Brush Up! 権利の変動編
無効と取消の基本問題 取消と追認
民法の規定及び判例によれば,次の記述は○か×か。 |
1.「法律行為の取消は,本人のみがすることができる。」 |
2.「取り消しうべき法律行為をなした本人及びその法定代理人は,取消の原因たる状況の止んだ時に限って有効に追認することができる。」 |
3.「無権代理行為の追認の効力は,常に契約の時に遡る。」 |
4.「詐欺による意思表示の取消には,条件を付すことができる。」 |
5.「詐欺による意思表示の取消では,契約を締結した時から5年を経過すると取消権は時効により消滅してしまうのでそれまでに取消す必要がある。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
× | × | × | × | × |
1.「法律行為の取消は,本人のみがすることができる。」(司法試験・択一・昭和51年) |
【正解:×】 取消すことができる者(120条1項・2項)は本人だけではありません。 ・制限行為能力者・同意権者〔保佐人・保佐監督人など〕 |
2.「取り消しうべき法律行為をなした本人及びその法定代理人は,取消の原因たる情況の止んだ時に限って有効に追認することができる。」(司法試験・択一・昭和51年) |
【正解:×】 取り消しうべき法律行為(行為能力の制限・詐欺・強迫)で追認できる時は,以下のように異なっています。したがって×になります。 本人(制限行為能力者)−取消の原因たる情況の止んだ時でなければ有効に追認することができない。(124条1項)ただし,未成年者・被保佐人・被補助人は法定代理人の同意を得て有効な追認をすることができるが,成年被後見人は成年後見人の同意があっても追認することができない。 成年被後見人−能力者となった後でその行為を了知したときはその了知した後でなければ追認することができない。(124条2項)→能力者となっても行為を了知するとは限らないから。 法定代理人・保佐人・補助人−制限はない。(124条3項) 詐欺・強迫を受けた表意者−その情況を脱した後 |
3.「無権代理行為の追認の効力は,常に契約の時に遡る。」(司法試験・択一・昭和48年) |
【正解:×】 無権代理行為は原則として本人に効果は帰属しません。これに対して、本人が有効か無効かを確定させるためにあるのが,追認権〔有効なものとして確定させる〕と追認拒絶権〔無効なものとして確定させる〕です。 無権代理行為の追認は,別段の意思表示がないときには契約時に遡ります。しかし,相手方の同意や別段の意思表示があれば,契約時に遡るのではなく追認のときから効力をもたせることも可能です。(ただし,第三者の権利を害することはできない。)(116条) したがって,常に契約の時に遡及するわけではありません。 ※無権代理行為の相手方が不安定な状態を解消するために,相手方には催告権(114条),取消権(115条)があります。〔ここでの取消は撤回に近い。〕 ※無権代理行為の相手方は,本人が追認した後でも,詐欺・強迫・行為能力の制限を理由とする取消(120条)をすることは可能です。115条の無権代理行為の相手方の取消は本人が追認した後ではできませんが,120条の取消は本人が追認した後でもできるということです。 |
●追認の効果について | ||||
追認は,「行為能力の制限・詐欺・強迫の取り消すことのできるグループでの追認」と「無権代理での追認 」と2つに大別することができます。〔厳密には『無効行為の追認』と言われる119条の追認がありますがここでは省きます。〕 取り消すことができる法律行為は,追認することによって初めから有効だったことに確定します。(122条)無権代理行為の追認があると,契約の時まで遡って有効になります。(116条) もう少し厳密に言えば,行為能力の制限・詐欺・強迫での追認のように,『一応効果が生じたが取り消される可能性がある不安定な状態にあった法律行為が追認されることによって取り消されないことに確定する』ものと,無権代理の追認のように,『本人には効果不帰属だった法律行為〔本人には効果が生じていなかった法律行為〕が本人について効果を生じることに確定する』ものと2つあるので,区別しておく必要があります。
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●民法の条文での追認 |
■無権代理行為の追認 追認は別段の意思表示がないときは契約の時に遡ってその効力を生じる。ただし第三者の権利を害することはできない。(116条) ■取り消し得べき行為(行為能力の制限・詐欺・強迫)の追認 取り消すことができる行為は第120条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない。(122条) |
4.「詐欺による意思表示の取消には,条件を付すことができる。」(司法試験・択一・昭和49年) |
【正解:×】 取消は単独行為ですが,条件を付すことは相手方の地位を不安定にするので許されません。 |
5.「詐欺による意思表示の取消では,契約を締結した時から5年を経過すると取消権は時効により消滅してしまうのでそれまでに取消す必要がある。」(司法書士・平成12年) |
【正解:×】 × 契約を締結した時から5年 → ○ 追認することができる時より5年 民法では,いつまでも取り消すことができる状態が続くといつ取り消されるかわからないため,相手方や第三者の立場の法律関係が不安定になるという理由で,取り消すことができる期間に制限があります。
「追認することができる時」 本人・・・制限行為能力者→ 行為能力者となったとき〔未成年者は成年者になった時から起算〕 成年被後見人の場合は設問2を参照。 詐欺・強迫を受けた表意者→ 詐欺・強迫を脱したとき 法定代理人・同意権者・・・制限行為能力者の行為を知ったとき※ ※法定代理人などの取消権が時効により消滅した場合は、制限行為能力者の取消権も消滅します。 |