Brush Up! 権利の変動編

正解・解説

債権譲渡の過去問アーカイブス 昭和55年・問11


【正解】 4

× × ×

に対する債権をに譲渡した場合の,に対する対抗要件として,必要かつ十分なものは,次の記述のうちのどれか。(昭和55年・問11)

1.「からに通知する。」

2.「から及びに通知する。」

3.「からに通知し,かつ,が承諾することを要する。」

4.「からに通知する。」

【正解:

              債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  | AからBへ債権譲渡の通知
 (債務者)
  BがA or Cに、承諾する。

●譲受人の債務者への対抗要件
 債務者への通知  譲渡人(元の債権者) → 債務者
 債務者の承諾  債務者 → 譲渡人(元の債権者)

         or 

 債務者 → 譲受人

 債権譲渡とは、債権の同一性を保ったまま、契約によって債権を移転することです。(民法466条1項) このため、抵当権などの担保権保証債権抗弁権利息債権などの従たる権利も原則として譲受人に移転します。

 指名債権の譲渡は、譲渡人(A)がこれを債務者(B)に“通知”をするか、債務者(B)がこれを“承諾”しなければ、譲受人(C)は、指名債権の譲渡を債務者(B)に対抗することはできません(民法第467条1項)。通知と承諾には、若干の法的効果の違いがありますが、譲受人の債務者への対抗要件としては、この二つのうちのどちらかが必要です。

 例えば、金を貸しているAが、金を借りているBに「Bさんへの貸金債権は、以降Cさんに譲ったからよろしくタノム」と“通知”をするか、BがAもしくはCに“承諾”すれば、BはCに対抗することができます。

 それらの通知または承諾がないのに、Cなる人物がBに、「Aから債権を譲り受けたので払ってください」といきなり請求してきても、Cのウソかも知れず、Bは拒絶できます。

 債務者への通知は、『譲渡人』からなので、1.2.は×になります。

 通知と承諾は、そのうちのどちらかが満たされていればよく、3は両方とも必要としているので×になります。

<関連>

 債権譲渡の対抗要件には、債務者への対抗要件債務者以外の第三者に対する対抗要件の2種類があります。

 債権譲渡の“通知”または“譲渡”は、債務者以外の第三者に対しては、「確定日付のある証書」がなければ債権の譲渡を主張することができません(第467条2項)。

●債権譲渡の対抗要件の整理
 債務者への対抗要件  譲渡人(元の債権者)から債務者への通知

 債務者から 譲渡人 or 譲受人 への承諾

 債務者以外の第三者への対抗要件  譲渡人(元の債権者)から債務者への通知

 債務者から 譲渡人 or 譲受人 への承諾

 通知、承諾とも確定日付のあるもの
  なければならない。 

 確定日付のあるものの優劣は、
   通知の到達日、承諾日の先後による。

●関連問題
1.「指名債権は債権者が特定されている債権であり、その譲渡については、譲渡人である債権者と譲受人との契約に基づくが、その契約の成立には紛争を防止するため、譲渡契約書の作成が法律上必要な要件とされる。」
【正解:×

              債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  | AからBへ債権譲渡の通知
 (債務者)
  BがA or Cに、承諾する。

 債権譲渡の契約成立には、譲渡契約書の作成は要求されていません。             

指名債権

  債権者が特定されている債権のこと。宅建の試験での『債権譲渡』の問題での債権は、この指名債権です。

余力がある人のためのFurther Study●指名債権,指図債権
■指名債権

 証券的な債権〔指図債権・無記名債権〕に対する用語で,証券的な債権以外の一般の債権のことを言います。債権とは原則的に特定人を債権者とするものですが,証券化されず流通されることを予定していない債権のことを『指名債権』と言っています。

■指図債権

 「証書に表示された者」または「表示された者の指図によって指定された者」が行使できる債権。譲渡の場合は,「証券の交付かつ裏書」が効力発生要件であり対抗要件となる。例としては,約束手形・為替手形・小切手・倉庫証券・貨物引換証など。

余力がある人のためのFurther Study●債務者の保護と譲受人の保護
■債務者の保護

 債権譲渡は、特約で禁止されていない限り、債務者は債権譲渡を否定できません。(債権譲渡の成立に、債務者の同意は不要。)

 このため、民法は、債権譲渡により債務者が不利益を被らないように、予防措置をしています。

 債務者が知らない間に、債権が譲渡され、債権者が入れ替わっていたら、例えば、次のような事態が考えられます。

・元の債権者に支払ったところ、債権が譲渡されており、その支払いが無効になった。(債務の履行は、債権者にしなければ無効です。)

・『契約が無効であったり、契約を取り消したり、債権者の債務不履行により解除した』のにもかかわらず、債権譲渡を受けた譲受人から支払いの請求がきた。

 このようなことがないように、民法では、債権の譲渡人から債務者への通知 or 債務者の承諾 を必要としたのです。(債権譲渡についての情報が自然に債務者に集まっていくようにしています。)

■譲受人の保護

 債権譲渡にはリスクがつきものです。民法は、譲受人のリスクを回避する規定も設けています。

 民法では、

 譲渡人が譲渡の通知をしただけのときには、譲渡通知までに債務者が譲渡人(元の債権者)に主張できることを譲受人にも主張できる(民法468条2項)

 としています。

 譲渡人が譲渡の通知をしただけだと、この債権の元である契約そのものが無効、取消し、解除になっているかもしれないため、事実上、債権の譲受人となろうとする者は、譲渡を受ける前に、債権関係を調査・確認せざるを得ません。

 債権の譲受人となろうとする者にとって、債務者は登記に匹敵する、その債権の情報センター(一種の公示システム)です。このときに、もし、債務者が誤った情報を流したとしたら、債権の譲受人となろうとする者に不測の不利益を与えることにもなりかねず、民法はここで、譲受人のリスクを回避する規定を設けました。

 債務者が異議を留めないで債権譲渡の承諾をした場合には、譲渡人に対抗することができる事由があっても、それを善意の譲受人に対抗することができなくなります(民法468条1項)

 債務者が『異議をとどめないで承諾』をすることによって、債務者が元の債権者に主張できたものができなくなります。(相殺、同時履行の抗弁権や留置権、その債権の元になる契約の無効・詐欺による取消しの主張など)

  これだけのペナルティがあれば、債務者がうっかり生返事の承諾をすることはなくなり、債権の譲受人となろうとする者から債権の照会があったときに、正確な情報を債務者が提供することが期待できます。民法は、このような規定で、譲受人を保護しているのです。

【例外1】 ただし、債務者が債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを譲渡人(元の債権者)から取り返し、また譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しなかったものとみなすことができます。(民法468条1項)

【例外2】 また、判例では、債務者が承諾をしても、公序良俗違反による無効(判例では、賭博行為)は、特段の事情がない限り、譲受人に対して無効を主張してその履行を拒むことができるとしています。(最高裁・平成9.11.11)

余力がある人のためのFurther Study ●債権譲渡禁止の特約
 債権の譲渡は、成立には債務者の同意を必要とせず、債権者の一方的な事情でされるものであることから、特約で「債権譲渡禁止」をすることができます。

 債権譲渡によって債務者が得をすることはまず考えられず、過誤払いの恐れがあったり、債権の確認のテマがかかったり、債権の譲受人によっては取立てが厳しくなったりします。債権者に対して別の債権を持っているので相殺しようと思っていたのに、債権譲渡されれば、相殺もできなくなる、ということもあります。

 このようなことを避けるために、当事者の取り決めで「債権譲渡禁止特約」をすることができます。(条文では、「当事者が反対の意思表示をした場合」=「債権譲渡禁止特約」)

債権譲渡禁止の特約に違反して、債権者が債権を譲渡した場合は、原則としてその債権譲渡は無効になります。ただし、譲渡禁止の特約について、譲受人が善意であり、かつ、重過失でなければ、譲受人は有効に債権を取得します。(民法466条2項、判例・通説 )→債権譲渡禁止の特約の存在を知らない第三者には対抗できない。

譲渡禁止の特約について悪意の者が譲受人であった場合でも、その後、債務者が債権譲渡の承諾を与えたときは、債権譲渡は譲渡のときに遡って有効になります。(最高裁・昭和52.3.17) ただし、この場合でも、第三者の権利を害することはできません。(最高裁・平成9.6.5)

債権譲渡禁止の特約は、差押債権者の善意・悪意には関係なく、差押えには効力がありません(最高裁・昭和45.4.10) 債権譲渡禁止の特約のついている債権でも第三者は差し押さえることができます。その差押債権者は、裁判所に転付命令の申立てをしてその債権者になることもできます。(転付命令が出されると、差し押さえられた債権は差押債権者に移転し、差押債権者は新たな債権者になります。)

余力がある人のためのFurther Study ●債権譲渡の目的

  債権譲渡に登場する当事者の立場で、それぞれの思惑を見ていきましょう。

1) 資金調達と投資(債権の売買)

              900万円で債権譲渡
 (債権者、譲渡人)――――――――――――→(譲受人、Bへの債権を買取る)
  ↓1,000万円の債権
 (債務者)

 (債権者、譲渡人)・・・に譲渡することで債権を換金して資金化を図る。
               (債権額よりも少なくなるが、当面の資金調達ができる)

 (譲受人)・・・・・・・・・・譲渡を受けることにより、利益を得る。 
              (900万円の投資で1000万円になるので差額が利益になる)

2) 代物弁済債権回収としての債権譲渡

 (Aの債権者、譲受人、Aへの債権を回収する)
 債権譲渡    
 (債権者、譲渡人)  
  |
 (債務者)

 (債権者、譲渡人)・・・手持ち資金がないため、Dへの代物弁済として債権譲渡する。

 (Aの債権者、譲受人)・・・・・・資金的に苦しくなったAから債権を譲り受けて、
                   Aに対する債権を回収する。

債権の譲渡担保・・・AがDから融資を受ける際に、AがBに対して持っている債権を、担保目的でDに譲渡し、Aの債務不履行があれば、Dはその譲り受けた債権を行使して、Bから貸付金を回収する。債権譲渡には、このようなケースもあります。

余力がある人のためのFurther Study ●譲渡人が法人のときの債権譲渡
 譲渡人が法人の場合の債権譲渡を対象に、「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(平成10年制定)により、債権譲渡登記制度が創設されています。

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