Brush Up! 権利の変動篇
制限行為能力者の過去問アーカイブス 制限行為能力者と追認・詐術 (昭和60年・問9)
A所有の不動産につき,Aを売主,Bを買主とする売買契約が締結されたが,Aは未成年者であり,未成年後見人であるCの同意を得ていなかった。この場合,民法の規定によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。(昭和60年・問9) |
1.「Aの行為は無効であるが,その後Bから当該不動産を買い受けたDがAが制限行為能力者であることを知らなかった場合は,A及びCは,Dに対し,Aの行為が無効であることを対抗できない。」 |
2.「Bは,Cに対し,1ヵ月以上の期間内にAの行為を追認するか否かを確答すべきことを催告することができ,当該期間内にCが確答をしなかった場合には,CはAの行為を取り消したものとみなされる。」 |
3.「Aが,『自分は成年者である』と偽ってBとの契約を締結した場合には,Aはこれを取り消すことができない。」 |
4.「AB間の契約締結後,AまたはCによる取り消しの意思表示がないまま,Aが成年に達した場合,この契約は,始めから有効であったものとみなされる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
1.「Aの行為は無効であるが,その後Bから当該不動産を買い受けたDがAが制限行為能力者であることを知らなかった場合は,A及びCは,Dに対し,Aの行為が無効であることを対抗できない。」 |
【正解:×】 ◆取消前の善意の第三者には対抗できる C(未成年後見人) └取消 未成年者が法定代理人の同意を得ないでした法律行為は、未成年者・法定代理人どちらからも取消すことができ(5条2項)、この取消は取消し前の善意の第三者にも対抗することができます。 本肢では,『Aの行為が無効であることを対抗できない』となっているので×になります。 正しくは、『Aの行為を取り消したことを対抗できる』としなければいけません。 ▼取り消されるまでは,Aの行為は無効ではなく,『一応有効』であることにも注意してください。 |
2.「Bは,Cに対し,1ヵ月以上の期間内にAの行為を追認するか否かを確答すべきことを催告することができ,当該期間内にCが確答をしなかった場合には,CはAの行為を取り消したものとみなされる。」 |
【正解:×】 ◆相手方の保護(1) 催告権 未成年後見人Cが催告を受けて確答しなかったときは,追認をしたものとみなされます。(20条2項) したがって×になります。 ●催告について 制限行為能力者が売買契約を単独で契約した場合は,相手方は,取消 or 追認がされるまで不安定な立場になっています。 この状態を解消するために,相手方は,追認権者に対して,追認するか否かを,1ヵ月以上の相当な期間を定めて,催告することができます。
▼相手方が催告してきたときに,制限行為能力者側から確答がない場合をまとめてみます。
※後見監督人・保佐監督人・補助監督人の同意を要する場合を除く。 |
3.「Aが,『自分は成年者である』と偽ってBとの契約を締結した場合には,Aはこれを取り消すことができない。」 |
【正解:○】 ◆相手方の保護(2) 詐術による取消権の喪失 いくら制限行為能力者でも,自分が能力者だと相手方をダマした場合(詐術を用いて誤認させたとき),制限行為能力者を保護する必要はなく,取引の安全と相手方の救済のために,制限行為能力者・保護者のどちらからも取り消すことはできなくなります(21条)。 これは,未成年者,被補助人(同意権を補助人に付与された),成年被後見人にも適用されます。
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4.「AB間の契約締結後,AまたはCによる取り消しの意思表示がないまま,Aが成年に達した場合,この契約は,始めから有効であったものとみなされる。」 |
【正解:×】 ◆除斥期間 Cの同意なく 成年に達してから5年 ―●――――――――――――●――――――――●―――― 取消権の消滅 契約締結後,未成年者A本人や未成年後見人Cによる取り消しの意思表示がないまま,Aが成年に達したときには,次のことをアタマに入れておかなければいけません。 ●取消の除斥期間 (時効) Aの取消権は,成年に達してから5年 or 契約締結から20年経過すると消滅し,Aはもはや取り消すことができず,契約ははじめから有効であったことが確定します。(126条) → このため,本肢の『Aが成年に達した場合,この契約は,始めから有効であったものとみなされる』は,Aが成年に達しただけでは取消権が消滅していないので,×になります。 → 法定代理人の取消権が5年の時効で消滅したときは,未成年者本人の取消権も消滅します。 ●催告に確答なし → 追認したことになる Aが成年に達すると,A自身が単独で追認すること(124条)ができます。 Bが,成年に達したAに対し1ヵ月以内の期間を定めて催告し,Aがその期間内に確答を発しなかったときは,Aは追認したものとみなされる。(20条1項) ●法定追認 成年に達したAに取消の意思と矛盾するような一定の事実がある場合には,特に反対の意思を示さない限り,黙示の追認があったとみなされます。(125条) |