Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
留置権の過去問 平成9年・問3
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | ○ | ○ |
建物の賃貸借契約における賃借人Aに関する次の記述のうち、民法の規定 及び判例によれば、誤っているものはどれか。(平成9年・問3) |
1.「Aが,建物賃借中に建物の修繕のため必要費を支出した場合,Aは,その必要費
の償還を受けるまで,留置権に基づき当該建物の返還を拒否できる。」
【正解:○】必要費償還請求権 賃借人が必要費を支出した場合は、その償還を受けるまで留置権により、建物の返還を拒否できます。(民法295条1項) ▼賃借人が支出した必要費は賃貸人が支払うべきものであり、賃借人は賃貸人が負担すべき必要費を支出したときは、直ちに賃貸人Bに対して必要費全額の償還を請求できます。(民法608条1項) ▼賃借人が有益費を支出したときは、賃貸借終了時に、その価格の増加が現存する場合に限り、有益費全額または増加額の償還を請求できます。ただし、全額もしくは現存増加額のどちらかを選択するのは賃貸人であり、賃借人ではありません。また、裁判所は所有者の請求により、償還に相当の期間を許与する事により、有益費の留置権の成立を否定することができます。(民法608条2項) ≪必要費≫ 賃借の目的物の保存に必要な費用。支出後直ちに全額請求できる。 ≪有益費≫ 賃借の目的物を改良して価値を増加させる費用。賃貸借終了時に請求 |
●類題 |
1.「相手方の債務が弁済期にないときには、留置権を主張する事はできない。」 |
【正解:○】 留置権の成立要件としては、債権が弁済期にあることが必要とされています。弁済期前の債権について留置権を認めれば、弁済期前に債務の履行を強制することになりかねないからです。 ×…留置権は、債権の成立と同時に成立し、かつ行使することができる。 |
2.「Aの債務不履行により建物の賃貸借契約が解除された後に,Aが建物の修繕の
ため必要費を支出した場合,Aは,その必要費の償還を受けるまで,留置権に基づき
当該建物の返還を拒否できる。」
【正解:×】 債務不履行により解除されているため、Aは不法に建物を占拠していることになります。 不法に占拠している人が必要費・有益費を支出しても、留置権の行使はできないとされています。(最高裁・昭和46.7.16) |
3.「Aは,留置権に基づき建物の返還を拒否している場合に,当該建物に引き続き
居住したとき,それによる利益 (賃料相当額) は返還しなければならない。」
【正解:○】 留置権を行使する賃借人は居住による利益(=賃料相当額)は不当利得として返還する義務を負います。(大審院・昭和13.12.7) 賃借人は留置権により、被担保債権の弁済を受けるまで目的物を留置する事はできますが、この場合は留置だけでなく、居住という不当利益を受けています。このため不当利益返還義務が生じています。 留置するのはあくまでも被担保債権の弁済を受けるためのものであり、このことと居住していたということとはまた別の扱いになります。 |
4.「Aは,留置権に基づき建物の返還を拒否している場合に,さらに当該建物の修繕
のため必要費を支出したとき,その必要費のためにも留置権を行使できる。」
【正解:○】必要費償還請求権 留置権の行使をしている間に、必要費や有益費を支出したときは、所有者にその費用の償還請求ができ、そのために留置権を行使することができます。(299条1項) <比較> 1.建物賃借中に建物の修繕のため必要費 4.留置権の行使をしている間に、建物の修繕のため必要費を支出 |
●参考問題 |
1.「造作買取請求権を行使した建物の賃借人は、造作代金の提供がなされない場合でも、当該建物につき留置権を主張することはできない。」 |
【正解:○】 ・造作買取請求権は造作に関して生じた債権であり、建物について生じた債権ではない ・造作は取り外しが可能。 このことにより、造作買取請求権に基づいて建物に留置権を主張することはできません。 (最高裁・平成3.7.16) |
●賃貸借契約の目的物に係る留置権の成立と不成立 〔判例〕 | ||
〔借家〕必要費・有益費の償還請求権 | ○ | 建物に留置権を主張することができる。 |
〔借地〕建物の買取請求権 | ○ | 建物だけでなく,借地の土地についても,留置権を主張できる。 |
〔借家〕造作買取請求権 | × | 造作に留置権を主張することはできるが,建物に留置権を主張することはできない。 |
〔借家〕敷金返還請求権 | × | 敷金返還請求権は建物の明渡し時に発生するので,建物に留置権を主張することはできない。 |