Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の基本確認4 抵当権、抵当権者
正解・解説
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
× | ○ | × | ○ | × | × |
抵当権に関する次の記述は、民法の規定及び判例によれば、○か、×か。 |
1.「抵当権者は、その抵当権自体を自分の債務の担保とすることはできない。」(行政書士・平成2年)
【正解:×】(類題・H10-5-3) ◆転抵当 抵当権者が、その抵当権をもってほかの債務の担保とすることを転抵当といいます。 (375条1項) 転抵当の制度により、弁済期が到来していない段階で、抵当権者が資金を必要とする場合、自分の抵当権を担保として第三者から融資を受けることができます。 ●注意・「抵当権付で債権譲渡」との区別 抵当権の被担保債権を譲渡すれば担保物権の随伴性から抵当権もそれに伴って移転しますが,転抵当とは,抵当権が被担保債権と切り離して処分されることを意味します。 転抵当権では,「原抵当権の被担保債権の債務不履行」+「転抵当権の被担保債権の債務不履行」により,転抵当権が実行されます。
▼転抵当の対抗要件(未出) 抵当権者は、抵当権設定者の承諾がなくても自分の権限で転抵当することができます。ただし、抵当権の被担保債権の債務者への通知もしくは債務者の承諾がなければ、その債務者・保証人・抵当権設定者(物上保証人)・承継人に対抗できないとされています。 債務者への抵当権処分の通知または債務者の承諾が必要とされるのは、誤った弁済を避けるためのものです。(376条1項) もともとの抵当権に転抵当権が複数設定される場合があり、このような場合には、転抵当の登記が対抗要件として必要とされ、この登記の前後で優劣関係が決まります。[もともとの抵当権の登記に付記登記がなされます。](375条2項) |
●参考問題 |
1.「Aは、Bから借金をし、Bの債権を担保するためにA所有の土地及びその上の建物に抵当権を設定した。Bは、第三者Fから借金をした場合、Aに対する抵当権をもって、さらにFの債権のための担保とすることができる。」(H10-5-3) |
【正解:○】 A(抵当権設定者) |
2.「数個の債権を担保するため同一の不動産につき、複数の抵当権を設定したときは、
それらの抵当権の順位は登記の前後による。」(昭和56)
【正解:○】
◆抵当権の順位=登記の先後 同一物に複数の抵当権が成立することは可能で、 抵当権の順位は、対抗要件である登記の前後により決定されます。(民法373条1項) |
●優先弁済の順位 |
担保物権の順位は原則として登記の先後によります。(不動産登記法6条1項) しかし、不動産を目的とする担保物権の順位は、すべて登記の先後によるとは限りません。抵当権に優先して行使される先取特権があります。(出題 : H3-7-3) 不動産保存の先取特権と不動産工事の先取特権は登記されていると、これより先に登記されていた抵当権に対しても優先します。(民法339条) 不動産保存と不動産工事は、抵当権者の利益になると考えられ、抵当権より優先されても、抵当権者にとっては損にならないため、認められています。 |
3.「同一不動産につき数個の抵当権が設定されている場合、これらの抵当権の順位を
変更するには、各抵当権者の合意及び抵当権設定者の承諾が必要である。」(昭和59)
【正解:×】
◆抵当権の順位の変更=各抵当権者の合意及び利害関係人の承諾 抵当権の順位の変更には、各抵当権者の合意と利害関係人(転抵当権者、被担保債権の差押え権者など)の承諾が必要とされています。(民法374条1項) しかし、抵当権設定者は利害関係人ではないため、抵当権の順位変更についての設定者の承諾は不要です。 ▼順位の変更の効力(H13-7-4) 順位変更登記をもって効力が生じます。(民法374条2項) なお、この抵当権の順位の変更の登記は、乙区事項欄に記載されます。(H3-15-2) |
4.「先順位の抵当権が消滅した場合、後順位の抵当権者の順位が繰り上がる。」
【正解:○】(類題・H2-10-4)
◆順位昇進の原則 先順位の抵当権が消滅した場合、後順位の抵当権者の順位が繰り上がる。 本設問の原則を「順位昇進の原則」といいます。 ▼参考 後順位抵当権者は、先順位抵当権者の被担保債権の消滅時効を援用できない。 これは、後順位抵当権者は先順位抵当権者の被担保債権の消滅時効により直接に利益を受けるものではないからである、としています。(最高裁・平成11.10.21) |
5. 「AがBに対する1,000万円の債務の担保のためにA所有の土地に抵当権を設定し、
登記をした。その後、Aはこの抵当権つきの土地をCに2,000万円で譲渡した。Bは、Aの
Cに対する代金債権について、差押えをしなくても、他の債権者に優先して、1,000万円
の弁済を受けることができる。」(類・H2-6-3)
【正解:×】
◆物上代位 抵当権者は、抵当不動産が売却された時の売却代金について物上代位することができますが、売却代金の払渡しの前に差押えることが必要です。この代金債権の差押えをしなければ、他の債権者に優先して、1,000万円の弁済を受けることはできません。 ▼物上代位の出題 売却代金(H2-6-3),損害賠償金(H7-6-3),建物の賃貸借の賃料(H11-4-1),火災保険金(昭和55-7-4) |
●転貸賃料債権に対して物上代位はできない |
・抵当権者は,抵当不動産の賃借人を所有者〔賃貸人〕と実質的に同視できる場合を除いて,賃借人の転貸賃料債権について物上代位権を行使することはできない。〔賃借人は転貸賃料を被担保債権の弁済に供せられるべき立場にはない。〕(最高裁・平成12.4.14) 抵当権者 |
6.「AがBに対して有する100万円の貸金債権の消滅時効に関する次の記述は、○か×か。
AがBの不動産に抵当権を有している場合に、Dがこの不動産に対して強制執行の
手続を行ったときは、Aがその手続に債権の届出をしただけで、Aの債権の時効は中断
する。」(H9-4-4)
【正解:×】
◆被担保債権の消滅時効の中断 B(抵当権設定者)―A(抵当権者) Aの債権の消滅時効が中断するのは、Aが「請求などの権利の行使」をしたときです。(民法147条) 時効の中断理由…債権者の請求、債権者の差押え・仮差押え・仮処分、債務者の承認 Dが強制執行の手続を行ったときにAがその手続に債権の届出を行っただけでは、請求にはあたらないため、Aの債権の時効は中断しません。(最高裁・平成1.10.13) |
●抵当権実行の後の話 |
・抵当権の実行により抵当権は消滅しますが、抵当権の実行により被担保債権全額の回収ができなくても、残額は無担保の一般債権として存続します。 |