Brush Up! 権利の変動篇
成年被後見人の過去問セレクション
●意思無能力者と成年被後見人のちがい | |
意思無能力者 | 「精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況」にあっても, 後見開始の審判を受けていない者がこれにあたる。 |
成年被後見人 | 「精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況」にあり, 後見開始の審判を受けている者。 |
※意思無能力者とは,後見開始の審判をまだ受けていない人のほかには,泥酔者・幼児
など。一般に,7歳程度の知的判断能力があれば,意思能力があるとされる。
●無効の主張・取消のできる期間のちがい | |
意思無能力者 | 意思無能力に基づく無効の主張には期間の制限がなく, 原則として,いつまでも無効だと主張できる。 |
成年被後見人 | 追認できるときから5年,または契約時から20年経過すると 取り消すことができなくなる。 |
※意思無能力者〔意思能力を欠く者〕がした法律行為は無効。
成年被後見人に関する次の記述は,民法の規定によれば,○か×か。 |
1.「成年被後見人が独断で締結した売買契約を,当該成年被後見人がみずから取り消すことはできない。」 |
2.「成年被後見人は,成年後見人の同意を得れば,その範囲内において,有効な取引をすることができる。」 |
3.「成年被後見人が、成年後見人の同意を得ずに、別荘の贈与を受諾する意思表示をした場合、この意思表示は取消すことができる。」 |
4.「A所有の土地が,AからB,Bから善意無過失のCへと売り渡され,移転登記もなされている。Aが成年被後見人の場合,Aは,契約の際完全な意思能力を有していても,AB間の契約を取り消し,Cに対して所有権を主張することができる。」 |
5.「成年被後見人は,遺言をすることができない。」 |
1.「成年被後見人が独断で締結した売買契約を,当該成年被後見人がみずから取り消すことはできない。」(昭和51年) |
【正解:×】 ◆成年被後見人自身の取消 成年被後見人の行った行為は,日常生活に関する行為を除き,成年後見人の同意のあるなしにかかわらず,成年被後見人本人及び成年後見人とも,取り消すことができます。(9条),(120条1項) したがって、本肢は、『当該成年被後見人がみずから取り消すことはできない』となっているので、×になります。 ▼盲点 成年被後見人は,成年後見人の同意を得てした行為(日常生活に関する行為を除く)も取り消すことができる。 |
2.「成年被後見人は,成年後見人の同意を得れば,その範囲内において,有効な取引をすることができる。」(昭和49年) |
【正解:×】 ◆成年後見人の同意があっても,取り消しできる 成年後見人には,同意権はなく,仮に成年後見人が同意していたとしても,事理弁識を欠く状態の成年被後見人が正常な判断をもって合理的な行動を持続するとは考えられず,実は,成年被後見人が成年後見人の同意を得て法律行為をすること自体,認める規定がありません。 成年被後見人本人・成年後見人は,日常生活に関する行為を除き,原則として,常に取り消すことができます。(9条) ▼なぜ『原則として』なのか? → 制限能力者の詐術による取消権の剥奪 いくら制限行為能力者でも,自分が能力者だと相手方をダマした場合には,制限行為能力者を保護する必要はなく,取引の安全と相手方の救済のために,取り消すことはできなくなります。(20条)これは,成年被後見人にも適用されます。
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3.「成年被後見人が、成年後見人の同意を得ずに、別荘の贈与を受諾する意思表示をした場合、この意思表示は取消すことができる。」(昭和59年・問2) |
【正解:○】 ◆贈与などの受諾の意思表示も,取り消すことができる 成年被後見人の行為は,日常生活に関する行為を除き,原則として,常に取り消すことができますが,成年被後見人の利益になるものであっても,成年被後見人・成年後見人のどちらからも,取り消すことができます。(9条) |
4.「A所有の土地が,AからB,Bから善意無過失のCへと売り渡され,移転登記もなされている。Aが成年被後見人の場合,Aは,契約の際完全な意思能力を有していても,AB間の契約を取り消し,Cに対して所有権を主張することができる。」(平成2年・問4) |
【正解:○】 ◆成年被後見人 Aの成年後見人 AB間の契約締結の際に、成年被後見人Aの意識が回復していて、完全な意思能力を有していたとしても、成年被後見人Aは取り消すことができ、この取消しの効果を相手方だけでなく、第三者にも対抗することができます。(9条,120条) 第三者の善意・悪意,過失の有無は関係ありません。 したがって、Aは,Cが移転登記を受けていても、Cに対して所有権を主張することができます。 ▼成年被後見人も時折"正常な状態"に戻ることがありますが,本当に回復したのかどうかはわかりません。また,仮に成年被後見人が能力を本当に回復していたとしても家庭裁判所の後見開始の審判が取り消されなければ,成年被後見人は制限能力者のままなので,取り消すことができます。 ▼後見開始の審判が取り消されたとしても,保佐開始・補助開始の要件となる程度の精神状態になっただけであることも考えられますから,後見開始の審判が取り消されたとしてもそれだけでは制限行為能力者でなくなったことを意味するものではないので注意してください。 |
5.「成年被後見人は,遺言をすることができない。」(昭和49年) |
【正解:×】 ◆成年被後見人の遺言 成年被後見人であっても、遺言、婚姻・協議上の離婚、養子縁組・協議上の離縁、は意思能力さえあれば、単独ですることができます。 成年被後見人は、事理を弁識する能力を一時回復したとき、2人以上の医師の立会いのもとに単独で遺言することができます。(973条)2人以上の医師の立会いを必要とするのは、「事理を弁識する能力を一時回復した」ことを証明するためで、事理を弁識する能力を一時回復していたとしても、2人以上の医師の立会いがなく作成された遺書は無効になるとされています。(通説) 注意 制限能力者が遺言をするのに保護者の同意は不要です。 ▼成年被後見人の遺言
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【正解】
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
× | × | ○ | ○ | × |
●成年後見人 |
【心情配慮義務】
成年後見人は,成年被後見人の生活,療養看護および財産の管理の事務を行うにあたっては,成年被後見人の意思を尊重し,かつ,心身の状態および生活の状況に配慮しなければならない。(858条) → この規定は,保佐人・補助人の事務も同。(876条の5第1項,876条の10第1項) |
【財産管理権と代表権】
成年後見人は,成年被後見人の財産を管理し,また,その財産に関する法律行為について成年被後見人を代表する。(859条) 成年後見人は,成年被後見人の居住用建物またはその敷地を処分するについては,家庭裁判所の許可を得なければならない。(859条の3) |
●保佐人,補助人の代理権 |
家庭裁判所は,特定の行為について,保佐人,補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。(876条の4第1項,876条の9第1項)
この場合,家庭裁判所は,監督する必要があると認めるときは,保佐監督人,補助監督人を選任することができる。(876条の3第1項,876条の8第1項) |