Brush Up! 権利の変動篇Notes
成年に達した後−取消の除斥期間,追認,法定追認,催告,確答なしの効果
法定代理人の同意を得ないでなされた法律行為が,未成年者が成年に達した後,どうなっていくのか一通り整理してみましょう。 |
●制限行為能力者とは,どのような人々か?−四つの類型
未成年者
成年被後見人 被保佐人 被補助人のうち,補助人の同意を要する旨の審判を受けている者 |
※未成年者を除き,ほかの三つは家庭裁判所で後見開始,保佐開始,補助開始の審判を
受けた者であることも重要です。
●取消はいつまでできるか−取消の除斥期間
未成年者が成年に達すると,取消権は,成年に達してから5年 or 契約締結から20年経過すると消滅し,もはや取り消すことができず,契約ははじめから有効であったことが確定します。(126条) |
●追認とは何か
未成年者・被保佐人・被補助人が保護者の同意を得ないで行った行為や成年被後見人が行った行為〔日常生活に関する行為を除く〕は,追認権者によって追認が行われることにより,以後,制限行為能力によって取消すことはできなくなり,確定的に有効になります。(122条) 追認されるまで,取り消しうる法律行為は一応有効でしたが,いつ取り消されるかわからない不安定なものでした。取消権を持っている者は,当該法律行為を有効のままにしておくこともできますし,また取消によって初めから無効なものにすることもできました。 追認されることによって,この不安定な状態が解消されることになります。 |
追認権者 (19条) ・保護者 (未成年の法定代理人・成年後見人・保佐人・補助人), ・能力を回復した後の本人 (成年被後見人・未成年者・被保佐人・被補助人), ・能力を回復していない間の被保佐人・被補助人 |
※被補助人は,補助人の同意を要する旨の審判を受けている者。〔以下,同じ〕
(19条1項,4項)
※成年被後見人は,成年後見人の同意を得ても,追認することはできない。
※成年被後見人が行為能力を回復しても〔行為能力者となっても〕,取り消すことができる
行為であることを知った後でないと追認することはできない。(124条2項)
※行為能力を回復していない間の被保佐人・被補助人が追認するには,保佐人・補助人の
同意を必要とする。
※未成年者は,法定代理人の同意があれば追認できると解されている。〔通説〕
●追認できるのはいつか
追認権者 | 追認できる時期 |
保護者 | 【親権者・未成年後見人・成年後見人・保佐人・ 同意権を付与された補助人】 追認する時期には制限なし。(124条3項) |
行為能力者
になった |
行為能力を回復した後でなければ,単独で追認はできない。 (124条1項) ただし,成年被後見人の場合は,行為能力者となった後だけでは なく,その法律行為が取り消しうるものであることを知った後で なければならない。 |
被保佐人,
被補助人 |
行為能力を回復していない間(被保佐人,被補助人である間) 追認するには,保佐人・補助人の同意を必要とする。 |
●追認の催告
制限行為能力者が売買契約を単独で契約した場合は,相手方は,取消 or 追認がされるまで不安定な立場になっています。 この状態を解消するために,相手方は,追認権者に対して,追認するか否かを,1ヵ月以上の相当な期間を定めて,催告することができます。 相手方は,保護者(未成年の法定代理人・成年後見人・保佐人・補助人),能力を回復した後の本人(成年被後見人・未成年者・被保佐人・被補助人),能力を回復していない間の被保佐人・被補助人に対して,催告することができます。(19条) |
●催告に確答がないときの効果
誰の確答なしか? | 確答なしの効果 |
成年被後見人または未成年者の 後見人・法定代理人の確答なし |
→ 追認 |
保佐人・補助人の確答なし | |
能力を回復した本人の確答なし | |
被保佐人・被補助人「本人」の確答なし | → 追認拒絶
〔取消〕 |
※行為能力を回復していない間の被保佐人・被補助人が追認するには,保佐人・補助人の
同意を必要とする。
※後見監督人・保佐監督人・補助監督人の同意を要する場合を除く。
※記憶の節約 → 追認権者の単独で追認できない場合は,追認拒絶
追認権者の単独で追認できる場合は,追認
●関連問題 |
1.「Pが未成年者Qに対して建物を売却し,Qが成年に達した後,PがQに対し相当の期間を定めて催告したが,Qがその期間内に確答を発しなかったときは,Qは追認したものとみなされる。」 |
【正解:○】
Pが催告したときQは成年に達しているので,Qは能力を回復した本人の場合と同じになります。したがって,相当の期間(条文では『1ヵ月以上の期間』)内に確答を発していないときは,追認したものとみなされます。 |
●法定追認
追認権者がその契約を追認すれば,追認の効力が生じました。(124条) 民法では,この意思表示による追認のほかに,法定追認という制度を設けています。(125条) これは,追認権者に取消の意思と矛盾するような一定の事実がある場合に,特に反対の意思を示さない限り,黙示の追認があったとみなす制度です。 注意 ⇒ 行為能力を回復していない制限行為能力者本人が単独で行っても法定追認にはなりません。 |
●法定追認になるもの。(125条1号〜6号) | |
全部または一部の履行 | ・債務者として履行した。
・債権者として受領した。(判例) |
履行の請求 | ・代金支払の請求や相殺の意思表示 |
更改 | ・もとの契約を消滅させて新しい契約を成立。 |
担保の供与 | ・債務者として担保を供与
・債権者として担保の供与を受けた。 |
権利の全部または一部の譲渡 | ・債権を他人に譲渡した。 |
強制執行 | ・債権者が強制執行した。 |
●関連問題 |
1.「Aが成年に達した後に未成年のときにした売買が取り消し得るものであることを知らないでBに代金の支払を請求した場合には追認したことになる。」 |
【正解:○】
Aが未成年のときの追認権者はAの法定代理人ですが,Aが成年に達するとA自身が追認権者になります。 したがって,Aが未成年者であるときにAがBに代金請求しても法定追認したことにはなりませんが,成年者になったときに,AがBに代金請求すれば,法定追認したことになります。 判例では,取消可能であることを知らなかった場合でも、追認権者に,法定追認に該当する事実があれば,法定追認が成り立つとしています。(大審院・大正12.6.11) ※成年被後見人が行為能力を回復しても,取り消すことができる行為であることを知った後でないと追認することはできない。(124条2項) |