Brush Up! 権利の変動篇

抵当権の基本確認2 抵当権の効力

正解・解説


【正解】

× × ×

 抵当権に関する次の記述は、民法の規定及び判例によれば、○か、×か。

1.「建物に抵当権を設定した場合、抵当権の効力は、特約がない限り、当該建物に

付加してこれと一体となった物にも及ぶ。」(昭和59・改)

【正解:

◆附加一体物

 抵当権の効力は,抵当不動産だけでなく,抵当地の上に存する建物を除いて,「その目的たる不動産に附加してこれと一体を成したる物」にも及びます。(民法370条)
 つまり,抵当不動産の一部〔構成部分〕になっているものには,抵当権の効力が及びます。〔土地だけに抵当権が設定されているときには抵当地上の建物には抵当権は及ばないことに注意。〕
 附加一体物の例 壁紙・屋根板・増築部分・植木など、建物の雨戸・ガラス戸・扉〔外界と遮断する扉〕(⇒建物の一部を構成するから)

▼補足
 当事者の合意で特定の附加一体物に抵当権の効力が及ばないとすることもできます。(民法370条但し書)

●参考問題
1.「建物については抵当権設定後に増築された部分は、それが従来からの建物と一用紙に登記され、合わせて一個の建物とみられるものであっても、抵当権は設定後に建てられた増築部分には及ばない。」(昭和47)

【正解:×

◆増築部分も附加一体物

 建物について抵当権が設定された後に増築された部分は、

それが従来からの建物と一用紙に登記され、合わせて一個の建物とみられるもの

の場合は、抵当権が設定されていた建物に附加して一体をとなったものとされ、
抵当権の効力が及びます。

マダルっこしい言い方ですが、厳密な、注意深い表現になっていますね。

2.「賃貸建物に設定された抵当権の効力は賃借人がその建物に備え付けて供用している機械にも及ぶ。」(司法書士・昭和63-9-5)

【正解:×

◆附加一体物が設定者以外の所有の場合

 設定者以外の他人の権原によって附属させた附加一体物には抵当権の効力は及びません。

2.「抵当権の効力は、抵当権設定行為に別段の定めがあるとき等を除き、不動産に

附合した物だけでなく、抵当権設定当時の抵当不動産の従物にも及ぶ。」(平成元年)

【正解:

◆附合物(242条)と抵当権の効力の及ぶ従物(87条)

 1) 抵当不動産に附合したものは不動産の構成部分となって独立性を失っているので,附合の時期に関係なく,附加一体物に含まれます。(242条)

 建物の附合物の例 建物での雨戸・入り口の扉etc

 2) 従物〔独立の動産〕は主物の価値を高めるという一体的な関係にあり、抵当権設定当時の抵当不動産の従物も抵当権の効力が及ぶ付加一体物とされています。(最高裁・昭和44.3.28など)

 付加一体物になる抵当権設定当時の従物の例 土地での石灯籠・取外しのできる庭石etc

建物の従たる権利としての賃借権は、大雑把に言えば、370条の附加一体物という説と、判例の87条2項類推適用で従物という説と2つに分かれています。したがって、賃借権が附加一体物か従物かどちらなのかという問題は出題されないことを期待します。

●参考問題
1.「抵当権の効力が従物や附合物に及ぶためには、それらは抵当権設定当時に存在していなければならない。」

【正解:×

 附合物は、附合した時期が抵当権設定の前後を問わず、抵当権の効力が及びます。(附合物は附加一体物に含まれるとされています)

 そのため、本肢は×になります。

従物については判例と通説で分かれています。〔抵当権設定後の従物について抵当権が及ぶかどうかで争いがありますが,詳細は省きます。〕

 判例では、従物に抵当権が及ぶためには、従物は抵当権設定当時に存在していなければならない。つまり、抵当権設定後の従物には抵当権の効力は及ばないとしています。(大審院・昭和5.12.18、最高裁・平成2.4.19)

 しかし、学説では、抵当権設定後の従物にも抵当権の効力が及ぶとしています

●抵当権の効力が及ぶもの
 附合物  附合した時期が抵当権設定の前後を問わず
 特約で別段の定めがなければ,抵当権の効力が及ぶ。
 従物  抵当権設定当時に存在していれば
 (特約で別段の定めがなければ)抵当権の効力が及ぶ。(判例)

 

3.「抵当権の効力は、抵当不動産の担保する債権について不履行があったとき等を

除き、天然果実には及ばない。」(平成元年) 法改正

【正解:

◆果実

 抵当権とは、目的物の占有を設定者のもとにとどめて設定者が使用・収益をしながら債務を返済できるようにした制度ですから天然果実を設定者が収取できます。例えば、農用地に抵当権を設定した場合を考えると、農作物=天然果実を育成して抵当権設定者は収益を得ることができます。

 ただし,「抵当不動産の担保する債権について債務不履行があったとき」には,抵当権の効力は抵当不動産の果実にも及びます。(民法371条1項)

 (抵当権実行の方法の一つとして,抵当目的物の占有管理を抵当権設定者から裁判所の選任する管理人に移し,賃料などを被担保債権に充当させる「担保不動産収益執行」という制度が創設されました。(民事執行法・180条2号)これにより管理人は不履行後の果実で未回収のものがあれば回収して抵当権者への弁済に当てることができます。

 抵当権者は競売開始決定後に債務不履行後の抵当不動産からの収益を差押えることができます。)

 この果実は「天然果実」だけではなく「法定果実」(賃料)も含むと解されており,抵当権者は,「物上代位(最高裁・平成1.10.27)と「担保不動産収益執行(民事執行法)などで法定果実から債権を回収することができます。

現在の371条は,「天然果実・法定果実を問わず,債務不履行が生じた後には抵当権が及ぶ」ことを明らかにしたとされています。(内田貴「民法3」〔東京大学出版会,2004〕p.395)

●参考問題
1.「建物に設定された抵当権では、法定果実である(建物の賃借人の)賃料への物上代位はできない。」

【正解:×

 賃借人の賃料は、「法定果実」と呼ばれます。

 賃料(法定果実)については物上代位が認められ、平成15年の民法改正前の判例では、抵当権者は抵当権を実行する前でも、抵当権設定者のもつ賃料債権を抵当権に基づいて、差し押さえることができる、とされています。(最高裁・平成1.10.27)

▼物上代位の出題
 売却代金(H2-6-3),損害賠償金(H7-6-3),建物の賃貸借の賃料(H11-4-1),火災保険金債権(昭和55-7-4)

抵当権者の法定果実からの債権回収
物上代位による差押え       判例 抵当権を実行する前でも,行使できる。
・「担保不動産収益執行」 (創設) 民事執行法

 このほかに,強制管理(民事執行法98条など。)もありますが,抵当権のほか債務名義を必要し,抵当権の優先効を主張できないなど実効性がないとされています。

4.「賃借地上の建物に設定された抵当権は、賃貸人の承諾のない限り、当該土地

賃借権には及ばない。」(司法書士・平成5年・問12・肢3)

【正解:×

◆借地権

 抵当権の効力は、借地上の建物に抵当権を設定した場合、その建物の敷地の利用権である借地権にも及びます。建物は敷地利用権なしには存在できないからです。

 建物の所有に必要な敷地の賃借権は、建物の所有権に附随し、これと一体となって1つの財産的価値を形成しており、従たる権利として土地の賃借権に抵当権の効力が及びます(最高裁・昭和44.3.28)判例では、民法87条2項類推適用説

 ただし、競落人は、土地の賃借権の移転について、賃貸人の承諾が必要(612条1項)で、承諾がないときにはそれに代わる裁判所の許可が必要になります。(借地借家法19条、20条)

●類題
1.「賃借地上の建物に設定された抵当権の効力は、特約がない限り、敷地の賃借権に及ぶ。」

【正解:

 この問題と、以下の問題を区別してください。

土地賃借権に基づき建物を所有しているときは、建物のほか、賃借権に対しても抵当権を設定することができる。(昭和47年)

 抵当権は、土地・建物等の不動産、地上権及び永小作権に設定することができますが、賃借権に設定できるという規定はありません。(民法369条)

 『賃借地上の建物に設定された抵当権の効力が、その建物の敷地の賃借権に及ぶ』というのと、『敷地の賃借権に対しても抵当権を設定する』のとは別次元の話なので、混同しないようにしてください。

2.「不動産上の抵当権の効力が目的物以外の権利に及ぶことはない。」

【正解:×

 上の問題で見たように、借地上の建物への抵当権の効力が、借地の賃借権に及ぶことがあるため、本問は×になります。

3.「AはBに対する債務を担保するため、Cから借りうけている借地上の建物に抵当権を設定した。この場合、土地の所有者Cと抵当権設定者Aとの合意により、借地権を解除することができる。」

【正解:×

借地上の建物に抵当権が設定されていて、借地権が放棄・合意解除されたとき

 →大審院・大正11.11.24 借地権の放棄・合意解除を抵当権者には、対抗できない。

もし、借地権の放棄・合意解除が抵当権者に対抗できるならば、抵当権が実行されたとき、この建物を競落した人は、借地権のない建物を購入したことになり、意味のない買物をしたことになります。(建物の競落人は借地権の譲渡について土地の所有者の同意を得る必要はあります。)

5.「土地に抵当権を設定した場合、その土地の上に存する建物にもその抵当権の

効力が及ぶ。」(昭和56)

【正解:×

◆抵当権設定した土地の上の建物

 民法では、土地に抵当権を設定しても、その抵当権の効力はその土地の上の建物には及びません。現民法では、土地と建物は別個の不動産と考えています。

民法370条 抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び第424条の規定により債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合は、この限りでない。

 したがって、本問は×になります。

一括競売のことと混同しないようにしてください。

 抵当権の設定後に、抵当地上に建物が築造されたとき、その建物の所有者が抵当地を占有することについて抵当権者に対抗できる権原を持っていないならば(抵当権設定者等)、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができます。元々は更地に抵当権を設定したので、抵当権者が優先弁済を受けられるのは土地からだけで、建物の代金は建物所有者に返還されます。(民法389条)

 なお、当然ですが、土地のみに抵当権を設定した当時にすでに建物があった場合や建物の所有者が抵当地を占有することについて抵当権者に対抗できる権原を持っている場合〔更地に抵当権を設定した後に抵当権者の同意を得て土地の賃借権登記をした場合など〕は、一括競売はできません

6.「抵当権の登記に債務の利息に関する定めがあり、他に後順位抵当権者その他の

利害関係者がいない場合でも、抵当権者は、満期のきた最後の2年分を超える利息に

ついては抵当権を行使することはできない。」(類・H13-7-3、7-6-2、H2-10-3)

【正解:×

◆被担保債権の範囲―後順位抵当権者などの利益の保護

 抵当権者は、他に後順位抵当権者その他の利害関係者がいる場合は、元本の他に、満期のきた最後の2年分の利息などの定期金、および最後の2年分の債務不履行によって生じた損害賠償金(遅延賠償金)についてのみ、抵当権を実行して優先弁済を受けることができます。(民法375条1項)

 このようにしないと後順位抵当権者が抵当不動産の担保価値の計算をすることが難しくなり、ひいては抵当権設定者が残存価値のある不動産を担保にして融資を受けられなくなってしまいます。

▼優先弁済は受けられなくても

 債務者・物上保証人に対しては、最後の2年に関係なく、元本債権・利息・遅延損害金の全額の弁済を請求できます。(大審院・大正4.9.15)

 抵当権の実行により後順位抵当権者や一般債権者に配当しても競落代金になお余剰があれば、最後の2年を超える利息その他の定期金についても配当を受けることができます。

▼最後の2年分を超える利息その他の定期金が優先弁済を受けられる場合

1) 後順位抵当権者がいないときには、2年に限定されることはなく、優先弁済を受けることができます。(大審院・昭和6.10.21)

2) 利息などの定期金について特別な登記をしておけば、後順位抵当権者その他の利害関係者に予想できない損害を与える心配はないので、最後の2年を超える利息などの定期金について登記後の第三者に抵当権を対抗することができます。(民法375条1項但書)
→平成13年の出題では「一定の場合」という表現で、このことを暗示していました。

●類題
1.「抵当権者は、最後の2年分を超える利息その他の定期金については、特別な登記をしなければ、後順位抵当権者や一般債権者に優先して弁済を受けることはできないが、抵当権の実行によりこれらの第三者に配当して競落代金になお余剰があったとしても、最後の2年を超える利息その他の定期金については配当を受けることができない。」

【正解:×

 抵当権の実行により後順位抵当権者や一般債権者に配当しても競落代金になお余剰があれば、最後の2年を超える利息その他の定期金についても配当を受けることができます。最後の2年を超える利息その他の定期金は優先弁済がされないだけです。

●配当

 競売が行われると、競売代金は、裁判所が作成した配当表に従い、債権者の優先順位に応じて配当されます。

 抵当権者に優先的に配当して残りがあれば、その残額は一般債権者に配当されます。

 配当に参加した全ての債権者に弁済してもまだ残額があれば、債務者に返還されます。

優先弁済を受けてもなお、抵当権者の被担保債権を全額弁済できないときには、被担保債権の残額は、無担保債権として存続します。 


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