Brush Up! 権利の変動篇

賃貸借の過去問アーカイブス 平成15年・問11 敷金の承継 → 平成13年問9


借主は,所有の建物について貸主との間で賃貸借契約を締結し,敷金として賃料2ヵ月分に相当する金額をに対して支払ったが,当該敷金についてによる賃料債権への充当はされていない。この場合,民法の規定及び判例によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。(平成15年・問11)

1.「賃貸借契約が終了した場合,建物明渡しと敷金返還とは同時履行の関係に立たず,の建物明渡しはから敷金の返還された後に行えばよい。」

2.「賃貸借契約期間中にが建物をに譲渡した場合で,が賃貸人の地位を承継したとき,敷金に関する権利義務は当然にに承継される。」

3.「賃貸借契約期間中にに対して賃借権を譲渡した場合で,がこの賃借権譲渡を承諾したとき,敷金に関する権利義務は当然にに承継される。」

4.「賃貸借契約が終了した後,が建物を明け渡す前に,が建物をに譲渡した場合で,BE間でに敷金を承継させる旨を合意したとき,敷金に関する権利義務は当然にに承継される。」

【正解】

× × ×

1.「賃貸借契約が終了した場合,建物明渡しと敷金返還とは同時履行の関係に立たず,の建物明渡しはから敷金の返還された後に行えばよい。」

【正解:×出題歴・平成13年問9肢3

◆建物明渡しと敷金返還は同時履行の関係にない。建物明渡しが先

 「賃貸借契約が終了した場合,建物明渡しと敷金返還とは同時履行の関係に立たない」としているのはですが(最高裁・昭和49.9.29),「建物明渡しは敷金の返還された後に行えばよい」となっているので×です。

 敷金は本来,賃料未払いや建物の明渡しまでの損害金などを担保するものですから,明渡し時点ではじめて敷金のうちの返還される金額が確定します。(最高裁・昭和48.2.2)

 したがって,明渡しがなければ敷金も返還されないことになります。

2.「賃貸借契約期間中にが建物をに譲渡した場合で,が賃貸人の地位を承継したとき,敷金に関する権利義務は当然にに承継される。」

【正解:出題歴・平成2年問13肢2,平成6年問10肢3,平成11年問14肢4

◆敷金に関する権利義務は新しい賃貸人に承継される

  (旧・賃貸人) ――――――――――→  (新・賃貸人)
 |            建物を譲渡
  (賃借人)

 賃貸借契約期間中に賃貸人である建物の所有者が建物を第三者に譲渡してが賃貸人の地位を承継した場合,敷金に関する権利義務は,旧・賃貸人に対する未払い賃料があればそれを差し引いた残りの額が,当然に新・賃貸人に承継されます。(最高裁・昭和44.7.17)

 したがって,本肢は正しい記述です。

賃借人が有益費を支出した後に賃貸人が代わったときは,旧・賃貸人ではなく,新・賃貸人がその償還義務を負い,賃借人は,新・賃貸人に有益費の償還請求をします。(最高裁・昭和46.2.19)

3.「賃貸借契約期間中にに対して賃借権を譲渡した場合で,がこの賃借権譲渡を承諾したとき,敷金に関する権利義務は当然にに承継される。」

【正解:×出題歴・平成6年問10肢4

◆敷金に関する権利義務は当然には賃借権の譲受人に承継されない

  (賃貸人) 
 |            賃借権を譲渡
  (旧・賃借人) ――――――――――→  (新・賃借人)

 賃借権がからに譲渡され賃貸人がそれを承諾したとき,敷金の権利義務関係は,別段の合意がない限り,賃借権を譲り受けたには,当然には承継されません。(最高裁・昭和53.12.22)

 が交付した敷金は本来はに対して債務不履行になったときの担保となるもので,新たな賃借人が将来債務不履行になったときはが交付した敷金で担保するというのでは,が不利益を被る可能性があるからです。〔例えば,の賃料の未払いやが賃借していたことによる原状回復費用をが交付した敷金から差し引かれるというのではには不利益になります。〕

 このため,敷金の権利義務関係が承継されるには不利益を被る可能性のあるの意思が必要になります。

 本肢は,「当然に承継される」となっているので×です。

4.「賃貸借契約が終了した後,が建物を明け渡す前に,が建物をに譲渡した場合で,BE間でに敷金を承継させる旨を合意したとき,敷金に関する権利義務は当然にに承継される。」

【正解:×初出題

◆旧所有者と新所有者の合意だけでは,終了した賃貸借の敷金の権利義務は当然には承継されない

  (旧・所有者) ――――――――――→  (新・所有者)
 |            建物を譲渡
  (元・賃借人,占有権原なし)

 賃貸借契約が終了した後も,建物を元・賃借人が占有し続けていて,元・賃借人が建物を明け渡す前に,建物が譲渡された場合には,終了した賃貸借での敷金は新所有者には当然には承継されません。(最高裁・昭和48.2.2)

 なぜならば,賃貸借契約が終了していることから,単に建物を譲り受けたというだけでは譲受人AB間の賃貸借契約を引き継いだ賃貸人の地位にあるわけではないからです。〔この点で本肢は,賃貸借契約期間中に建物が譲渡された肢2とは異なります。〕

 本肢は,「当然に承継される」となっているので×です。

●解答を導く過程

 ・すでに賃貸借契約は終了しているのでは元賃借人(占有権原なし)
 ・敷金返還については終了した賃貸借契約に付随するもの
 ・本来は,元賃借人は元賃貸人に対して敷金返還請求権を行使すべき
               ↓
 したがって,BE間でに敷金を承継させる旨の合意があったとしても,敷金に関する権利義務は当然にはに承継されない。〔判例では,賃貸借契約に関係のなかったが敷金に関する権利義務を承継するには元・賃借人の承諾が必要だとする。〕

本肢の問題文での説明が簡略だったため,肢2と肢4との設定の違いが少しわかりにくかったかもしれません。設定の違いがわからないと正しい解答が導けないので注意しないといけませんね。


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