Brush Up! 権利の変動篇

債権譲渡の過去問アーカイブス 平成15年・問8 


は,に対して貸付金債権を有しており,はこの貸付金債権をに対して譲渡した。この場合,民法の規定及び判例によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。
( 平成15年・問8)

1.「貸付金債権に譲渡禁止特約が付いている場合で,が譲渡禁止特約の存在を過失なく知らないとき,に対して債権譲渡が無効であると主張することができない。 」

2.「が債権譲渡を承諾しない場合,に対して債権譲渡を通知するだけでは,に対して自分が債権者であることを主張することができない。 」

3.「が貸付金債権をに対しても譲渡し,へは確定日付のない証書,へは確定日付のある証書によってに通知した場合で,いずれの通知もによる弁済前に到達したとき,への通知の到達の先後にかかわらず,に優先して権利を行使することができる。」

4.「が貸付金債権をに対しても譲渡し,へは平成15年10月10日付,へは同月9日付のそれぞれ確定日付のある証書によってに通知した場合で,いずれの通知もによる弁済前に到達したとき,への通知の到達の先後にかかわらず,に優先して権利を行使することができる。 」

【正解】

×

1.「貸付金債権に譲渡禁止特約が付いている場合で,が譲渡禁止特約の存在を過失なく知らないとき,に対して債権譲渡が無効であると主張することができない。 」

【正解:出題歴・昭和61年問10肢3

◆債権譲渡禁止の特約に反したときの善意無重過失の第三者

          債権譲渡
 (譲渡人)――――――→(譲受人) 善意無過失
 | 
 |貸付金債権
 |譲渡禁止の特約
 (債務者)

 指名債権は原則として自由に譲渡できますが,債務の性質上譲渡を許さないもの(466条1項但書)法律上譲渡が禁止されているもの(881条など),当事者間の特約で禁止されている場合(466条2項)には,債権譲渡することはできません。

 債権譲渡禁止の特約に違反して,債権者が債権を譲渡した場合は,原則として,その債権譲渡は無効になります。(最高裁・昭和49.4.26)

 ただし,譲渡禁止の特約について,譲受人が善意であり,かつ,重過失でなければ,譲受人は有効に債権を取得します。(民法466条2項,最高裁・昭和48.7.19)

 本肢では,譲受人が善意無過失なので,は有効に債権を取得し,に対して債権譲渡が無効であると主張することはできません。

 判例 譲渡禁止特約があっても第三者が善意無重過失ならば,取引の安全を図るためその第三者は保護される。〔無過失は不要。〕(最高裁・昭和48.7.19)

この問題ではが保護されるには「善意無過失」が必要と解説しているものがありますが,この「善意無過失説」は故・我妻榮博士等の学説です。この学説だと保護される第三者の範囲はかなり狭くなります。

  問題文では,「民法の規定及び判例によれば」となっているので,この点には注意しないといけません。

将来発生する債権でも,発生原因や金額,期間などで特定しているならば,債権譲渡することができます。(最高裁・平成11.1.29)

2.「が債権譲渡を承諾しない場合,に対して債権譲渡を通知するだけでは,に対して自分が債権者であることを主張することができない。 」(頻出問題)

【正解:出題歴・平成5年問5,平成2年問3,昭和61年問10,昭和55年,昭和54年etc.

◆債務者への対抗要件

          債権譲渡
 (譲渡人)――――――→(譲受人)
 | 
 |貸付金債権
 |
 (債務者)

 債権の譲受人から債権譲渡の通知がきても,債務者はそれだけでは真偽の確認のしようがないので,民法では,債権譲渡の通知は債権の譲渡人からの通知に限定しました。債権譲渡により不利を蒙る者からの通知ならば信用できるだろうという趣旨です。(467条1項)

●債権譲渡の債務者への対抗要件

  債務者が 譲渡人 or 譲受人に承諾

  譲渡人からの債務者への通知

3.「が貸付金債権をに対しても譲渡し,へは確定日付のない証書,へは確定日付のある証書によってに通知した場合で,いずれの通知もによる弁済前に到達したとき,への通知の到達の先後にかかわらず,に優先して権利を行使することができる。」

【正解:

◆債権の二重譲渡の優劣−確定日付はあるか

    ┌  への通知は 確定日付のない証書   
 ―┤
 | └  への通知は 確定日付のある証書 
 |貸付金債権
 |
 

 に対する指名債権がに二重に譲渡され,確定日付のある証書による通知が一方のみの場合は,確定日付のある証書による通知が優先され,たとえ確定日付のない証書による通知が先にに到達したとしても,本肢ではが債権の譲受人としての債権者になります。(467条2項,大審院・大正8.3.28)

●債権の二重譲渡の優劣

             ┌ 確定日付のある証書
 債権の二重譲渡―┤
             └ 承諾の前後

●確定日付のある証書で判断しましょう 

 確定日付のないものとあるものでは、確定日付のあるものが優先する。
  (大審院・大正8.3.28)

4.「が貸付金債権をに対しても譲渡し,へは平成15年10月10日付,へは同月9日付のそれぞれ確定日付のある証書によってに通知した場合で,いずれの通知もによる弁済前に到達したとき,への通知の到達の先後にかかわらずに優先して権利を行使することができる。 」(平成12年問6肢3)

【正解:×

◆債権の二重譲渡の優劣−到達したのはどちらが先か

    ┌  への通知は 確定日付のない証書 平成15年10月10日作成   
 ―┤
 | └  への通知は 確定日付のある証書 平成15年10月9日作成 
 |貸付金債権
 |
 

●債権の二重譲渡の優劣

             ┌ 確定日付のある証書… 到達した日時の先後
 債権の二重譲渡―┤
             └ 承諾の前後

 証書の確定日付 (証書の作成の日付)
               

      ―――――――――→ 時間軸

  確定日付はのほうが早いが、この先後では決まらない。

 債権が二重に譲渡され,二人の譲受人がともに,確定日付のある証書
 による通知 or 承諾を得ている場合,「通知が到達した日 or 承諾の日時」
 の先後によって,優劣が決まります。(最高裁・昭和49.3.7)

●二つとも確定日付ある証書のときは 到達の前後で判断する 

 到達の日時・承諾の日時のどちらが先かで優劣が決まる

 〔通知の場合〕 到達はどちらが先かで判断しましょう

  cf. 確定日付は、その書類が作成された日を示すだけなので、
    複数の通知があった場合には、到達の日付で考えます。

余力がある人のためのFurther Study●指名債権,指図債権,無記名債権
■指名債権

 証券的な債権〔指図債権・無記名債権〕に対する用語で,証券的な債権以外の一般の債権のことを言います。債権とは原則的に特定人を債権者とするものですが,証券化されず流通されることを予定していない債権のことを『指名債権』と言っています。

■指図債権

 「証書に表示された者」または「表示された者の指図によって指定された者」が行使できる債権。譲渡の場合は,「証券の交付かつ裏書」が効力発生要件であり対抗要件となる。例としては,約束手形・為替手形・小切手・倉庫証券・貨物引換証など。

■無記名債権

 証券に債権者〔権利者〕を特定・表示せずに債権の成立・存続・行使がすべて証券によってなされる債権。所持している人が権利者とみなされる。商品券・乗車券・入場券など。無記名債権は動産とみなして動産に準じた扱いがされ(86条3項),譲渡の場合は,占有の継続が対抗要件となる。


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