Brush Up! 権利の変動篇

無効と取消の過去問アーカイブス 錯誤・制限能力者・未成年者・強迫 (昭和50年)


法律行為又は意思表示に関する次の記述のうち,民法上,誤っているものはどれか。
(昭和50年)

1.「法律行為の要素に錯誤のある意思表示は無効であるが,表意者に重過失があるときは,表意者が自らその無効を主張することはできない。」

2.「制限行為能力者が,独断で行った法律行為であっても,すべてが直ちに無効になるものではない。」

3.「未成年者であっても,法定代理人の同意を得れば,その所有宅地を第三者に有効に売却することができる。」

4.「強迫による意思表示は,取り消すことができるが,取消をもって善意の第三者に対抗することができない。」

【正解】

×

1.「法律行為の要素に錯誤のある意思表示は無効であるが,表意者に重過失があるときは,表意者が自らその無効を主張することはできない。」

【正解:
錯誤無効の成立要件−要素に錯誤がある+重過失がない

 −要素の錯誤
 ↑ 要素に錯誤があっても重過失があれば、無効を主張できない。

 表意者に重過失がある場合,表意者は要素の錯誤があっても無効は主張できず,意思表示は“有効”になります。(95条但書) → ただし,表意者に重過失があっても相手方がそれについて悪意であれば〔知っていれば〕,相手方を保護する必要はないので,表意者は無効を主張できると考えられています。

2.「制限行為能力者が,独断で行った法律行為であっても,すべてが直ちに無効になるものではない。」

【正解:
◆制限行為能力者の法律行為

 制限行為能力者のした法律行為は,直ちに無効になるわけではありません。中には有効な場合もあるからです。

 制限行為能力者や法定代理人・成年後見人・保佐人・補助人によって取り消される場合がありますが,どんなものでも取消できるというわけではなく,以下のものは取り消すことができません。

成年被後見人=日用品の購入その他日常生活に関する行為 (9条但書)

被保佐人=「12条1項2項により保佐人の同意が必要とされている行為」以外のもの(13条)

被補助人=「16条1項により補助人の同意が必要とされている行為」以外のもの(17条)

未成年者=単に権利を得又は義務を免るべき行為(5条1項)
        法定代理人が目的を定めて処分を許した財産(5条3項前段)
        法定代理人が目的を定めずして処分を許した財産(5条3項後段)
        法定代理人により営業を許された場合での営業に関するもの(6条1項)

意思能力を欠くが後見開始の審判を受けていない『意思無能力者』の行為は,取り消すことができるというものではなく,行為の当初から無効です。

●無効と取消
 錯誤・通謀虚偽表示・心裡留保・公序良俗違反等での無効とは『当初から法律効果が発生していない』ことを意味します。

 それに対して,取消しうべき法律行為は,『いったん法律行為の効果が発生するが,取消されたときは遡って無効』になる,と言われています。

3.「未成年者であっても,法定代理人の同意を得れば,その所有宅地を第三者に有効に売却することができる。」

【正解:
◆未成年の法律行為

 未成年者の法律行為は,原則として,法定代理人の同意を得て行うことになっています。(4条1項)

4.「強迫による意思表示は,取り消すことができるが,取消をもって善意の第三者に対抗することができない。」

【正解:×
◆強迫

 (売主)←強迫−(買主)−(善意の第三者)
 
取消

強迫では,詐欺と異なり,強迫されて行った意思表示の取消は取消前の第三者に対抗できます。(96条3項の反対解釈)

●取消と第三者 (判例)
 取消前後の第三者の扱いを判例ではどうなっているか,まとめてみます。
    取消前の第三者  取消後の第三者
 詐欺  取消を善意の第三者には対抗できない
 96条3項
 第三者は登記がなくても善意なら保護される
 177条
 強迫  取消を善意の第三者にも対抗できる
 96条3項の反対解釈
 表意者は意思決定の自由を侵害されていた
 ので帰責性はなく,第三者が善意であっても
 表意者は保護される
 177条
 制限行為能力  取消により当初から無効であったとみなす。
 121条
 制限行為能力者の保護
 177条

 ※取消後の第三者の扱いを177条で処理するのは学説と判例で争いがあります。


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