目的物の原状を維持・回復する費用だけでなく、通常の状態に保存するための費用も含まれます。(大審院・昭12.11.16)

必要費とは?≫ 賃借の目的物の保存に必要な費用。 

任意規定

 賃貸人の修繕義務や費用償還義務は任意規定なので,日常的で軽微なものは特約によって賃借人の負担とすることができます。ただし,大規模なものは,原則として賃貸人が負担するものとされています。(大審院・昭和2.5.19)

3.「Aは、有益費を支出したときは、賃貸借終了の際、その価格の増加が現存する場合に

限り、自らの選択によりその費した金額又は増加額の償還を請求できる。」

【正解:×

 賃借人が有益費を支出したときは、賃貸借終了時にその価格の増加が現存する場合に限り、有益費全額または増加額の償還を請求できます(民法608条2項)が、全額もしくは現存増加額のどちらかを選択するのは賃貸人であり、賃借人ではありません。(民法196条2項での占有者とは賃借人で、回復者とは賃貸人を意味します。)

 必要費  直ちに償還。(608条1項)
 有益費  契約終了時に償還。(608条2項)
 造作買取請求権  期間の満了及び解約の申入れによって終了するとき
 (借地借家法33条1項) 

有益費とは?≫ 賃借の目的物を改良して価値を増加させる費用

 賃貸人の承諾を得て増築した部分,壁紙,障子紙など。→ カンタンに言えば,取り外しができないもので,賃借の目的物の価値を増加させるもの。

●民法の規定 608条・196条
608条
1 賃借人が賃借物につき賃貸人の負担に属する必要費を出たしたるときは賃貸人に対して直ちにその償還を請求することを得

2 賃借人が有益費を出たしたるときは賃貸人は賃貸借終了の時において第196条第2項の規定〔占有者の有益費償還請求権〕に従いその償還を為すことを要す
 ただし裁判所は賃貸人の請求によりこれに相当の期限を許与することを得

196条2項
 占有者が占有物の改良のために費したる金額その他の有益費についてはその価格の増加が現存する場合に限り回復者の選択に従いその費したる金額または増価額を償還せしむることを得
 ただし悪意の占有者に対しては裁判所は回復者の請求によりこれに相当の期限を許与することを得

4.「AはBの同意を得て建物に造作を付加したときは、賃貸借終了の際、Bに対して時価で

その造作を買い取るべきことを請求できる。なお、Aが造作買取請求権を放棄する旨の

特約はなかったものとする。法改正により改題

【正解:

 賃借人が、賃貸人の同意を得て建物に造作を付加したとき〔または建物の賃貸人から買い受けた造作〕は、期間満了及び解約の申入れによって終了するときに、賃貸人に時価で買い取るよう請求できます。(借地借家法33条1項)

これは、賃貸人から買いうけた造作にも適用されます。

 また、「期間の満了又は解約の申し入れ」によって終了する場合の、転借人と賃貸人との間でも準用されます。(借地借家法33条2項)

 ただし、この規定は任意規定となっており、造作買取請求権をあらかじめ放棄する旨の特約も認められています。(借地借家法37条)

造作とされているもの・・・・畳、ふすま、障子等の建具、エアコン、照明器具など。

 取り外しが容易であり,建物の使用に客観的便益を与えるもの。収去すると造作そのものの価値を減ずるもの。〔有益費償還請求の対象にはならないことにも注意。〕

造作買取請求権の対象・・・・賃借人が勝手につけた造作は買取請求権の対象にはならない。借地借家法で認められているものは以下の二つのみ。

 (i) 賃貸人の同意を得て建物に付加した造作
 
(ii) 建物の賃貸人から買い受けた造作

造作買取請求権について

 もともと,賃貸借契約が終了したときには,賃借人には建物に付加したものを収去して原状に回復させる義務があります。〔取り外しができないもので建物の現存価格を高めるものは有益費として費用償還の対象になる。〕

 しかし,取り外したところで,そのものの価値は建物と結びついてのものですから意味はなく,取り外すにしても費用や手間がかかることから賃借人が収去を望まないことのほうが多いでしょう。

 借地借家法は,このように費用償還請求権の対象にならないものを,賃貸人に時価で買い取らせることによって,賃借人の投下資本の回収をさせ,かつ収去の負担を免じることにしました。〔しかし,実際のところは,特約で買取請求権を排除する場合が多い。〕

●判例での「造作」の定義

 造作とは、建物に付加された物件で、賃借人の所有に属し、かつ、建物の使用に客観的便益を与えるものをいい、賃借人がその建物を特殊の目的に使用するため特に付加した設備を含まない(最高裁・昭和29.3.11)


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