宅建過去問  権利の変動篇

使用貸借の過去問アーカイブス  平成9年・問8


 Aが,親友であるBから,B所有の建物を 「2年後に返還する」 旨の約定のもとに,無償で借り受けた。この場合,民法の規定によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。(平成9年・問8)

1 が,の借受け後に当該建物をに譲渡し登記を移転した場合,は,の借受け時から2年間は,に対し当該建物の返還を請求することはできない。

2 2年の期間満了時において,の返還請求に正当事由がない場合には,は,従前と同一の条件で,さらに2年間当該建物を無償で借り受けることができる。

3 2年の期間満了前にが死亡した場合には,の相続人は,残りの期間についても,当該建物を無償で借り受ける権利を主張することはできない。

4 は,当該建物につき通常の必要費を支出した場合には,に対し,直ちにそれを償還するよう請求することができる。

【正解】

× × ×

使用貸借の出題歴=昭和53年,平成9年,平成13年

使用貸借 

 使用貸借は、当事者の一方が無償にて使用及び収益を為した後に返還をすることを約して相手方からある物を受取るによってその効力を生ずる(民法593条)

存続期間の定めがあるとき その期間満了時に返還する。
存続期間の定めがないとき 使用収益の目的を定めない 貸主はいつでも返還の請求ができる。
使用収益の目的の定めがある ・目的に従った使用収益の終了時に返還する。

・使用収益をするのに足りる期間を経過したとき、貸主は直ちに返還を請求できる。

●類題
1.「使用貸借契約は、借主が無償で物を借りて使用収益した後、これを貸主に返還することを合意したうえで、借主がその物を受け取ることによって成立する。」(昭和53年)
【正解:
2.「賃貸借契約は、貸主が借主に対して、ある物を使用収益させることを約し、借主がこれに対して賃料を支払うことを約すという合意が成立することによって成立する。」(昭和53年)
【正解:

1 が,の借受け後に当該建物をに譲渡し登記を移転した場合,は,の借受け時から2年間は,に対し当該建物の返還を請求することはできない。

【正解:×
◆使用貸借には,第三者に対して対抗できない

  (貸主,建物の譲渡人) ――― (建物の譲受人)
 |
 (借主)

土地の所有者(貸主)   → 
土地の借主  

 使用貸借は、貸主に対する関係で認められているのに過ぎず、貸主〔または貸主の相続人〕以外の者に対しては効力をもたないので、新たな所有者に対して使用借権(使用貸借権)の対抗することができません。〔貸主と借主の人間関係を背景に,貸主の厚意によるため〕

 したがって、が当該建物の譲り受け登記を移転しているため、の返還請求に応じて明渡さなければいけません。

使用貸借契約は貸主の「タダで貸してあげる」という厚意によるものであり、目的物が譲渡された場合は、借主は譲受人に対して使用借権を主張することはできず、使用貸借の借主には譲受人に対して対抗力はありません。

●借主が無断で第三者に貸した場合
「建物の使用借主が貸主に無断で建物を第三者に貸した場合,貸主は借主に催告をしないで直ちに解除することはできない。」(司法試験・択一・昭和51)
【正解:×

 使用借主は,契約または目的物の性質によって定まった用方に従って使用収益をしなければいけません。(594条1項)

 使用借主は,貸主の承諾を得ないで,目的物を第三者に使用収益させてはいけません(594条2項)

 これらの義務に違反すると貸主は催告を要せず直ちに解除できます(594条3項)

2 2年の期間満了時において,の返還請求に正当事由がない場合には,は,従前と同一の条件で,さらに2年間当該建物を無償で借り受けることができる。

【正解:×
◆返還時期の定めのある使用貸借

 貸主に正当事由がなくても返還時期の定めのある使用貸借では、期間満了によって終了します。(民法597条1項) このため、本肢は×になります。

▼貸主から解除できる例

 用法遵守(594条3項)無断譲渡・転貸禁止(594条2項)

この二つの義務に違反すると、貸主は催告なしに直ちに解除することができ、損害があれば賠償請求もできます。

●類題
「使用貸借で返還時期の定めがあっても,契約に定めた使用の目的に相当な期間を経過した後には,貸主はその返還を請求できる。」(司法試験・択一・昭和45)
【正解:×】本肢では返還の時期について定めがあるのですから,それに従います。

3 2年の期間満了前にが死亡した場合には,の相続人は,残りの期間についても,当該建物を無償で借り受ける権利を主張することはできない。

【正解:
◆使用借主死亡による使用貸借契約の終了

  (貸主) 
 |
 (借主)死亡・・・・の相続人

 使用貸借は人間関係と信頼関係に基づく無償の貸借契約です。借主が死んだ場合は、特約のない限り使用貸借は終了します。(民法599条1項)

 しかし、貸主が死んだ場合貸主の相続人が貸主の立場を引き継ぐことになり、使用貸借契約は終了しません。

 貸主の死亡  貸主の相続人が引き継ぐので,使用貸借は終了しない。
 借主の死亡  使用貸借は終了する。
●類題
1.「使用貸借契約において,貸主又は借主が死亡した場合,使用貸借契約は効力を失う。」(H13-6-2)
【正解:×

 借主の死亡によって使用貸借契約は、特約のない限り終了します。しかし,貸主の死亡では効力は失われないため、×になります。使用貸借は貸主の厚意に基づいているので、貸主が死亡でも使用貸借が終了しないのは契約期間内は貸主の厚意が尊重されていると考えることもできるでしょう。

4 は,当該建物につき通常の必要費を支出した場合には,に対し,直ちにそれを償還するよう請求することができる。

【正解:×
◆必要費は,原則として借主が負担

 使用貸借では、貸主は借主が使用収益することを受忍するといういわば消極的なものであるため、貸主に修繕義務はありません。目的物の保存・保管に必要な費用(通常の必要費)は借主が負担します。(民法595条1項)

このため、本設問は×になります。

非常時の必要費〔災害による破損の修繕など〕では支出額全額の償還有益費の場合は、価額の増加が現存する場合に限り貸主の選択によって、支出額 or 増価額の償還を、目的物の返還後1年以内に請求でき,裁判上または裁判外でもその一年以内に行使しないと消滅します。〔除斥期間〕(民法595条2項,583条2項,196条)

判例では、使用収益に対する対価の意味を持つと認められる特段の事情がない限り、固定資産税も必要費に入るとしたものがあります。(最高裁・平成5.2.18)

使用貸借と貸借の違い>

 ◎賃貸借は、「期間の定めのある賃貸借」を例にしました。

 賃貸借  使用貸借
 諾成契約

・・・賃貸人と賃借人の合意によって成立

 要物契約

 ・・・物の授受があって初めて成立する 593

 したがって、使用貸借の合意があっても、
 それだけでは、契約は成立しない

 例・使用貸借の合意後、引渡しの前に、
 貸主がやはり貸せないと断ったとしても、
 債務不履行にはならず、原則として、
 損害賠償が問題になることはありません。

 双務契約

・・・賃貸人は使用収益させる義務を負い

  賃借人は賃料の支払い義務がある。

 片務契約

 ・・・使用貸借が成立した後は、借主のみ

   返還義務の債務を負う。

 有償契約  無償契約
以下の二つは、賃貸借・使用貸借の双方の性質です。

不要式の契約・・・契約の締結にあたり、契約書の作成などの行為を要さない。契約書の作成により、権利関係が明確になり、訴訟での立証も容易となる。

典型契約・・・民法上に規定のある契約

  賃貸借 使用貸借
無償・有償 有償 無償
借地借家法 適用 ×適用されない
第三者に用益させる 転貸・賃借権の
譲渡は無断なら
貸主は解除できる
催告なしに

貸主は解除できる 594-3

借主の新所有者への対抗力 ×
貸主の担保責任 ある 準用596善意のときは「ない」

(悪意の場合、賠償責任551)

-負担付の使用貸借を除く-

必要費 貸主全額負担

(貸主の修繕義務)

・直ちに償還請求

・目的物返還後に
償還請求する場合
貸主に返還して
1年以内

借主負担595-1

(貸主の修繕義務はない)

非常の必要費 貸主全額負担595-2

償還請求は貸主に返還して
1年以内 600

有益費

(価額の増加が現存する場合)

貸主選択

償還請求は
貸主に返還して
1年以内

貸主選択595-2

償還請求は貸主に返還して
1年以内 600

期間満了時に貸主に正当事由

がない更新拒絶

従前と同じ条件
で続行する

(期間の定めの
ない賃貸借に
なる=建物)

契約終了597-1
貸主死亡 契約続行 契約続行
借主死亡(借主の相続人の承継) 契約続行可能 契約続行不可

契約終了599

このほかには、使用貸借・賃貸借とも、借主(使用借権者・賃借権者)には

原状回復義務598条、616条、目的物の善管注意義務400条があります。

原状回復義務598条、616条

 目的物に附属させたものがあればこれを収去して、原状(モトの姿・状態)に復して返還しなければならない。


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