Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の基本確認6系 抵当権消滅請求・代価弁済 法改正
正解・解説
出題歴=平成2年,10年,21年
(このほか4年,6年に『抵当権者の第三取得者への抵当権実行通知義務』の出題→法改正により廃止)
法改正により『滌除』は『抵当権消滅請求』と名称が変わり,滌除による増価競売も廃止されました。 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
○ | × | × | ○ | × |
第三取得者の出捐
支払う金額 | イニシアティブ | 有利なとき | |
第三者弁済 (474条) | 被担保債務全額 | − | 被担保債権<時価 |
代価弁済 (378条) | 抵当権者の請求額 | 抵当権者 | 時価<被担保債権 |
抵当権消滅請求(379条) | 相当とする価額 | 第三取得者 | 時価<被担保債権 |
AがBに対する債務の担保のためにA所有の土地に抵当権を設定し,登記をした。その後,Aはこの抵当権つきの土地をCに譲渡した。 次の記述は,民法の規定及び判例によれば,○か、×か。 |
1.「Cは,抵当権消滅請求することができ,その手続が終わるまで,Aに対して,代金の
支払いを拒むことができる」(H2-6-2)
【正解:○】
◆抵当権消滅請求と代金債権 買いうけた不動産に先取特権・質権・抵当権の登記があるときは、第三取得者は抵当権消滅請求することができます。 売買契約にあたり、抵当権の負担と処理について合意の上、代金を決定した場合を除き、抵当権消滅請求の手続が終わるまでは、売主Aに対して代金の支払いを拒むことができます。(577条) これは、抵当権消滅請求に支出した金額を代金から差し引いて売主に支払うことができるようにしています。〔買いうけた不動産の代金を先に払い、その後に抵当権消滅請求をして、出捐の償還を売主にしてもらうのは、買主にとっては危険な場合があります。売主に買主の出捐の償還をするだけの資力がないことも考えられるからです。〕 ▼抵当権消滅請求をする時期 抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前であることが必要です。(382条) 第三取得者は,抵当権消滅請求をするには,所有権移転登記をしておく必要があると解されています。 ▼抵当権消滅請求と売主 売主は、買主に対して遅滞なく抵当権消滅請求をするように請求することができます。(577条) また、売主は買主に対して代金の供託を請求することができます。(578条) 売主が遅滞なく抵当権消滅請求をするように請求したにもかかわらず買主が抵当権消滅請求をしなかったり、売主が供託金請求をしたにもかかわらず供託をしない場合には、買主は代金支払いを拒否できなくなります。(大審院・昭和14.4.15など) |
●抵当権消滅請求 |
(抵当権消滅請求の手続) 第383条 抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をするときは、登記をした各債権者に対し、次に掲げる書面を送付しなければならない。 一 取得の原因及び年月日、譲渡人及び取得者の氏名及び住所並びに抵当不動産の性質、所在及び代価その他取得者の負担を記載した書面 二 抵当不動産に関する登記事項証明書(現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る。) 三 債権者が二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、抵当不動産の第三取得者が第一号に規定する代価又は特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し又は供託すべき旨を記載した書面 |
●抵当権消滅 |
抵当不動産の第三取得者から抵当権消滅請求を受けた全ての抵当権者が請求を承諾したときは,第三取得者は,代価または指定金額を弁済または供託することによって,抵当権を消滅させることができます。(379条,386条3号) → 抵当権者全員からの承諾を得なければ抵当権は消滅しないことに注意してください。承諾した抵当権者の抵当権は消滅しますが,一人でも承諾しない抵当権者がいると,その抵当権者の抵当権は消滅しません。 |
●抵当権者の対応 |
抵当権消滅請求権者が,時価に相当する金額を抵当権者に提示すれば問題はありませんが,提示された金額に満足できなければ,抵当権者は,拒否することができます。その場合,抵当権者は,抵当権消滅請求の申出(書面の送達の日)から2ヵ月以内に競売を申し立てなければいけません。(383条3項,384条1号) また抵当権者は,この競売の申立てをするときは,抵当権消滅請求の書面の送達を受けた日から2ヵ月以内に,債務者及び抵当不動産の譲渡人に通知しなければいけません。←改正により付け加えられたので注意してください。(385条)★★ なお,民法・民事執行法とも規定はありませんが,通説では,抵当権消滅請求を拒否する場合は,抵当権の被担保債権の弁済期がまだ到来していなくても,競売の申立をすることは可能とされています。 |
●抵当権消滅請求を承諾したとみなされる場合 ⇒ 覚えておく必要あり |
・抵当権者が,抵当権消滅請求を受けて,2ヵ月以内に競売を申し出ない場合→〔第三取得者が申し出た代価または指定金額を承諾したものとみなされる。〕(384条1号) ・申し立てた競売を取り下げたり(384条2号),却下されたり(384条3号),取り消しになった場合〔ただし例外がある〕(384条4号)→〔第三取得者が申し出た代価または指定金額を承諾したものとみなされる。〕 |
●抵当権消滅請求を承諾したとみなされない場合 ⇒ 覚える必要なし |
取り消す旨の決定が確定になっても,抵当権は消滅せず,抵当権消滅請求を承諾したとみなされない場合は,以下のものです。(384条4号) ・最低売却価額を超える額の買受申出がないため競売手続が取り消される場合(民事執行法63条3項) ・売却を三回実施しても買受けの申出がなく,差押債権者が売却実施の申出をしないことにより競売手続が取り消された場合(民事執行法68条の3第3項) ・売却を実施したが買受けの申出がなかったため競売手続が取り消された場合(民事執行法68条の3第3項) ・担保不動産競売の手続の停止及び執行処分の取消しを命ずる裁判の謄本が提出されてすでになされた執行が取り消される場合(民事執行法183条第1項5号) ⇒ 改正前は,『増価競売』という制度がありましたが,改正により廃止され,上記のように買受の申出がなく競売が取り消されても,抵当権者は買受義務を負わずにすみ,抵当権消滅請求は効力を失うことになります。 |
2.「目的不動産の第三取得者は,抵当権の被担保債権の保証人であるときでも,
抵当権消滅請求をすることができる。」
【正解:×】
◆第三取得者=被担保債権の保証人は抵当権消滅請求することはできない 普通抵当権の場合は,抵当権消滅請求権者は、抵当不動産について所有権を取得した第三者です(民法380条)。 ⇒ 元本確定後の根抵当権の消滅請求権者は、他人のためにその根抵当権を設定した者〔物上保証人〕、抵当不動産について所有権・地上権・永小作権を取得した第三者及び第三者に対抗できる賃借権を取得した第三者であることに注意(民法398条の22)。 主たる債務者・保証人及びその承継人には抵当権消滅請求権が与えられていません。主たる債務者・保証人及びその承継人は、債務の全額を弁済すべきものであり、債務の弁済をしないで抵当権消滅請求することは許されません。(民法380条) このほかには、停止条件付第三取得者も条件の成否未定の間は抵当権消滅請求をすることができません。(民法381条) このほか判例では「抵当不動産について譲渡担保権を取得しているが担保権実行前の者」(最高裁・平成7.11.10)は抵当権消滅請求をすることはできないとされています。また「抵当不動産について共有持分を取得した者が自己の持分についてのみ抵当権の抵当権消滅請求をすることはできない」(最高裁・平成9.6.5)とされています。 ▼通説では,抵当権消滅請求をするには,所有権移転登記をしておく必要があるとされており,まだ本登記をしていないで仮登記をしているのみでは抵当権消滅請求をすることはできないと解されています。 |
●類題 |
1.「抵当不動産の所有権を相続によって取得した者であっても,抵当権消滅請求をすることができる。」(司法書士H11-11-2) |
【正解:×】 ▼主たる債務者・保証人及びその承継人は抵当権消滅請求できない。 相続人は,抵当権設定者の「包括承継人」なので抵当権消滅請求をすることはできません。 |
2.「目的不動産の第三取得者は,抵当権の被担保債権の保証人であっても,抵当権消滅請求をすることができる。」(司法書士H2-20-1) |
【正解:×】 ▼主たる債務者・保証人及びその承継人は抵当権消滅請求できない。 |
●抵当権消滅請求ができない場合 ⇒ 覚える必要あり |
第380条 主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすることができない。 第381条 抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間は、抵当権消滅請求をすることができない。 〔農地法の許可を得られることを停止条件として売買契約を締結した場合などが |
3.「抵当権者が競売を申し立てた後に目的不動産を取得した第三者は,抵当権消滅
請求をすることができる。」
【正解:×】
◆競売申立後の第三取得者 競売申立後に、その不動産の所有者になった第三取得者は抵当権消滅請求をすることができません。(大審院・昭和7.5.23) |
4.「抵当不動産の所有権を無償で譲り受けた者であっても,抵当権消滅請求権を
行使することができる。」
【正解:○】
◆第三取得者 無償の場合 抵当不動産の所有権を譲り受けた第三取得者は,有償・無償を問わず,抵当権消滅請求権を行使することができます。 |
5.「抵当不動産の第三取得者は,目的不動産に複数の抵当権のあるときは,その
一部のみについて抵当権消滅請求をすることができる。」
【正解:×】
◆一部について抵当権消滅請求することはできない 抵当権消滅請求とは,抵当不動産にある抵当権を全部を一掃して第三取得者の権利を維持するためのものなので,抵当権の一部についてのみ抵当権消滅請求することは認められません。 抵当権消滅請求するときには,抵当権を有する者全員に対してすることになります。 |
●代価弁済の効果 | ||||||||||||||||
<所有権の取得者の代価弁済> ・代価弁済(378条)では、抵当権者の請求した提示額を払います。 ・所有権の取得者が代価弁済すると抵当権は消滅します。 註・地上権を買い受けた者が代価弁済してもその土地の抵当権そのものは消滅せず、ただその地上権が抵当権者・競落人に対抗できるものになったのに過ぎない。 ・債権者が所有権の取得者の代価弁済によって債権全額の弁済を受けられなかった場合は、残余債務は代価弁済後も存続し、債権者は担保のない一般債権になり、債務者に弁済を請求することになります。 ・抵当権者にとっての代価弁済のメリットは、抵当権の実行で競落価格は時価よりも安くなる事が多く、もし時価で第三取得者に弁済してもらえるならば、まずその時価分を受け取り、残った残存債権は債務者に後でジックリ返してもらうことになります。
|
●チェック |
1.「抵当不動産の所有権を取得した者が,抵当権者の請求に応じてその代価を支払った場合,たとえ弁済額が抵当権の被担保債権に満たなくても,その債権は消滅する。」(司法試験択一・昭和55年) |
【正解 : ×】
第三取得者が抵当権者の請求に応じてその代価を支払っても,それは第三取得者との関係において抵当権が消滅するだけです。(所有権の取得者が代価弁済したときは抵当権設定者との関係でも抵当権は消滅します。) 代価弁済した額が被担保債権に満たない場合は,その差額は担保のない一般債権となって存続し,債務者が弁済します。 ▼第三取得者は代価弁済した範囲で売主に求償権を取得します。(567条2項) |
2.「抵当不動産の第三取得者は代価弁済をすることができるが,物上保証人は,代価弁済をすることができない。」 |
【正解 : ○】 代価弁済できるのは,『所有権又は地上権を買受けた第三取得者』のみ。
抵当不動産について所有権又は地上権を買受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。(378条) |
3.「売買により抵当不動産を取得した第三者は,抵当権者が請求しなくても,代価弁済として,その売買代金を抵当権者に提供して,自己のために抵当権を消滅させることができる。」(司法試験択一・昭和48年) |
【正解 : ×】 抵当権消滅請求では第三取得者が請求できますが,代価弁済は抵当権者の請求に応じることによって抵当権を消滅させる制度です。代価弁済では第三取得者にイニシアティブはないので本肢のようなことはできません。 |
●代価弁済の盲点を二つ |
●代価弁済によって消滅する抵当権は,代価弁済を請求してきた抵当権者の抵当権に限られるので,一人の抵当権者に代価弁済したからといって,代価弁済を請求してこなかった抵当権者の抵当権まで消滅するのではありません。 抵当権者が一人のみのときはその抵当権者への代価弁済で抵当権は消滅しますが,抵当権者が複数いるときは抵当権者全員に対して代価弁済しない限り全ての抵当権は消滅しません。 ●代価弁済は抵当権者からその請求があっても第三取得者は拒否できます。上で見たように代価弁済で抵当権が消滅するのは代価弁済の請求をしてきた抵当権者の抵当権のみなので,その他にも抵当権者がいる場合には,第三取得者に代価弁済を強制することはできないからです。〔すべての抵当権者が代価弁済の請求をしてくるとは限らない。〕 |