Brush Up! 権利の変動編

無効と取消の過去問アーカイブス 善意の第三者 昭和51年 


次のうち,無効又は取消しをもって善意の第三者に対抗できる者はどれか。(昭和51年)

1.「取引の相手方の詐欺行為を理由として取消しを行った者。」

2.「取引の相手方に強迫されて締結した契約の取消しを行った者。」

3.「不動産の売買について,相手方と通じてなした虚偽の意思表示の当事者。」

4.「婚姻中の夫婦間の売買契約の取消しを行った配偶者。」

【正解】

× × ×

1.「取引の相手方の詐欺行為を理由として取消しを行った者。」

【正解:×

◆取消前の善意の第三者には対抗できない

 詐欺によって意思表示をしたとき,表意者は取り消すことができますが,この取消をもって,取消前の善意の第三者には対抗できません。(96条3項)

 取消前の第三者は,善意であれば,保護される。

 取消後の第三者は,177条により,善意・悪意を問わず登記があればよい。

※取消前の善意の第三者に対抗要件が必要かどうかについては学説上争いがある。判例では,仮登記をした善意の第三者が保護されるとしたものがある。(最高裁・昭和49.9.26)

2.「取引の相手方に強迫されて締結した契約の取消しを行った者。」

【正解:

◆強迫により意思表示した者は取消前の善意の第三者に対抗できる

 強迫によって意思表示をしたとき,表意者は取り消すことができ,この取消をもって,取消前の善意の第三者対抗できます(判例,96条3項の反対解釈)

 詐欺  取消前の善意の第三者に対抗できない。
 強迫  取消前の善意の第三者に対抗できる。
●取消と第三者 (判例)
 取消前後の第三者の扱いを判例・条文ではどうなっているか,まとめてみます。
    取消前の第三者  取消後の第三者
 詐欺  取消を善意の第三者には対抗できない
 96条3項
 第三者は善意なら保護される
 177条
 強迫  取消を善意の第三者にも対抗できる
 96条3項の反対解釈
 表意者は意思決定を強迫によって歪められて
 いるので帰責性はなく,第三者が善意であっても
 表意者は保護される(大審院・明治39.12.13)
 177条
 制限行為能力  取消により当初から無効であったとみなす。
 121条
 制限行為能力者の保護
 177条

 ※取消後の第三者の扱いを177条〔登記がなければ対抗できない。〕で処理するのは学説と判例で争いがあります。

3.「不動産の売買について、相手方と通じてなした虚偽の意思表示の当事者。」

【正解:×

◆通謀虚偽表示では善意の第三者に対抗できない

 通謀虚偽表示の相手方には無効を主張できますが,通謀虚偽表示によってなされた法律行為を信じて法律上の利害関係に入った善意の第三者に対しては,その第三者が無登記であったとしても,過失があったとしても,無効であると主張することはできません。(94条,最高裁・昭和44.5.27,大審院・昭和12.8.10)

 通謀虚偽表示  −通謀虚偽表示(第三者)

 善意の第三者に対しては,は無効であると主張できない。

 悪意の第三者に対しては,は無効を主張できる。←平成7年etc

 心裡留保  心裡留保(第三者)

 善意無過失のときは有効なので第三者には
 対抗できない。

 悪意or有過失のときは無効を主張できる

 (悪意or有過失のから権利を取得した善意の第三者
 は,不動産の場合は,94条2項が類推適用され,対抗できない
 と解されている。大審院・昭和44.11.14)

 錯誤  −錯誤−(第三者)

 全部無効のときは,第三者に対抗できる(大審院・大正11.3.22)

 (錯誤による無効は全部無効になるとは限らず,一部無効に
 なる場合もある。最高裁・昭和47.12.19)

 表意者に重大な過失があるときは無効の主張をすることが
 できない。
 → ただし,表意者に重過失があっても相手方がそれについて
   悪意であれば〔知っていれば〕,相手方を保護する必要は
   ないので,表意者は無効を主張できると考えられています。

無効主張はできても,第三者保護規定(即時取得の192条など)によって,目的物が動産等の場合は取り返せない場合があります。

通謀虚偽表示の善意の第三者 〔重要〕

・仮装譲渡の譲受人から目的不動産に抵当権の設定を受けた抵当権者が善意のときは,仮装譲渡の譲渡人は善意の抵当権者に対してへの仮装譲渡が無効であることを対抗できない。(大審院・昭和6.10.24) →平成7年関連出題

                         (抵当権者) 善意 → 保護される 
                       /  抵当権設定         
 (元の所有者)―通謀虚偽表示(仮装譲渡の譲受人)

 ・悪意の第三者からの転得者が善意のときは,表意者は善意の転得者に対して無効であることを対抗できない。(最高裁・昭和45.7.24) →平成7年・5年出題

  −通謀虚偽表示
    
           
               (悪意)
               |
                (善意)

 ・善意の第三者からの転得者が悪意でも,表意者は悪意の転得者に対して無効であることを対抗できない。(大審院・昭和10.5.31)

  −通謀虚偽表示
    
           
               (善意)
               |
                (悪意)

 ・通謀虚偽表示の当事者以外の者〔例えば当事者の債権者〕でも,善意の第三者に対して無効であることを対抗できない。(大審院・明治37.12.26) →平成5年出題

  の債権者
  |
  −通謀虚偽表示
    
           
               (善意)

 ・善意の第三者が未登記の間に,に売却したときに,に権利を主張するには登記を必要とする。(最高裁・昭和42.10.31) →平成12年出題

  −通謀虚偽表示
  
           
             (善意)

●無効と取消
 無効

  実現不可能,強行法規違反,公序良俗違反,
  意思無能力者,
  意思の不存在(欠缺)〔錯誤・心裡留保・通謀虚偽表示〕⇒内心の効果意思≠表示

    錯誤 → 内心の効果意思と表示の不一致を表意者本人が知らない
    心裡留保 → 不一致を表意者本人が知っている
    通謀虚偽表示 → 表意者本人が相手方と通謀して不一致を作出

 取消

  瑕疵ある意思表示〔詐欺・強迫〕⇒内心の効果意思の形成過程に欠陥〔瑕疵〕がある
  制限行為能力者

4.「婚姻中の夫婦間の売買契約の取消しを行った配偶者」

【正解:×

◆夫婦間の取消は善意の第三者に対抗できない

 婚姻中の夫婦間の売買契約はいつでも取り消すことができますが,この取消を善意の第三者に対抗することはできません。(754条但書) 

 夫婦間で契約をしたときは,その契約は,婚姻中,何時でも,夫婦の一方からこれを取り消すことができる。但し,第三者の権利を害することができない(754条)

 → 判例 婚姻が実質的に破綻している場合には,
        夫婦間の契約を取り消すことは許されない。(最高裁・昭和42.2.2)

●無効・取消の効果
●無効の効果

 既履行の契約−不当利得返還請求権・不当利得返還債務が発生(703条,704条)
           例外 不法原因給付(708条)

●取消の効果

 既履行の契約 → 不当利得返還請求権・債務が発生(703条,704条)(大審院・大正3.5.16) → 当事者が相互に不当利得返還義務を負う場合は,同時履行の関係に立つ。(最高裁・昭和47.9.7)

 制限行為能力者の返還義務は悪意でも現存利益に制限される(121条但書)
 取消権行使によって発生する不当利得返還請求権は,その時から独立に
  消滅時効にかかる(判例)


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