Brush Up! 権利の変動篇
占有権の過去問アーカイブス 昭和49年
占有に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(昭和49年) |
1.「占有者は,所有の意思をもって善意,平穏,かつ,公然に占有するものと推定されるが,占有の取得に関する無過失は,推定されない。」 |
2.「占有権は,自己のためにする意思をもって物を所持する場合のほか,他人のためにする意思をもって物を所持する場合にも,取得することができる。」 |
3.「不動産に関する質権の第三者に対する対抗手段は,質物たる当該不動産を質権者が継続して占有することである。」 |
4.「留置権者の留置物の保管義務の内容は,自己の財産におけるのと同一の注意をもってする留置物の占有である。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
1.「占有者は,所有の意思をもって善意,平穏,かつ,公然に占有するものと推定されるが,占有の取得に関する無過失は,推定されない。」 |
【正解:○】 ◆占有の成立に無過失は推定されない−善意無過失と善意有過失は区別される 民法186条1項 占有者は、所有の意思をもって善意、平穏、かつ、公然に占有するものと推定される。 占有者が正権限〔本権〕があると誤信して占有しているとき(善意の占有)、過失の有無によって取得時効に必要な期間が変わってきます。(162条)〔善意無過失で占有をはじめたときは10年間、悪意or有過失のときは20年間〕このほかには即時取得でも過失無過失の区別があります。(192条) このような区別がある以上、占有開始時点での無過失〔知らなかったことについて過失がなかったこと〕は推定されることはありません。 ▼参考 10年間の取得時効の完成を主張する者は、占有開始時点での無過失の立証が必要。(最高裁・昭和46.11.11) ■民法では、占有の開始にあたって、善意・悪意は問わず、占有の成立要件にはなっていません。 悪意の占有とは、「本権がないことを知っている、または本権の有無に疑いをもちつつ行う占有」をいいます。 善意の占有とは、「本権がないのに、それがあると誤信してする占有」です。(占有での善意は通常の用法と異なっています。) |
2.「占有権は,自己のためにする意思をもって物を所持する場合のほか,他人のためにする意思をもって物を所持する場合にも,取得することができる。」 |
【正解:×】 ◆占有権の取得 本肢は,少しわかりくい問題文ですが,「占有権の取得」の定義から見ていきます。
占有権取得のこの二つの要件を考えると、単に『他人のためにする意思をもって物を所持する場合』は含まれないことがわかります。 例えば,「遺失物を習得した人」や「無償で他人のものを預かっている人」には『自己のためにする意思』〔自分の利益のためという意思〕を欠いており,単に『他人のためにする意思』をもって物を所持している場合には,占有訴権などの保護のための占有権は成立しないものとされています。 ●本肢がわかりにくい理由 −占有権には排他性がなく,重層的に成り立つ 民法181条では,『占有権は代理人によりてこれを取得することを得』として,本人が所持しなくても他人に所持させることで本人が間接的に占有している場合にも占有権の取得を認めています。この代理占有での占有代理人のことを考えると本肢は迷う問題です。 代理占有では二重に占有が成立しています。例えば,建物の賃貸借のケースで見てみます。 賃借人〔占有代理人〕は『自己のためにする意思』をもって〔自己の利益のために〕建物を一定範囲で占有しています。〔占有代理人の自己占有は,他人が所有権を有することを前提にして一定範囲で支配するものです。〕 しかし,賃借人には同時に『他人〔賃貸人〕のためにする意思』も併存し,賃貸人は賃借人を介して間接的に建物を占有しています。〔賃貸人本人が代理占有している〕 つまり,賃貸借では二つの占有が重層的に併存しているわけです。 ▼出題者の意図としては,上の「遺失物を習得した人」や「無償で他人のものを預かっている人」を連想してそのような場合には占有権は成立しないことを受験者に察知して欲しかったものと思われますが,問題文が抽象的で漠然とし過ぎていたように思われます。 |
3.「不動産に関する質権の第三者に対する対抗手段は,質物たる当該不動産を質権者が継続して占有することである。」 |
【正解:×】 ◆不動産質権の対抗要件は登記 質権者は,その債権の担保として債務者または第三者〔物上保証人〕より受け取った物を占有し,その物について他の債権者に先んじて自己の債権の弁済を受ける権利を有します。(342条) 動産の質権では,質物の占有の継続が対抗要件ですが(352条),不動産質の場合は,登記が対抗要件です。(177条) ■不動産質では,質権者が目的不動産を設定者から取り上げて占有しているので,登記がなければ,何も知らない人が見たときにどのような権原でその不動産を使用収益しているのかわかりません。〔不動産質では,質権者が目的不動産を単に保管しているだけでは社会経済上不利益であることから,質権者はその用方に従い,別段の定めがなければ,管理費用を負担して使用収益することができます。(356条,357条)〕 |
●不動産質権の法改正 |
359条の改正により,以下の三つは,別段の定め以外に「目的不動産に担保不動産収益執行が開始された」ときにも適用されなくなりました。
・不動産質権者は用方に従い,使用収益できる。(356条) ・不動産質権者は管理費用を負担する。(357条) ・不動産質権者は利息をとることができない。(358条) 担保不動産収益執行では,裁判所が選任した管理人が目的不動産を管理し,収取した収益・換価代金から必要費用を支払ってから配当等を実施することになっているためです。 |
4.「留置権者の留置物の保管義務の内容は,自己の財産におけるのと同一の注意をもってする留置物の占有である。」 |
【正解:×】 ◆他人のものの保管義務−善良なる管理者の注意義務と自己の財産と同一の注意義務 他人のものを保管するときの注意義務については,民法では,大別すると2つあります。 自己の財産と同一の注意義務 < 善良なる管理者の注意義務 留置権に基づく,留置物の保管については,善良なる管理者の注意が要求されています。(298条) ■『自己の財産と同一の注意義務』は,無償でする「寄託」での受寄物〔寄託の目的物〕の保管についての場合。〔有償での寄託は善管義務(400条〕 |