Brush Up! 権利の変動編

正解・解説

債権譲渡の過去問アーカイブス 平成12年・問6


【正解】

×

が,に対して有する金銭債権をに譲渡した場合に関する次の記述は,民法の規定及び判例によれば,○か、×か。(平成12年・問6)

1.「譲渡通知は,に対してしなければならないが,の代理人としてに対して通知しても差し支えない。」⇔対比 : 平成9年問5肢3

【正解:

◆債務者への通知を、譲受人が譲渡人の代理人として行うことができる

              債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  |                     Aの代理人として、Bへ債権譲渡の通知
 (債務者) ←-----------------
  

 債権譲渡の通知は、元債権者であるAが債務者のBに対してしなければいけません。譲受人のCが譲受人としてBに通知しても、債権譲渡の対抗要件にはなりません。

 しかし、Aが代理人に債権譲渡の通知を委託することは可能であり、本肢ではその代理人がタマタマCであったということに過ぎません。代理人のした行為は本人の名で行われる以上、その効果は本人に帰属するので、譲受人が譲渡人の代理人として行った通知は有効とされています。〔譲受人が譲渡人の使者として行った通知も有効〕(大審院・昭和12.11.9) 実務上でも、譲受人へ「債務者への通知」を行う代理権授与はよく行われています。

CがAの代理人として債権譲渡の通知をすることはできますが、CがAに代位して譲渡の通知をすることはできません。判例では、譲受人が譲渡人に代わって、代位行使することは否定しています。(大審院・昭和5.10.10)

2.「が譲渡を承諾する相手方は,又はのいずれでも差し支えない。」(類:昭和55年)

【正解:

              債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  |
 (債務者)
  BがA or Cに、承諾する。

 Bの承諾する相手方は、A又はCのいずれでも差し支えありません。(大審院・大正6.10.2)

●譲受人の債務者への対抗要件
 債務者への通知  譲渡人(元の債権者) → 債務者
 債務者の承諾  債務者 → 譲渡人(元の債権者)

         or 

 債務者 → 譲受人

債務者の承諾は、代理人による承諾使者による承諾どちらも有効とされています。

3.「が,とに二重譲渡し,それぞれについて譲渡通知をした場合で,に係る通知の確定日付はに係るものより早いが,に対しては,に係る通知がに係る通知より先に到達したとき,への債権譲渡が優先する。」(関連 : 平成9年、5年)

【正解:

◆債権の二重譲渡の優劣判定基準

           ―――――――→(譲受人)
              債権の二重譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  | AからBへ債権譲渡の通知
 (債務者)

 債権が二重に譲渡されたときは、二人の譲受人がともに、確定日付のある証書による通知 or 承諾を得ている場合、「通知が到達した日 or 承諾の日時」の先後によって、優劣が決まります。(最高裁・昭和49.3.7)

 本設問では、ともに確定日付のある証書によって通知がなされていますが、Bには先にDへの譲渡通知が到達しているので、Dへの債権譲渡が優先します。(確定日付の先後はメクラマシ)

 証書の確定日付

 (証書の作成の日付)

               D

      ―――――――――→ 時間軸

  確定日付はCのほうが早いが、この先後では決まらない。  

 到達の先後                C

      ―――――――――→ 時間軸

  通知の到達は、Dのほうが早いので、Dが優先

債権の二重譲渡の優劣判定の原則

確定日付のある証書で判断しましょう 〔日付のゴマカシ防止〕

 確定日付のないものとあるものでは、確定日付のあるものが優先
                                     (大審院・大正8.3.28)

・確定日付がある場合 到達・承諾の日時のどちらが先かで優劣が決まる

 〔通知の場合〕到達がいつかで判断しましょう

          cf. 確定日付は、その書類が作成された日を示すだけなので、
            複数の通知があった場合には、到達の日付で考えます。

 〔承諾の場合〕承諾の日時がいつかで判断しましょう

確定日付のある証書 (民法施行法第5条)

 公正証書(公証人役場で作成)・内容証明郵便など。

債権の差押えをした者とその同一債権の譲受人との間の優劣

 債権の差押通知が債務者に到達した日時と、確定日付のある債権譲渡通知が債務者に到達した日時の先後によって決する。(最高裁・平成5.3.30)

●参考問題
AのBに対する貸金に関する次の記述は、○か×か。

 に対する貸金債権をに譲渡した場合,は,その旨をBに確定日付のある証書で通知しなければ,第三者に対抗することができない。(平成2年・問3・肢1)

【正解:×

              債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  |                     Bへ債権譲渡の通知
 (債務者) ←-----------------

債権譲渡の第三者への対抗要件は、譲渡人から債務者への確定日付のある通知か、債務者の,譲渡人または譲受人への確定日付のある承諾が必要です。

 本肢では、たとえ確定日付のあるものであっても、譲受人から債務者への通知なので、第三者への対抗要件にはなりません。

 譲渡人から債務者への確定日付のある通知ならば、第三者への対抗要件になります。

4.「が,既にに弁済していたのに,に対する譲渡を異議を留めないで承諾した場合,は,弁済したことをにもにも主張することができない。」(平成9年)

【正解:×

◆異議をとどめない承諾の効力

              債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  | すでに弁済
 (債務者)
  BがA or Cに、異議をとどめない承諾をする。

 Bは、Aに弁済したことを善意のCには対抗できず、Cに債務を弁済しなければなりません。(最高裁・昭和42.10.27)結果的にAとCには二重払いにはなりますが、Aに弁済したお金は取り戻すことができます。これは、Aに弁済したことを、善意のCに対しては主張できませんが、Aに対しては主張できるためです。

債権の譲受人Cが、もし「Bが既にAに弁済していた」ことを知っていたのならば(悪意のとき)、Bは、異議を留めない承諾をしていたとしても、悪意の譲受人にたいしては、弁済したことを主張できます。

●債権譲渡の通知と承諾の効力の整理
 通知 

 (異議をとどめる承諾)

 債務者は、『その通知を受けるまでに譲渡人に
 対して生じた事由』を、譲受人に主張できる

 異議を留める承諾では、承諾前に生じた事由

 異議をとどめない承諾  債務者は、『承諾前に譲渡人に対して生じた事由』
 を、善意の譲受人には主張できない

●異議を留めない承諾の効力の整理
 譲受人が悪意  債務者は、『承諾前に譲渡人に対して生じた事由』
 を、悪意の譲受人に主張できる
 譲受人が善意  債務者は、『承諾前に譲渡人に対して生じた事由』
 を、善意の譲受人に主張できない

債権の譲受人となろうとする者にとって、債務者は登記に匹敵する、その債権の情報センターです。このときに、もし、債務者が誤った情報を流したとしたら、債権の譲受人となろうとする者に不測の不利益を与えることにもなりかねず、民法はここで、譲受人のリスクを回避する規定を設けました。

 債務者が異議を留めないで債権譲渡の承諾をした場合には、譲渡人に対抗することができる事由があっても、それを善意の譲受人に対抗することができなくなります(民法468条1項)

  債務者が『異議をとどめないで承諾』をすることによって、「譲渡人に対して生じた事由」(債務者が元の債権者に主張できたもの)ができなくなります。(相殺、同時履行の抗弁権や留置権、その債権の元になる契約の無効・詐欺による取消しの主張など)

 ただし、債務者が債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り返し、また譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しなかったものとみなすことができます。(民法468条1項)

異議をとどめる承諾(異議のある承諾)

 債務者が債権譲渡を承諾する際に、債務者が「譲渡人に対して生じた事由」があることを述べ、留保しておけば、これらの事由はそのまま存続し、「債権譲渡の通知」がなされたことと同じ扱いになります。(通説)

●関連問題
1.「債権が譲渡され、債務者が異議を留めない承諾をした場合であっても、その債務の保証人は、譲受人からの弁済請求に対して、債務が既に弁済により消滅している旨の主張をすることができる。」
【正解:

             債権譲渡
  -―――――――(債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
 
           |
 
|保証債務    (債務者)
 (保証人)       BがA に異議を留めない承諾をする。

 債務者BがAに 譲渡の承諾 → 債権譲渡は対抗力をもつ

 債務者が異議を留めない承諾をした場合は、その債務が弁済されていても、その弁済を債務者は善意の譲受人に主張できませんでした。

 しかし、この異議を留めない承諾の効力が保証人に及ぶことには、保証人の責任を加重すべきではないとして、判例では否定しています。(大審院・昭和15.10.9)

 したがって、その債務の保証人は、譲受人からの弁済請求に対して、債務が既に弁済により消滅している旨の主張をすることができます。このことは、物上保証人であっても同じです。 


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