Brush Up! 権利の変動篇
担保物権の過去問アーカイブス 平成14年・問5
債権質〔対抗要件・被担保債権の範囲(利息請求権)・供託の請求・直接取立権の時期
Aは,Bから建物を賃借し,Bに3,000万円の敷金を預託した。その後,Aは,Bの承諾を得て,この敷金返還請求権につき,Cからの借入金債務を担保するために,Cのために適法に質権を設定した。この場合,民法の規定によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。(平成14年・問5) |
1.「Cは,Bの承諾が書面によるものであれば,確定日付を得ていなくても,この質権設定を,B以外の第三者に対しても対抗することができる。」 |
2.「CのAに対する利息請求権は,常に満期となった最後の2年分についてのみ,この質権の被担保債権となる。」 |
3.「CのAに対する債権の弁済期の前に,この敷金返還請求権の弁済期が到来した場合は,Cは,Bに対し,当該敷金を供託するよう請求できる。」 |
4.「CのAに対する債権の弁済期が到来した場合,Cは,Bに対し,Bがこの質権設定を承諾したことを根拠に,この敷金返還請求権の弁済期の前に,当該敷金を直ちにCに交付するよう請求できる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
1.「Cは,Bの承諾が書面によるものであれば,確定日付を得ていなくても,この質権設定を,B以外の第三者に対しても対抗することができる。」(平成10年・問3・肢2) |
【正解:×】 ◆指名債権の債権質の対抗要件は債権譲渡とほぼ同じ B (賃貸人,第三債務者) 指名債権を目的に質権を設定した場合の第三債務者への対抗要件は,債権譲渡と同じで,『質権の設定を質権の設定者Aから第三債務者Bに対して通知する』か,『第三債務者Bが質権設定者Aor質権者Cに対して質権設定を承諾する』ことです。(364条1項) そして,この質権設定を第三債務者以外の第三者〔債権の譲受人や同一債権に対して質権を取得した者〕に対抗するためには,上記の質権設定の通知または承諾が確定日付のある証書〔公正証書や内容証明郵便〕でなければいけません。(364条,467条2項) したがって,本肢では,<確定日付を得ていなくても,第三者に対しても対抗することができる>としているので×です。 ▼債権質の対抗要件は複雑なため,出題されるのは本問題での指名債権質などの一部のものに限られると思われます。 |
2.「CのAに対する利息請求権は,常に満期となった最後の2年分についてのみ,この質権の被担保債権となる。」 |
【正解:×】 ◆質権の被担保債権の範囲−利息請求権 B (賃貸人,第三債務者) 不動産質権では,使用収益権があるので,特約がなければ質権者は利息を請求することができませんでした。〔ただし,利息を請求できる特約があった場合は,抵当権の374条が準用されるため,原則として最後の2年分のみ請求できる。〕(358条,359条,361条,374条) 本肢はこの不動産質権との混同を狙って作問された意地悪問題です。〔不動産質権の過去問を見ていた人を引っ掛けようという意図がありありと見えます。〕 質権では,実は,上であげた不動産質権を除いて,利息を請求できないというのは,動産質・権利質〔債権質を含む〕ともありません。動産質・権利質では利息(最後の2年分という制限はない)も請求できます。 したがって,本肢は×です。 ▼動産質・権利質〔債権質を含む〕での被担保債権の範囲は広く,元本・利息・違約金・質権実行の費用・質物保存の費用・債務不履行による損害賠償などを認めています。これは,質権者が質物を占有しているので後順位担保権者などの第三者が現れることがほとんどなく第三者の利益を害する恐れが少ないためです。(364条) |
3.「CのAに対する債権の弁済期の前に,この敷金返還請求権の弁済期が到来した場合は,Cは,Bに対し,当該敷金を供託するよう請求できる。」 |
【正解:○】 ◆直接取立権・供託の請求 B (賃貸人,第三債務者) 債権質では,質権の目的である債権を第三債務者から直接取り立てることができます。(367条1項。ただし,質権の被担保債権及び質権の目的債権の弁済期が共に到来している場合。) 質権の目的債権の弁済期が,質権の被担保債権の弁済期よりも先に到来したときは,質権者は第三債務者に対して,弁済金額を供託するように請求することができます。以後,質権はこの供託金請求権の上に存在することになります。(367条3項) 質権設定 敷金返還請求権の弁済期 Cの被担保債権の弁済期 ――●―――――――――●――――――――――●―――― CはBに供託を請求できる |
4.「CのAに対する債権の弁済期が到来した場合,Cは,Bに対し,Bがこの質権設定を承諾したことを根拠に,この敷金返還請求権の弁済期の前に,当該敷金を直ちにCに交付するよう請求できる。」 |
【正解:×】 ◆直接取立の時期 −質権の目的債権の弁済期,かつ,質権の被担保債権の弁済期 B (賃貸人,第三債務者) CはBから直接に取り立てることができると言っても,やはり「CのAに対する債権が弁済期」にあり,かつ,「敷金の返還請求ができる時期」になっていなければ,取り立てることはできません。 したがって,本肢のように,CのAに対する債権の弁済期が到来しても,敷金返還請求権の弁済期がまだ来ていない時期では,当該敷金を直ちにCに交付するよう請求することはできません。つまり本肢は×です。 質権設定 Cの被担保債権の弁済期 敷金返還請求権の弁済期 ――●―――――――――●――――――――――●―――― |
●質権 |
質権には,大別して,動産質・不動産質・権利質〔債権質はその一部〕の三つがあります。宅建試験では,昭和の時代は,質権の一般的な規定や不動産質の問題だったのですが,近年は賃貸借に絡んで債権質が出題されるようになりました。
出題されているのは基礎知識であっても,全く知らないのでは対処できないため,過去問で出題されているものは一通り見ておく必要があります。 |
註 権利質とは財産権を目的にした質権(362条)で,財産権のうち特に債権を目的にした
ものを債権質といい,権利質の中では債権質が実務上最も多く使われています。
●質権の対抗要件 | ||
動産質 | 占有の継続 (352条)☆ | |
不動産質 | 登記 (177条,361条,373条)☆ | |
債権質 | 指名債権 | 債権譲渡の対抗要件に準じるもの (364条)☆ |
指図債権 | 証書に質権設定の裏書 (366条) | |
無記名債権 | 占有の継続 (352条,86条3項) |
註 ☆は出題歴のあるものです。
余力がある人のためのFurther Study●指名債権,指図債権,無記名債権 |
■指名債権
証券的な債権〔指図債権・無記名債権〕に対する用語で,証券的な債権以外の一般の債権のことを言います。債権とは原則的に特定人を債権者とするものですが,証券化されず流通されることを予定していない債権のことを『指名債権』と言っています。 ■指図債権 「証書に表示された者」または「表示された者の指図によって指定された者」が行使できる債権。譲渡の場合は,「証券の交付かつ裏書」が効力発生要件であり対抗要件となる。例としては,約束手形・為替手形・小切手・倉庫証券・貨物引換証など。 ■無記名債権 証券に債権者〔権利者〕を特定・表示せずに債権の成立・存続・行使がすべて証券によってなされる債権。所持している人が権利者とみなされる。商品券・乗車券・入場券など。無記名債権は動産とみなして動産に準じた扱いがされ(86条3項),譲渡の場合は,占有の継続が対抗要件となる。 |