Brush Up! 権利の変動篇
不動産登記法の過去問アーカイブス 事例総合問題 平成6年・問16 改正対応
移転前に死亡・表題部の所有者から買い受けた場合・仮登記に基づく本登記・
不動産の登記に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(平成6年・問16) |
1.「A名義の所有権の登記がある土地をBに売り渡す契約が締結された後,所有権移転の登記がされないうちにAが死亡し,Cが相続をした場合には,C名義への相続による所有権移転の登記がされなくても,B名義への所有権移転の登記をすることができる。」 |
2.「土地の表題部にAが所有者として記載されている場合に,Bがその土地を買い受けたときは,Bは,申請情報と併せて売買契約書を登記原因証明情報として提供すれば,直接B名義の所有権保存の登記を申請することができる。」 |
3.「A名義の所有権の登記がされている土地について,B名義への所有権移転の仮登記がされた後,A名義からC名義への売買による所有権移転登記がされている場合には,Bは,Cの登記が抹消されるまでは,仮登記に基づく本登記をすることはできない。」 |
4.「法改正で廃止」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
肢4は,×として設定されていました。
1.「A名義の所有権の登記がある土地をBに売り渡す契約が締結された後,所有権移転の登記がされないうちにAが死亡し,Cが相続をした場合には,C名義への相続による所有権移転の登記がされなくても,B名義への所有権移転の登記をすることができる。」 |
【正解:○】 ◆相続人が登記義務者になる場合 A (譲渡人)―― B(譲受人)
このような場合,Aの相続人Cは,被相続人Aに代わって,Bとの共同申請によって,AからBへの所有権移転登記をすることができます(一般承継人の登記,不動産登記法62条) 登記義務者Aの相続人であるC,登記権利者B なぜならば,相続人は被相続人が死亡した時点で「被相続人の財産に属した一切の権利・義務」と「地位」を承継するので(民法896条),CはAの「Bへの所有権移転の登記義務」を承継しています。そのため,Cは当事者(登記義務者)として登記権利者Bと共同申請することになるわけです。 ▼登記義務者の相続人が複数いる場合は,相続人全員が登記義務者として申請しなければいけません(昭和27.8.23民甲74号回答)。∵登記申請義務は不可分債務であるため。 |
●登記権利者が死亡した場合 |
登記権利者が死亡した場合はどうなるでしょうか。
例えば,A名義の所有権の登記がある土地をBに売り渡す契約が締結された後,所有権移転の登記がされないうちにBが死亡し,XとYが相続をした場合です。 A (譲渡人)―― B(譲受人) この場合には,相続人全員(XとY)が登記権利者になり,登記義務者A,登記権利者XとYとして,AからBへの所有権移転登記を共同申請します。権利変動の過程を正しく公示するためには,既に死亡しているBへの移転登記が必要だからです。 そのあとに,BからXとYへの所有権移転登記をすることになります。 ※登記権利者の相続人の1人が相続人全員のために保存行為として申請することもできます。(民法252条但書) |
2.「土地の表題部にAが所有者として記載されている場合に,Bがその土地を買い受けたときは,Bは,申請情報と併せて売買契約書を登記原因証明情報として提供すれば,直接B名義の所有権保存の登記を申請することができる。」 |
【正解:×】 ◆表題部に所有者として記載された者から買い受けた場合 “所有権の保存登記” をすることのできる者は,
であり(不動産登記法・第74条1項各号),したがって,買い受けた者は,たとえ売買契約書その他を申請書に添付しても,その契約書等の真偽にかかわらず,保存登記をすることはできません。 このような場合は,まず表題部の所有者Aの名義で甲区に保存登記をした後,B名義に所有権移転登記をすることになります。
▼もしも,譲渡人Aが登記に協力してくれない場合は,Bは,その所有権が自己にあることを確定判決によって証明して,直接B名義の所有権保存の登記を申請することができます。(不動産登記法74条1項2号) ←平成12年出題 ▼本肢は,区分建物の所有権保存と混同している受験者を落とし穴に入れることを狙った問題です。→平成12年・問14
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●類題 |
1.「表題部に所有者として記載されている者からその不動産を買い受けた者は,所有権を証する書面を添付して自己名義に所有権保存の登記を申請することができる。」(司法書士・昭和53年) |
【正解:×】 上の問題と全く同一の出題。 |
2.「登記簿の表題部に所有者として記載されているAはその不動産をBに売り渡したが,その登記をしないうちに死亡した。
この場合,Aの相続人CはA名義の所有権保存登記の申請をすることができる」(司法書士・昭和63年) |
【正解:○】
被相続人Aが所有権の保存登記をしないまま死亡したとき, 所有権の保存登記は,被相続人Aの名義でも,また相続人Cの名義でも,どちらででも登記申請できるとされています。(昭和39.9.18民甲232号回答) 本肢では,Aは生前Bに譲渡していたため,Cはその不動産を相続したのではなく,単にAの地位(Bへの引渡しの債務)を承継していると考えられるため,被相続人Aの名義で所有権の保存登記をすべきとされています。(通説,昭和32.10.18民甲1953号回答) Cは,まず被相続人Aの名義で所有権の保存登記をして,その後Bへの所有権移転登記をすることになります。 |
3.「A名義の所有権の登記がされている土地について,B名義への所有権移転の仮登記がされた後,A名義からC名義への売買による所有権移転登記がされている場合には,Bは,Cの登記が抹消されるまでは,仮登記に基づく本登記をすることはできない。」 |
【正解:×】 ◆所有権の仮登記に基づく本登記 B B名義への所有権移転の仮登記 → 仮登記に基づく本登記 B名義への A名義からC名義への B名義への ――●――――――――●――――――――――――――●――――→ 売買の予約をしたときなどに仮登記がされることがありますが,この仮登記には対抗力はありません。しかし譬えて言えば入場整理券のような順位保全の効力があり(第106条),仮登記名義人Bは,仮登記後に本登記された現在の登記名義人Cの承諾を証明する情報か,Cに対抗できる裁判があったことを証する情報を提供すれ(第109条1項)ば,BはCの登記が抹消されなくても,仮登記に基づく本登記をすることができます。本肢は,このため×です。 なお,本登記がなされると,Cへの所有権移転の登記は,登記官の職権により抹消されることになります(第109条2項)。 ▼所有権以外の仮登記(例えば,抵当権設定の仮登記)に基づく本登記については,このような規定がないため,利害関係者の承諾を証する情報,利害関係者に対抗できる裁判があったことを証する情報を提供する必要はありません。
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●甲区と乙区の場合で比較してみましょう
▼甲区に仮登記に基づく本登記がなされた場合
Bが仮登記に基づく本登記をしたことにより,Cの移転登記が抹消されています。
【甲 区】 (所有権に関する事項) | ||||
【順位番号】 | 【登記の目的】 | 【受付年月日・受付番号】 | 【原因】 | 【権利者その他の事項】 |
1 | 所有権保存 | ・・ | 余白 | 所有者 A |
2 | 所有権移転 仮登記 |
・・ | 年月日 売買 |
権利者 B |
所有権移転 | ・・ | 年月日 売買 |
所有者 B | |
3 - |
所有権移転 ---------- |
・・ -- |
年月日 売買 ---- |
所有者 C --------- |
*下線のあるものは抹消事項であることを示す
▼乙区に仮登記に基づく本登記がなされた場合
仮登記に基づく本登記がなされたことにより,
徳川家康が第一抵当権者,豊臣秀吉が第二抵当権者になります。
【乙 区】 (所有権に関する事項) | ||||
【順位番号】 | 【登記の目的】 | 【受付年月日・受付番号】 | 【原因】 | 【権利者その他の事項】 |
1 | 抵当権設定 仮登記 |
・・ | 年月日 設定 |
権利者 徳川家康 |
抵当権設定 | ・・ | 年月日 設定 |
抵当権者 徳川家康 |
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2 | 抵当権設定 | ・・ | 年月日 設定 |
抵当権者 豊臣秀吉 |
【原題】 4.「A名義の所有権の登記に関し,Bによる抹消登記手続請求訴訟が提起されたことにより,抹消予告登記がされている土地について,C名義への所有権移転登記がされた場合において,Bの勝訴判決が確定し,A名義の登記が抹消されるときは,Cの登記は,職権で抹消される。」(関連・平成4年問15) |
【正解:×】超難問 ◆抹消予告登記⇒ 法改正により廃止になった。 平成16年の不動産登記法改正で,予告登記制度は廃止されました。 |