Brush Up! 権利の変動編

地役権の過去問アーカイブス 通行地役権  平成14年・問4


は,自己所有の甲土地の一部につき,通行目的で,隣地乙土地の便益に供する通行地役権設定契約(地役権の付従性について別段の定めはない。)を,乙土地所有者と締結した。この場合,民法の規定及び判例によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。
(平成14年・問4)

1.「この通行地役権の設定登記をしないまま,が,甲土地をに譲渡し,所有権移転登記を経由した場合,は,通路として継続的に使用されていることが客観的に明らかであり,かつ,通行地役権があることを知っていたときでも,に対して,常にこの通行地役権を否定できる。」

2.「この通行地役権の設定登記を行った後,が,乙土地をに譲渡し,乙土地の所有権移転登記を経由した場合,は,この通行地役権が自己に移転したことをに対して主張できる。」

3.「は,この通行地役権を,乙土地と分離して,単独で第三者に売却することができる。」

4.「が,契約で認められた部分ではない甲土地の部分を,継続かつ表現の形で,乙土地の通行の便益のために利用していた場合でも,契約で認められていない部分については,通行地役権を時効取得することはできない。」

【正解】

× × ×

●通行地役権と囲繞地通行権〔いにょうち・つうこうけん〕の違い
 
    通行地役権 280条〜  囲繞地通行権 210条〜

〔公道に至るためのほかの土地の通行権〕

 成立  合意〔契約〕により成立する  契約を要しないで成立する
 対抗要件

 vs承役地・囲繞地
 の譲受人

 少なくとも所有権移転登記  袋地に付着して当然発生する
 ので移転登記がなくても主張
 できる。(210条)(
 最高裁・昭和47.4.14)

 分割・一部譲渡でできた袋地
 の所有者は,囲繞地の譲受人
 にも主張できる。(213条)
 (最高裁・平成2.11.20) 

 通行の場所  隣接地に限らない  隣接地に限る(210条)

 他の分割者・譲渡者の土地に
 限る(213条)

 存続期間  当事者の合意により
 永久にすることもできる。
 袋地に付着した権利なので
 期間の制限はない
 対価 ⇔ 償金  当事者の合意により
 決まる。

 対価を無償にした場合
 でも有効。

 通行地の損害に対して
 償金を支払う(210条)

 分割・一部譲渡でできた袋地
 の場合は償金支払を要しない
(213条)

 通行の方法  合意により決める
 (特に制約はない)
 必要にして
 最も損害の少ないところ(210条)
 通路開設  合意がなければ
 開設できない
 必要あるときは
 開設できる

 通行地役権と囲繞地通行権〔公道に至るためのほかの土地の通行権〕は似ているようでも違います。

 第三者が承役地を時効取得したとき,地役権は原則として消滅しますが,
 第三者が囲繞地を時効取得したときでも囲繞地通行権は消滅しません。

 囲繞地通行権は袋地の所有ということから発生し契約を要しないため,この違いが生まれます。通行地役権は当事者の合意で成立しますが,時効取得は原始取得なので前の権利者が設定した権利は引き継がれないからです。

通行地役権を約定通行権,210条の囲繞地通行権を法定通行権ということがあります。囲繞地通行権がありながら,通行地役権を設定している場合がありますが,囲繞地通行権では最低限度〔必要最小限〕のものしか認められないのに対し,通行地役権では当事者の合意で自由に通行の場所&方法を決めることができるためです。

〔補足〕公道に至るための他の土地の通行権
 囲繞地 (その土地を囲んでいる他の土地) 通行権は,210条〔211条,212条〕と213条の二つがあります。

 210条と213条の違いは,213条の対象となる袋地〔他の土地に囲まれて公道に通じない土地〕は土地の分割や一部譲渡によって生じたものであることです。

 210条の対象となる袋地は,もともと他の土地に囲まれていて公道に通じない〔またはそれに準じるもの〕ので,土地が有効に活用できるように定めたものです。そのため通行を隣接地〔囲繞地〕に限定し,償金を支払うことになっています。〔償金を袋地の所有者が支払わなければ,囲繞地の所有者は通行を拒否できる。〕

 しかし,213条の対象となる袋地は土地の分割や一部譲渡によって生じたので,その分割や一部譲渡と関係のない土地の通行はできません。また,原則として償金を支払う必要はありません。土地を分割・一部譲渡した者は袋地が生じることは予想できたはずですから,償金の問題については分割・一部譲渡の時点で処理したもの〔価格などに反映〕と考えられるからです。〔ただし,当事者間で,民法の定めとは別に,特約で支払うようにすることまでは禁止されていません。〕

1.「この通行地役権の設定登記をしないまま,が,甲土地をに譲渡し,所有権移転登記を経由した場合,は,通路として継続的に使用されていることが客観的に明らかであり,かつ,通行地役権があることを知っていたときでも,に対して,常にこの通行地役権を否定できる。」

【正解:×

◆承役地の譲渡と未登記の通行地役権

 承役地                要役地
 ・・地役権設定契約(未登記)・・・
 | 譲渡
 

 本肢は、下記の判例をベースにした出題です。この場合、は通行地役権があることを知っており、また、通路として継続的に使用されていることが客観的に明らかであることから、に対して、この通行地役権を否定することはできません。

通行地役権が未登記のまま、承役地が譲渡されても、

・承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることが、位置・形状・構造などの物理的状況から客観的に明らかであること

譲受人がそのことを認識していたか、または認識することが可能であったこと

 この二つが成り立つときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者にはあたらない。(最高裁・平成10.2.13)

2.「この通行地役権の設定登記を行った後,が,乙土地をに譲渡し,乙土地の所有権移転登記を経由した場合,は,この通行地役権が自己に移転したことをに対して主張できる。」

【正解:

◆要役地の譲渡と付従性(随伴性)

 ・・・・・地役権設定契約(登記)・・・・・ B (要役地・乙)
                        |譲渡
                        (所有権移転登記)

 問題設定で、「地役権の付従性について別段の定めはない」としているのは、民法281条1項の条文を踏まえています。

 地役権は、要役地のために存在する権利なので、特約がない限り、要役地の所有権が移転すれば地役権も移転します。(民法281条1項)

判例では、要役地の所有権移転登記があれば、地役権の移転登記がなくても地役権の移転を第三者に対抗できるとしています。(大審院、大正13.3.17)

 本肢では、は、要役地・乙の所有権移転登記を経由しているので、判例により、は、通行地役権が自己に移転したことをAに対して主張できます。

3.「は,この通行地役権を,乙土地と分離して,単独で第三者に売却することができる。」 (類 : 昭和61,56)

【正解:×

◆要役地と分離して地役権を譲渡できない

 地役権は、要役地のために存在する権利なので、要役地と分離して地役権だけを譲渡したり、ほかの権利の目的とすることはできません。(民法281条2項)

4.「が,契約で認められた部分ではない甲土地の部分を,継続かつ表現の形で,乙土地の通行の便益のために利用していた場合でも,契約で認められていない部分については,通行地役権を時効取得することはできない。」(類 : 昭和58)

【正解:×

◆通行地役権の時効取得

 地役権は、契約での設定行為・遺言・相続などによって取得されるほか、時効によっても取得できます。

 地役権は、継続かつ表現のものに限って時効取得することが認められています。(民法283条)

判例では、「継続」の要件として、要役地の所有者によって承役地上に通路が開設されていることを挙げています。(最高裁、昭和30.10.26/昭和33.2.14)


用益物権のトップに戻る

Brush Up! 権利の変動に戻る