Brush Up! 権利の変動篇

担保物権の過去問アーカイブス 不動産先取特権


不動産先取特権に関する次の記述は,○か×か。

1.「不動産売買の先取特権は,売買契約と同時に一定の事項を登記することによって,その効力を保存する。」(昭和46年)

2.「不動産先取特権と抵当権の優劣は,常に登記の前後による。」(昭和52年)

3.「先取特権は,抵当権の規定の準用を受ける。それゆえ,同一の不動産上に,不動産保存・不動産工事・不動産売買の先取特権があるときは,各先取特権間において,その効力は登記の先後による。」

4.「先取特権は,原則として法の規定によって生ずるが,例外的に不動産賃貸・不動産売買・動産売買の先取特権は,当事者間の契約によっても生ずる。」

【正解】

× × ×

1.「不動産売買の先取特権は,売買契約と同時に一定の事項を登記することによって,その効力を保存する。」(昭和46年)

【正解:

◆不動産売買の先取特権

 不動産の先取特権とは,不動産保存の先取特権(民法326条)不動産工事の先取特権(民法327条)不動産売買の先取特権(民法328条),の三つです。(民法325条)

 不動産売買の先取特権は,その不動産の売買契約と同時に,まだその代金や利息の弁済がない旨の登記をすることによって効力が保存されます。(民法340条)不動産売買の先取特権とほかの担保物権などとの優劣は、登記の先後によることに注意してください。

不動産保存の先取特権と不動産工事の先取特権はこれより先に登記されていた抵当権に対しても優先します。(民法337条-不動産保存の先取特権の登記-,338条-不動産工事の先取特権の登記-,339条-前二項の先取特権は抵当権より優先される-)

2.「不動産先取特権と抵当権の優劣は,常に登記の前後による。」(昭和52年)

【正解:×

◆不動産先取特権

 不動産先取特権とは,不動産保存の先取特権(民法326条)不動産工事の先取特権(民法327条)不動産売買の先取特権(民法328条),の三つです。(民法325条)

 担保物権の順位は原則として登記の先後によります。(不動産登記法6条1項)しかし, 不動産を目的とする担保物権の順位はすべて登記の先後によるわけではありません

 不動産売買の先取特権では,抵当権との優劣は登記の先後によりますが,

 不動産保存の先取特権と不動産工事の先取特権はこれより先に登記されていた抵当権に対しても優先します。

 したがって,「常に登記の前後による」とする本肢は×です。

●参考問題
1.「不動産を目的とする担保物権の順位は,すべて登記の先後による。」(平成3年・問7)

【正解:×

2.「登記された抵当権は,その後同一不動産上に設定され登記を経たすべての担保物権に優先する。」(司法試験・択一・昭和47年)

【正解:×

3.「先取特権は,抵当権の規定の準用を受ける。それゆえ,同一の不動産上に,不動産保存・不動産工事・不動産売買の先取特権があるときは,各先取特権間において,その効力は登記の先後による。」(司法試験・択一・昭和42年)

【正解:×

◆競合する不動産先取特権の順位

 物上代位は先取特権について規定され(304条),質権・抵当権で準用されています(350条,372条)。したがって,冒頭部分だけで誤りだということがわかります。

 同一不動産に特別の先取特権が互いに競合する場合にはその優先権の順位は,

    不動産保存>不動産工事>不動産売買

 の順に従うことになっています(331条1項)。(⇒ 登記の先後によるというのは誤りです。)

 不動産保存の先取特権が第一順位になっているのは,ほかの先取特権者も保存行為によって利益を受けると考えられているからです。

不動産保存  保存行為完了後直ちに登記。
 (337条)
 不動産の保存費の担保。
 不動産に関する権利の保存・
 追認・実行
のための費用の担保。
不動産工事  工事前に費用の予算額を登記。
 (338条)
 工事による不動産価額の増加が
 現存する場合に限り,増価額の
 範囲
で認められる。
不動産売買  売買契約と同時に登記。(340条)  不動産の売買代価と利息の担保

4.「先取特権は,原則として法の規定によって生ずるが,例外的に不動産賃貸・不動産売買・動産売買の先取特権は,当事者間の契約によっても生ずる。」(司法試験・択一・昭和42年)

【正解:×

◆法定担保物権

 もっともらしく書いてあってもダマサレナイようにしましょう。

 先取特権とは,当事者が担保設定契約を締結しなくても特定の債権について当然に法定の担保物権として認められ,担保権の実行としての競売等より(不動産先取特権では担保不動産収益執行からも)債務者の財産から優先弁済を受けられる権利です。担保物権の附従性・随伴性・不可分性・物上代位性の全てを備えています。

 したがって,「例外的に〜当事者間の契約によっても生ずる」とあるのは×

一般の先取特権
(債務者のすべての財産にかかる)
共益費用・雇人給料・葬式費用・日用品供給
特別の先取特権 動産の先取特権 不動産賃貸の先取特権
動産売買の先取特権
動産保存の先取特権など8種類
不動産の先取特権 不動産の保存の先取特権
不動産工事の先取特権
不動産売買の先取特権

●代価弁済と消滅請求
 先取特権は抵当権の規定が準用されるので,第三取得者〔担保不動産の譲受人〕は,代価弁済(377条)消滅請求(378条)によって先取特権を消滅させることができます。

担保物権のトップに戻る

Brush Up! 権利の変動のトップに戻る