Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の過去問アーカイブス 根抵当権 昭和50年
根抵当に関する次の記述のうち,誤っているものはどれか。(昭和50年) |
1.「根抵当権によって担保される債権は,債権者が債務者に対して将来有することとなるあらゆる種類の債権である。」 |
2.「被担保債権の元本については,その確定期日を定めることができるが,その場合には,その期日は,定められた日から5年内でなければならない。」 |
3.「被担保債権の元本の確定前においては,後順位の抵当権者その他の第三者の承諾がなくても,債務者を変更することができる。」 |
4.「被担保債権の元本の確定期日が定められていない場合,根抵当権設定者は,根抵当権の設定のときから3年が経過したのち,その請求のときから2週間後に元本が確定する。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | ○ | ○ |
1.「根抵当権によって担保される債権は,債権者が債務者に対して将来有することとなるあらゆる種類の債権である。」 |
【正解:×】 ◆債権の範囲は,特定の継続的な取引契約によって生じるものに限定されている 根抵当権とは,将来にわたって継続的に発生することが見込まれる多数の債権を一括して被担保債権として抵当権を設定して極度額の限度で担保するものです。 メーカーと商社,銀行と融資先の会社などの取引のように,債権−債務の関係が継続的に発生と消滅を繰り返しているような取引で,いちいちそのつど抵当権の設定・登記と弁済による抹消登記を行うというのでは,当事者にはあまりにも煩雑なため根抵当権が認められました。(普通抵当権は住宅ローン等の場合に限られており,通常は根抵当権のほうが金融実務上は多い。) 根抵当権の担保すべき債権の範囲は,債務者との特定の継続的な取引契約によって生じるもの〔その他債務者との一定の種類の取引によって生じるもの〕にあらかじめ限定して定めることになっています。(398条の2第2項) したがって,「債権者が債務者に対して将来有することとなるあらゆる種類の債権」ではありません。〔包括根抵当権は認められていません。〕
〔根底事項〕 範囲の特定 → 極度額 極度額がわかっていないと,抵当不動産を買い受けようとする者や一般債権者,後順位抵当権者が,根抵当権の優先弁済される限度額を予想することができないので必要になります。 |
●類題 |
1.「抵当権は,設定行為で定めるところにより,一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。」(昭和56年・問5) |
【正解:○】根抵当権。 |
2.「不動産を目的とする担保物権の中には,被担保債権が将来のものであっても,存在するものがある。」(平成3年・問7) |
【正解:○】普通抵当権・根抵当権双方に該当する。 |
●根抵当権の抵当権との違い |
1 根抵当権では,一定の範囲に属し継続して発生する『不特定な被担保債権』
→ 普通の抵当権は,原則として一回限りの取引から生ずる被担保債権に限られる。 |
2 根抵当権は極度額に達するまで約定により発生した全ての債権を担保するため,特定の被担保債権が弁済によりゼロになって消滅しても根抵当権は消滅せず元本は確定しない。
→ 普通の抵当権は,被担保債権が消滅すると抵当権も消滅する。 |
3 根抵当権は極度額まで担保しているため,その限度内であれば,元本・利息・損害金の全部を担保する。(398条の3)
→ 普通の抵当権は,利息・損害金などは最後の2年分に限られる。(374条) |
4 根抵当権消滅請求は,元本確定後に「物上保証人」,「所有権,地上権,永小作権または第三者に対抗できる賃借権を取得した第三者」がすることができる。(398条の22)
→ 普通の抵当権の消滅請求は,「所有権を取得した第三者」のみがすることができる。(378条) |
2.「被担保債権の元本については,その確定期日を定めることができるが,その場合には,その期日は,定められた日から5年内でなければならない。」 |
【正解:○】 ◆元本確定期日−原則として設定から5年以内 根抵当権は長期間に渡って,一定の範囲に属する不特定・多数の債権を担保するものです。しかし,根抵当権が期間の制限なく永久に存続できるとしたのでは,抵当不動産の所有者は永久に制限を受けることになるし,他の債権者や利害関係人もずっと根抵当権者より劣後することになり,取引の上でも齟齬をきたします。 そのため,ある時点で被担保債権を確定させて,根抵当権の消滅や被担保債権の範囲の減少をさせるチャンスを与える制度が望まれます。民法ではそのため確定期日の合意がある場合は,確定期日を根抵当権の設定から5年以内にしています。(398条の6第3項) ただし,元本確定期日は,確定期日前ならば変更することもできるので,事実上5年よりも長期にわたることも可能です。(398条の6第1項・第2項) 確定期日の変更は登記することが必要で,登記していないと変更前の確定期日になります。(398条の6第4項) → 確定期日の合意がない場合は,設問4 |
●元本確定(根抵当権の確定)とは何か |
1 被担保債権の確定−優先的に回収できる債権の特定 |
2 それ以後に発生する債権はその根抵当権では担保されなくなる。 |
※元本が確定するのは,確定期日が定められているときや確定の請求のほかに,目的不動産に競売手続きが開始されたときなどがある。(398条の20) |
3.「被担保債権の元本の確定前においては,後順位の抵当権者その他の第三者の承諾がなくても,債務者を変更することができる。」 |
【正解:○】 ◆債務者の変更 被担保債権の元本の確定前は,後順位の抵当権者その他の第三者の承諾がなくても,債務者を変更することができます。(389条の4) ▼極度額の変更は後順位の抵当権者その他の第三者の利害に大きく影響するためその承諾が必要ですが〔極度額の変更は元本確定後も利害関係人の承諾があれば可能〕,被担保債権の範囲や元本確定期日,債務者の変更には利害関係人の承諾は不要です。 |
根抵当権の変更 | |||
変更内容 | 時期 | 利害関係人の承諾 | 登記 |
極度額 | 確定後も可能 | 全員の承諾が必要 増額…後順位抵当権者・ 差押債権者 減額…転抵当権者 |
効力要件 |
被担保債権の範囲 | 元本確定前 | 不要 | |
債務者 | |||
確定期日 | 確定期日前 |
4.「被担保債権の元本の確定期日が定められていない場合,根抵当権設定者は,根抵当権の設定のときから3年が経過したのち,その請求のときから2週間後に元本が確定する。」法改正 |
【正解:○】 ◆元本確定の合意がないときは,3年経過すると元本確定の請求ができる 根抵当権設定時に元本確定の合意がないときは,抵当不動産の所有者は設定後3年を経過すると,根抵当権者に対して元本確定の請求をすることができます。この請求から2週間経過すると自動的に元本が確定します。(398条の19) 法改正により,根抵当権者も,元本確定の合意がないときは,いつでも元本の確定を請求することができ,この場合根抵当権者が請求したときに元本は確定することになりました。 不動産登記法の改正により,根抵当権者は元本確定の登記を申請することもできるようになっています。〔不動産登記法・93条(旧119条の9)〕
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