Brush Up! 権利の変動篇
不法行為の過去問アーカイブス 使用者責任 平成6年・問7
Aは,宅地建物取引業者Bに媒介を依頼して,土地を買ったが,Bの社員Cの虚偽の説明によって,損害を受けた。この場合の不法行為責任に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成6年・問7) |
1.「Aは,Cの不法行為責任が成立しなければ,Bに対して損害の賠償を求めることはできない。」 |
2.「Aは,Bに対して不法行為に基づく損害の賠償を請求した場合,Cに対して請求することはできない。」 |
3.「Aは,Cの虚偽の説明がBの指示によるものでないときは,Cに対して損害の賠償を求めることができるが,Bに対しては求めることができない。」 |
4.「Bは,Aに対して損害の賠償をした場合,Cに求償することはできない。」 |
●使用者責任の成立要件 |
被用者が不法行為をしたときに,その被害者救済の見地から,使用者の責任も問えるとしたのが使用者責任です。(715条)
使用者と被用者に使用関係があり,被用者が第三者に加害したときに,使用者責任が成立するには次の要件が必要です。 1) 被用者の加害が事業の執行についてなされたものであること。 2) 被用者について不法行為の成立要件が満たされていること。 3) 使用者に免責事由がないこと。 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
1.「Aは,Cの不法行為責任が成立しなければ,Bに対して損害の賠償を求めることはできない。」 |
【正解:○】 「故意または過失」によって他人の権利を侵害し,これによって他人に「損害」を生じされる行為のことを,「不法行為」といいます。 被用者(社員C)が,その事業の事業の執行につき「故意または過失」によって第三者に「損害」を与えた(=不法行為)とき,その被用者はもちろんのこと,使用者(業者B)も責任を取らなければなりません(民法第715号)。 しかし,反対に,そのもとになるCの不法行為責任が成立しない以上は,当然ですが,使用者Bに不法行為責任を問うことはできません。 |
2.「Aは,Bに対して不法行為に基づく損害の賠償を請求した場合,Cに対して請求することはできない。」 |
【正解:×】 判例によれば,使用者の債務と使用人の債務の関係は,“連帯債務に準じる(不真正連帯債務という)”扱いが適用され,したがって,この場合のAは,業者Bと社員Cの双方に損害賠償の請求をすることができる,という被害者の救済が万全となるよう図られています。 |
●不真正連帯債務 |
使用者責任を負う使用者〔代理監督者〕には,一般不法行為の加害者と同様に,被用者の加害行為から生じた損害を賠償する責任が生ずる。 使用者責任が成立する場合には,通説・判例の立場からすると,常に被用者にも709条の不法行為が成立している。このとき,使用者と被用者は,いずれもが被害者に対して全額の賠償義務を負う関係に立つ。そして,いずれかが賠償金を支払えば,その限りで免責される。このような債務を,不真正連帯債務という。(内田貴『民法II』p.459) |
「どちらも全額の賠償義務は負うが,広義の弁済に相当する事由を除いて,一人の債務者に生じた免除や消滅時効等の事由がほかの債務者に影響を与えない〔『絶対的効力事由が制限される』という〕もの」を不真正連帯債務といいます。
⇒ 連帯債務では一人に生じた事由がほかの債務者に影響を与えることがありますが,不真正連帯債務では制限されています。 |
3.「Aは,Cの虚偽の説明がBの指示によるものでないときは,Cに対して損害の賠償を求めることができるが,Bに対しては求めることができない。」 |
【正解:×】 Cの虚偽の説明がBの指示によるものでなかったとしても,会社の業務として行っていたのであれば,被用者Cの行為について,原則として,使用者Bは,使用者としての責任を免れることはできません。(第715条1項) 被用者の選任や事業の監督につき相当の注意を払っていた場合や相当の注意を払っていても損害が発生するような場合は免れますが(第715条1項但書),最近ではこの免責はほとんど認められていないようです。 ▼被用者の加害行為によって生じた損害について使用者が責任を負う根拠としては,幾つか挙げられていますが,ここでは省きます。 |
4.「Bは,Aに対して損害の賠償をした場合,Cに求償することはできない。」 |
【正解:×】 使用者の指図によらぬ使用人の虚偽の行為によって発生した損害を賠償した場合の使用者(B)は,その被用者(C)に対して,その賠償額を請求することができます。(715条3項) ▼使用者責任は,もともとは被用者の不法行為責任を代位しているという考え方があり,この考え方で言えば「肩代わりしたのだから,求償できるのは当然だ」ということになります。 しかしながら,判例では『使用者は,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対して損害の賠償又は求償の請求をすることができる』として,使用者の被用者に対する求償を制限しています。(最高裁・昭和51.7.8) |