Brush Up! 権利の変動編

正解・解説

債権譲渡の過去問アーカイブス 平成9年・問5 


【正解】

×

が、に対する金銭債権をに譲渡した場合に関する次の記述は、民法の規定及び判例によれば、○か、×か。(平成9年・問5)

1.「は、への譲渡について、に対しては、の口頭による通知で対抗することが

できるが、第三者に対しては、の口頭による承諾では対抗することができない。」

【正解:

◆債務者への対抗要件と第三者への対抗要件の違い

 (第三者)
               債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  | AからBへ債権譲渡の通知
 (債務者)
  BがA or Cに、承諾する。

 本設問での「第三者」というのはイキナリで惑わせますが、Aが債権譲渡したことについて直接、利害を持つ者と考えられます。(判例では、通知の欠缺を主張するに正当の利益を有する者。大審院・大正2.3.8)

 例えば、譲渡人Aに対して債権を持っている人Dがいたとして、Aが弁済しないのでAがBに持っている債権を差し押さえてそこから債権を回収しようと考えてアテにしていたのに、知らない間にその債権をCに譲渡されたのでは、Dは、債権の回収が難しくなります。

 債権譲渡について債務者に対抗するには、「債権譲渡を譲渡人が通知」、「債務者が譲渡人または譲受人に債権譲渡を承諾」が必要だとされています。これは、もし通知や承諾がなければ、譲受人は債務者に債権譲渡を主張できず、債務者は譲渡人の債権行使を阻止できるということを意味します。(民法467条1項、判例)

 これに対して、債務者以外の第三者に債権譲渡について対抗するためには、確定日付のある証書によって通知・承諾することが必要です。(民法467条2項)

 本設問の内容をチェックしてみましょう。

Bに対しては、Aの口頭による通知で対抗することができる

 → 口頭の通知でも債務者に対抗できる。正しい。

第三者Dに対しては、Bの口頭による承諾では対抗することができない

 → 第三者に対抗するには確定日付による承諾が必要であり、
   Bの口頭の承諾では第三者には対抗できない。正しい。


●債権譲渡の対抗要件の整理
 債務者への対抗要件  譲渡人(元の債権者)から債務者への通知

 債務者から 譲渡人 or 譲受人 への承諾

 債務者以外の第三者への対抗要件  譲渡人(元の債権者)から債務者への通知

 債務者から 譲渡人 or 譲受人 への承諾

 通知、承諾とも確定日付のあるもの
  なければならない。

 確定日付のあるものの優劣は、
   通知の到達日、承諾日の先後による。

判例上、『債務者以外の第三者』にあたるとされた者

 『債権の二重譲渡を受けた譲受人』

 その債権を差押えた『譲渡人への債権者』など

2.「は、譲渡の当時に対し相殺適状にある反対債権を有するのに、異議を留め

ないで譲渡を承諾したときは、善意のCに対しこれをもって相殺をすることはできない

が、譲渡の通知をしたに止まるときは、相殺をすることができる。」(平成5年、12年)

【正解:

◆異議をとどめない承諾の効力

              債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人、善意)  
  相殺適状↑|
 (債務者)
  BがA or Cに、承諾する。

●債権譲渡の通知と承諾の効力の整理
 通知 

 (異議をとどめる承諾)

 債務者は、『その通知を受けるまでに譲渡人に
 対して生じた事由』を、譲受人に主張できる

 異議を留める承諾では、承諾前に生じた事由

 異議をとどめない承諾  債務者は、『承諾前に譲渡人に対して生じた事由』
 を、善意の譲受人に主張できない

債権の譲受人Cが、もし「BがAに相殺適状にある債権を有していた」ことを知っていたのならば(悪意のとき)、Bは、異議を留めない承諾をしていたとしても、悪意の譲受人に対しては、相殺適状であったことを主張できます。(最高裁・昭和42.10.27)

●異議を留めない承諾の効力の整理
 譲受人が悪意  債務者は、『承諾前に譲渡人に対して生じた事由』
 を、悪意の譲受人に主張できる
 譲受人が善意  債務者は、『承諾前に譲渡人に対して生じた事由』
 を、善意の譲受人に主張できない

3.「が、に対する債務の担保として債権を譲渡し、の債務不履行があったとき、

からに対して譲渡の通知をすることとしておけば、は、に代位して自己の名義

で有効な譲渡の通知をすることができる。」 ⇔対比 : 平成12年問6肢1

【正解:×

◆譲受人が、譲渡人に代位して、通知することはできない。

              債権譲渡
 (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
  |                     CがAに代位して、Bへ債権譲渡の通知
 (債務者) ←----------------

 CがAの代理人として債権譲渡の通知をすることはできますが、CがAに代位して譲渡の通知をすることはできません。判例では、譲受人が譲渡人に代わって、代位行使することは否定しています。(大審院・昭和5.10.10)

4.「への譲渡についてのの確定日付証書による通知と,第三者の同一債権に

対する差押命令とが、同時にに到達したとき、は、への支払、供託等によりこの

債権が消滅していない以上、からの請求を拒むことはできない。」(関連 : 平成5年、12年)

⇔対比 : 平成12年問6肢3

【正解:

◆『差押命令』と『債権譲渡の通知』が同時に到達

   (差押債権者)
                債権譲渡
  (債権者、譲渡人)―――――→(譲受人)  
   | AからBへ債権譲渡の通知
   (債務者)
     差押命令がBに到達

債権の差押えをした者とその同一債権の譲受人との間の優劣

 債権の差押通知が債務者に到達した日時と、確定日付のある債権譲渡通知が債務者に到達した日時の先後によって決する。(最高裁・平成5.3.30)

 到達時点が異なっていた場合の原則はこの通りなのですが、本設問ではさらに、この上の知識を要求しています。

債権譲渡の通知や差押命令が同時に到達したとき

 譲受人Cや差押債権者Eは、債務者Bに債権全額の弁済を請求できる。

 債務者Bは、弁済していない限り、弁済の責を免れることはできない。

 (最高裁・昭和55.1.11)

 C、Eとも、債権全額の弁済を請求できるので、Bは、Eへの支払、供託等によりこの債権が消滅していない以上、譲受人Cからの請求を拒むことはできません。

 もちろん、差押債権者Eからの請求に対してもBは拒めないことになります。

 では、債務者は両方に債務全額を支払わなければいけないかというとそうではありません。C、Eのどちらかに債務全額を弁済すれば、Bの債務は消滅します。
(最高裁・昭和55.1.11)

到達の先後が不明の場合も、判例では、同時到達と同じに扱うとしています。(最高裁・平成5.3.30) → 到達の先後が不明 = 同時到達


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