Brush Up! 権利の変動編

正解・解説

地上権の基本問題1


【正解】

× × ×

次のそれぞれの記述は、民法、借地借家法の規定および判例によれば○か、×か。

1.「地上権は、耕作を目的として設定できる。」

【正解:×
 他人の土地を使用するのが耕作目的(稲・麦・桑・茶・野菜・果樹の栽植)の場合は、永小作権、もしくは、土地の賃貸借になります。(270条など)

 地上権とは、「工作物または竹林を所有するために他人の土地を使用できる」権利をいいます。(265条)例えば、駐車場として使うために地上権を設定することはできません。駐車場として排他的・独占的に土地を借りる場合は、土地の賃貸借になります。

 したがって、試験で「地上権は土地の使用目的に限定なく設定できる」という肢問があれば、×になります。

▼設定目的による比較

貸借 賃貸借、使用貸借とも、土地の使用目的に限定なく設定できる。
地上権 工作物または竹林を所有するために他人の土地を使用できる
永小作権 耕作又は牧畜のために他人の土地を使用できる
地役権 自己の土地(要役地)の便益のために、他人の土地(承役地)を
所有者とともに共同使用する。地役権の目的には制限がない
要役地の利用価値が増大するものでなければならない。

ex.眺望・観望を目的とする地役権も認められる。(承役地に要役地からの
  眺望・観望を妨げる建造物を建てないとする不作為を内容とするもの)

  1つの土地が複数の土地の承役地になることもあり得る。

※地上権には、借地借家法で扱う「建物所有を目的とする地上権」のほかにもいろいろある、ということをアタマに入れてもらえば十分です。

▼「工作物」、「竹林」の例

工作物 家屋・橋梁・道路・溝渠・トンネル・電線・電柱・テレビ塔・モノレール
地下鉄 ・地下街などの一切の建造物
竹林 杉・ヒノキなどの樹木および竹類
●過去問・類題
1.「地上権者は、他人の土地の上に工作物又は竹木を所有するため、その土地を利用する権利を有する。」(昭49)

【正解:

2.「AはBが所有する土地・甲に、建物所有のための地上権の設定をしようとしている。

AB間の地上権設定契約において、Aが地代支払い義務を負わないとすることができる。」

【正解:

 建物所有を目的とする地上権に限りませんが、地上権者は、地代の支払の契約をしたときに限り、地代の支払い義務を負います。(地上権の地代は当事者間の契約で無償にすることもできます。民法では、地上権では必ず地代を支払わなければならないという規定はありません。)

 地上権者が地代支払い義務を負うのがフツウですが、当事者間で地代支払の契約をしなかったときは無償で地上権を設定したものとみなされます。(大審院・大正6.9.19)

 地代の額は契約によって定め、地代・支払い時期は登記すべき事項になっており、(不動産登記法111条)、地主が土地を売却して、土地が新所有者のものになったときに、地代の支払いについて新所有者に対抗するには登記を必要とするとされています(判例)。また、この地代は金納とは限らず、穀物などの物納でも構いません。(民法では金納とは定めていない)

 ▼比較

 債権では、有償の賃貸借と無償の使用貸借と分かれていますが、
地上権では有償・無償の区別はありません。

地上権 地代は、地上権の要素ではない。
賃借権 賃料を要素とする。
使用貸借権 賃料は支払われない。
地役権 対価や存続期間についての規定は民法にはないが、
通常は補償金として一時的に支払われる。

対価は地役権の内容をなすものではない(大審院・昭和12.3.1)

※永小作権では、小作料は要素である為、設定時に定めた小作料の支払い義務がある。

●過去問・類題
1.「地上権の成立については、必ずしも定期の地代を支払う契約の存する必要はなく、無償のものであっても、地上権は有効に成立する。」(昭49)

【正解:

3.「AはBが所有する土地・甲に、建物所有のための地上権の設定をしようとしている。

AB間の地上権設定契約において、存続期間の定めがないときには、地上権の存続

期間は30年とみなされる。」

【正解:

<原則>

 民法では、地上権の存続期間は契約によって自由に定めることができます。(立木の植栽を目的とする地上権の場合、永代地上権として登記されている事例もあります。)

 地上権の存続期間は、登記が対抗要件とされています。

 存続期間を契約で定めなかったときは、慣習があればまずそれに従い、もし慣習がなければ、当事者の請求によって裁判所が20年以上50年以下の範囲で定めることになっています。(民法268条2項)

<建物所有のための地上権の場合の存続期間>

 しかし、建物所有のための地上権の場合は、借地借家法の適用を受け、建物所有のための賃借権と同様に、原則として存続期間は30年とされ、契約でこれより長い期間を定めたときはその期間となります。(一般定期借地権では50年以上。)また、期間の定めがないときには一律に30年とされています。

【注意】借地借家法23条に規定する事業用定期借地権の場合は、「原則として存続期間30年」の規定が除外され、存続期間を10年以上50年未満と設定することができます(借地借家法 23条)。

借地借家法上の借地権は、「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」を意味しています。(借地借家法 2条)

●地上権の存続期間
建物所有を目的とする地上権 借地借家法の規定による。

存続期間は30年。契約で30年を超える期間を定めた
ときはその期間。(→一般定期借地権は50年以上)

期間の定めのないときは一律30年。

事業用定期借地権の場合はこの適用が除外され、
存続期間を10年以上50年未満として設定できる。

 一般の地上権 ▼原則

契約により自由に定められる。登記が対抗要件。

存続期間の定めのないとき

民法の規定による。

慣習があればまず、それに従う。

慣習がなければ、当事者の請求によって裁判所が
20年以上50年以下の範囲で定める。

4.「地上権は、不動産に関する物権の1つであるから、その設定及び移転は、登記を

しなければ、効力を生じない。」(昭和63-問5-肢1)

【正解:×

 「効力を生じる」という表現がヒッカケを誘っています。しかし、これは民法の条文の表現ソノママです。

民法176条…物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる

つまり、地上権も物権ですから、この規定に従い、地上権の設定及び移転は意思表示で効力が生じます。登記は第3者への対抗要件で、登記をしなければ地上権が効力をもたないということはありません。

なお、地上権の登記をする場合、地上権設定の目的、定めがあるときは存続期間、地代若くはその支払時期を申請書に記載することになっています。

▼地上権の取得

 地上権は、設定契約で成立するほか、遺言によって設定されたり、譲渡相続によっても承継されます。(取得時効によって取得することや法定地上権によって成立することもあります。)

▼第3者への対抗要件としての登記・建物所有のための地上権の場合

 一般の地上権とは異なり、建物所有のための地上権では、借地借家法10条1項により、地上権の登記がなくても、借地上の建物に登記(表示の登記・所有権保存登記・所有権移転登記)があれば、これをもって第3者に対抗できます。

●過去問・類題
1.「地上権は、その登記をしなければ、これをもって第三者に対抗することができない。」

【正解:(昭49)

2.「地上権は、地主との契約により設定されるほか、時効によって取得される

ことがある。」(昭59)

【正解:

 地上権永小作権は、これらの権利を自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に行使していれば、所有権に準じて10年または20年で時効取得できます。

 地役権では、継続(時間的に継続)かつ表現(外形的事実を伴っていること)のものに限り、時効取得できることになっています。

5.「すでに登記されている地上権の存する土地についても、その地上権者の承諾を得て

地下または空間の上下の範囲を定め地上権を設定できるが、土地の賃貸借はその対象

となる土地に地下または空間の上下の範囲を定めて設定することはできない。」

【正解:×前半は○、後半は×。(類・昭和56)

▼区分地上権―土地の立体的利用のために

 地下鉄やモノレールを敷設するために、通常の地上権が設定されると、その土地の地表の利用は制限を受けることになり、地上権者も地表の利用を排除するのに見合う対価の支払いを要求されます。このため、地下や空間の上下の範囲を区切って特定の層のみを対象にした区分地上権が昭和41年に民法に追加されました。これにより、地下や空間の上下の範囲の各層の並行的・効率的・立体的な利用が可能になりました。(民法269条の2)

各層の区分地上権の行使のためにその土地の使用に制限を加えることもできます。

 本設問のように、すでに登記された地上権が存する土地においても、その地上権者の承諾を得て区分地上権を設定できます。承諾を得て区分地上権が設定されると、それまでの使用・収益権者は区分地上権の行使を妨げることができません。

▼賃貸借での設定

 民法では「地下または空間の上下の範囲を定めて設定する土地の賃借権」の規定はありません。しかし、契約自由の原則より、自由に契約内容を定めることができるため、土地の賃貸借の対象を地下または空間の上下の範囲を定めて設定することは可能です。 

●過去問・参考問題
1.「相隣関係の規定は、所有権の調整に関する規定であるから、地上権には準用されない。」(昭49)

【正解:×

 地上権者の土地利用は、所有権者が行うのと変わるところはなく、地上権者と土地の所有者、または地上権者間で、相隣関係の規定(219条〜238条)を準用しています。(267条)


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