Brush Up! 権利の変動篇

正解・解説

占有権の基本問題3 平成14年・問3


【正解】

× × ×

売主・買主間の建物売買契約(所有権移転登記は行っていない。)が解除され,建物の所有者が,居住の建物をに売却して所有権移転登記をした場合に関する次の記述は,民法の規定及び判例によれば,○か、×か。(平成14年・問3)

1.「が,に対して建物をのために占有することを指示し,がそれを承諾した

だけでは,に建物を引き渡したことにはならない。」

【正解:×

◆指図による占有移転

 (売主)― (占有代理人)・・・AとBの売買契約が解除され、建物に居住。
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 (買主)

  この場合、現実にBからCに建物の引渡しがあったわけではありませんが、法律的には引渡しがあったものとされている例です。したがって、本肢は×になります。

代理人(B)によって占有する場合に、本人(A)がその代理人(B)に対して、第三者(C)のために占有することを命じて、その第三者(C)が承諾したときは、その第三者(C)は占有権を取得する。(民法184条) 

 〔例〕 Pが現在Qに貸している家屋をRに譲渡するときに、PがQに以後Rのために占有するように命じて、Rが承諾すればRに占有が移転します。PはQに対しては、Qに命じるだけで、Qの承諾は要らないことに注意してください。

 P (売主、賃貸人)―Q (占有代理人、賃借人)・・・賃借して居住。
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 R (買主) 

2.「が建物占有中に,地震によって玄関のドアが大破したので修繕し,その費用を

負担した場合でも,に対してその負担額の償還を請求することはできない。」

【正解:×

◆必要費の償還請求

  (売主) (占有者)・・・AとBの売買契約が解除され、建物に居住。
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  (買主、回復者)

 占有者が占有物を返還する場合に、占有していた物の保存のために費やした金額その他の必要費 (修繕費・公租公課など)は 、回復者の利益にもなっているので、負担した全額を償還請求できます(民法196条1項)

有益費はその価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、支出した額 or 現存増価額のどちらかを償還請求できます。

3.「は,占有中の建物の一部をに使用させ賃料を受領した場合,その受領額を

に償還しなければならない。」

【正解:

◆悪意の占有者と果実返還義務

  (売主) (悪意の占有者)・・・D(一部をBから賃借)
 |      
  (買主、回復者)

  (占有者) は、売買契約の解除により、建物を返還する義務を負う『悪意の占有者』となっているため、建物の一部をに使用させた賃料 (法定果実) を全てに返還する義務があります。

 悪意の占有者は果実 (天然果実・法定果実) を収取した場合はその果実を返還しなければならず、すでに果実を消費したり、毀損したり、収取を怠った場合は、果実の代価を償還する義務を負う。(民法190条1項)

4. 「が暴力によって,から建物の占有を奪った場合,に占有回収の訴えを

提起できるが,に対抗できる所有権があるので占有回収の訴えについては

敗訴することはない。」

【正解:×

◆占有の侵奪に対する占有の回収の訴え (占有訴権)

  (売主) (占有者)・・・AとBの売買契約が解除され、建物に居住。
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 (買主)・・・Bから建物を侵奪

 占有者の意思に反して所持が奪われたとき(詐取された場合は任意の引渡しとなるので侵奪にはならない)は占有を侵奪された時より一年内に有回収の訴え (返還および損害賠償の請求) を提起することができます。(民法200条1項、201条2項)

  Cには確かに所有権がありますが、占有回収の訴えでは、本権(この場合は所有権)関する理由に基づいて裁判することはできないとされており(民法200条2項)、あくまでも現にある支配状態を保護するのを目的としているために、占有訴権の要件に即して占有権の有無が審査されます。

 Bが所有者としてのCに返還する義務があるかなどは審理されず、本肢の設定では、占有回収の訴えでCは敗訴する場合もあります。したがって、本肢では、「敗訴することはない」と言い切っているため×になります。

判例では、Cは、占有回収の訴えに対して、本権に基づく反訴を提起することはできるとしています。(最高裁・昭和40.3.4)

●自力救済の禁止
 所有権をもっているなど正当な権利者であっても、すでに占有されているものを自ら奪い返すことは民法の規定により禁止されています。

 正当な権利者が自己の占有を回復しようとする場合は、裁判など国家の救済手続きによらなければならず、もし自力救済しようとすれば違法行為となり、民事責任のほかに刑事責任も問われることになります。

 もし、自力救済が許されるならば、社会の秩序と平和は維持するのが困難になります。


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