Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
根抵当権に関する基本問題1
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | ○ | ○ |
貸金付債権を担保するための根抵当に関する次のそれぞれの記述は、民法の規定に よれば○か、×か。(平成8年) |
1.「根抵当権は、債権者が債務者に対して将来有することとなる不特定の貸付金債
権であっても、それが一定の種類の取引について生ずるものに限定されているときは、
その極度額の限度において担保するために設定することができる。」
(昭和50,平成元年、3年、12年)
【正解:○】 ◆根抵当権の意義−被担保債権の種類の特定 本設問の文は、第398条の2第1項をベースに、同条第2項を例にとって述べたものです。 根抵当権とは、将来にわたって継続的に発生する不特定多数の債権を一括して被担保債権とするものですが、その被担保債権は特定の種類に属すものでなければいけません。〔<将来発生する一切の債権を担保するもの>ではありません。〕 被担保債権の種類は民法によって次のようなものに限定されています。 1 債務者との特定の継続的な取引契約によるもの (第398条の2第2項)(特定の基本契約から生じる債権。当座貸越契約、継続的手形割引契約、継続的手形貸付契約、電気製品供給契約など) 2 債務者との一定の種類の取引によって生ずるもの (第398条の2第2項)(取引の種類が限定されている債権。当座貸越取引、手形割引取引、消費貸借取引、電気製品売買取引、石油供給取引など) 3 特定の原因に基づいて債務者との間で継続的に生ずるもの (第398条の2第3項)(継続的に発生することが予想される不法行為(公害等取による将来の損害賠償請求権などこ 4 手形上または小切手上の請求権 (第398条の2第3項)(債務者が第三者のために出した手形・小切手が流通して債権者が取得した請求権) などに限定されています。その範囲の中で極度額の限度まで担保するものです。 つまり,一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保する のが根抵当権です。(第398条の2第1項) |
2.「登記された極度額が1億円で、貸付金債権の元本も1億円で確定した場合、根抵
当権者は、1億円と満期となった最後の2年分の利息及び損害金の額の合計額につい
て、根抵当権に基づく優先弁済を主張することができる。」(平成12年)
【正解:×】 ◆根抵当権での被担保債権の範囲 根抵当権の「極度額」とは、その範囲であれば、確定したときの元本、利息、遅延賠償金、確定後では、配当の時までに生ずる利息、遅延賠償の全てについて、根抵当権の目的である不動産から,優先弁済を受けられるということです。(第398条の3) 本問の場合では、元本並びに利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害賠償額で優先弁済を受けられるのは、1億円が限度となります。 なお、本問の「満期となった最後の2年分の利息及び損害金」という記述は、“普通抵当権”の場合のことで(第374条)、根抵当権では極度額の範囲内であれば2年分に限らず何年分でもかまいません。ただし、極度額の範囲を超えてしまったら優先弁済が2年分もらえない場合もあり得ます。 |
3.「貸付金債権の元本が確定した場合、根抵当権者は、確定期日の被担保債権額
のほか、確定期日後に生じた利息及び損害金についても、登記された極度額に達す
るまで、根抵当権に基づく優先弁済権を主張することができる。」
【正解:○】 ◆根抵当権の確定の意味 根抵当権が確定する〔元本が確定する〕ということは、その期日に存在する元本債権のみが担保され、それ以後に発生する元本債権は担保されないことを意味し、担保される債権が特定されることを意味します。→ 根抵当権を実行して優先弁済を受けられる債権が確定する。 しかし、利息その他については、元本が確定した期日以後のものについても、設問2の解説のように、登記された極度額まで優先弁済権を主張することができます。(第398条の3) |
●チェック |
1.「根抵当権の担保すべき元本の確定後に生じた元本債権は,その根抵当権によっては担保されない。」(司法試験択一・昭和53年) |
【正解 : ○】確定後に生じた元本債権は,被担保債権に含まれません。
優先弁済を受けられるものを整理しておきましょう。 元本債権〔確定時のもの〕 → 確定後に生じたものは含まない。 利息その他・損害金 → 確定後のものも含まれる。〔ただし,限度額以内〕 |
4.「貸付金債権の元本の確定期日を定めなかった場合で根抵当権設定時より3年を
経過したとき、根抵当権設定者は、担保すべき元本の確定を請求でき、請求の時より
2週間後に担保すべき元本が確定する。」(昭和50) 法改正
【正解:○】 ◆元本確定期日 元本の確定期日は、定めても、定めなくても自由ですが、確定期日を定めなかったとき、いつまでも放っておくことが不安であれば、根抵当権設定者は、根抵当権設定のときより、「3年」を経過すれば、元本の“確定を請求”することができ、その請求の時より、「2週間」を経過すれば元本は“確定”します(第398条の19第1項)。 確定期日を定めなかったとき、根抵当権者は,いつでも元本の確定を請求することができ,この場合根抵当権者が請求したときに元本は確定します。(第398条の19第2項)(法改正部分) 不動産登記法の改正により,根抵当権者は元本確定の登記を申請することもできるようになっています。〔不動産登記法・93条(旧119条の9)〕
<参考> 確定事由 ・当事者の合意で定めた確定期日の到来(398条の6第1項,398条の19第1項但書) ・根抵当権者からの確定請求(398条の19第2項),根抵当権設定者からの確定請求(398条の19第1項) ・目的不動産について競売・担保不動産収益執行などの執行手続開始や差押えがあったとき(398条の20第1項第1号〜第3号) ・債務者または根抵当権設定者について破産手続開始の決定があったとき(398条の20第1項第4号) ・債権者又は債務者の相続・合併・会社の分割によって確定する場合もあります。(398条の9第4項,398条の10第4項,398条の10の2) 註 旧398条の20第1項には,確定事由として『担保すべき債権の範囲の変更,取引の終了その他の事由により担保すべき元本の生ぜざることと為りたるとき』がありましたが,法改正により削除されました。『取引の終了』の具体的な内容が不明瞭であることから実務上の混乱を生じていたためです。 <ついでに> 「極度額の変更」は、元本の確定前であっても、後であっても、することができますが、その場合には、“その根抵当権に関連する利害関係を有する人全員”の「承諾」が必要になります(第398条の5)。 しかし、根抵当権の担保すべき元本の「確定期日の変更」をするには、確定期日の到来前であれば、後順位の抵当権者、その他の利害関係人の承諾を必要とせず、自由に行うことができます(第398条の6第2項) 期日の変更に付き其期日前に登記を為さざるときは担保すべき元本は其期日に於て確定す。(第398条の6第4項) また、被担保債権の範囲・債務者の変更も、元本確定前であれば、後順位の抵当権者、その他の利害関係人の承諾を必要とせず、自由に行うことができます。(第398条の4)ただ登記をしておかなければなりません。(第398条の4第3項 ) |
根抵当権の変更 | |||
変更内容 | 時期 | 利害関係人の承諾 | 登記 |
極度額 | 確定後も可能 | 全員の承諾が必要 増額…後順位抵当権者・ 差押債権者 減額…転抵当権者 |
効力要件 |
被担保債権の範囲 | 元本確定前 | 不要 | |
債務者 | |||
確定期日 | 確定期日前 |