Brush Up! 権利の変動篇

相隣関係の過去問アーカイブス 隣地使用権 平成11年・問2


土地の相隣関係に関する次の記述のうち,民法の規定によれば,正しいものはどれか。ただし,民法の規定と異なる慣習については考慮しないものとする。(平成11年・問2)

1.「土地の所有者は,隣地との境界近くで建物を築造し,又は修繕する場合でも,隣人自身の承諾を得たときを除き,隣地に立ち入ることはできない。」

2.「土地の所有者は隣地の所有者と共同の費用で境界標 (境界を標示する物) を設置することができるが,その設置工事の費用は,両地の広さに応じて分担しなければならない。」

3.「隣地の竹木の根が境界線を越えて侵入している場合は,これを竹木の所有者に切り取るように請求することができるが,自分で切り取ることはできない。」

4.「他人の宅地を観望できる窓又は縁側を境界線から1m未満の距離に設ける場合は,目隠しを付けなければならない。」

【正解】

× × ×

1.「土地の所有者は,隣地との境界近くで建物を築造し,又は修繕する場合でも,隣人自身の承諾を得たときを除き,隣地に立ち入ることはできない。」(昭和38年,62年)

【正解:×
◆隣地使用権

 隣の土地の使用は、必要な範囲内で請求することができます。隣家が拒否しても裁判所に請求の申立てができますが(209条1項本文),隣の家屋内に立ち入ることは、プライバシー保護の見地から、隣家が拒否したときはできません。(209条1項但書)

●民法209条(隣地の使用請求)
1 土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。

 ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。

2 前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
●類題
1.「は自己所有地の半分をに売却した。の境界地附近の自己所有地内に垣を作る場合には,相手方の承認を得なければならない。」(昭和38年)
【正解:×】上述のとおり。
2.「土地の所有者は,隣地との境界付近において建物を築造する場合には,必要な範囲内で当該隣地の使用を求めることができる。」(昭和62年・問9・肢3)
【正解:】上述のとおり。

2.「土地の所有者は隣地の所有者と共同の費用で境界標 (境界を標示する物) を設置することができるが,その設置工事の費用は,両地の広さに応じて分担しなければならない。」
(昭和38年)

【正解:×
◆界標設置権

 土地の所有者は隣地の所有者と共同の費用で境界標を設置することができます。(223条)その設置工事や保存にかかる費用は相隣者どおしで平分して負担します。平分=折半。(224条本文)

 境界線上に設けた境界標囲障 (いしょう)などは,相隣者の共有と推定されます。(229条)

 また,囲障 (いしょう)の設置・保存の費用も,原則として,相隣者どおしで平分して負担します。(226条)

両地の広さに応じて分担しなければならないのは、測量費用です。(224条但書)

●類題
は自己所有地の半分をに売却した。が境界標を設置した費用が1,000円であったときは,に500円負担させることができる。」(昭和38年)
【正解:】上述のとおり。

3.「隣地の竹木の根が境界線を越えて侵入している場合は,これを竹木の所有者に切り取るように請求することができるが,自分で切り取ることはできない。」(類・昭和62年)

【正解:×
◆竹木の枝の剪除 (せんじょ)権・竹木の根の截取 (せっしゅ)

 隣地の竹木の根が境界線を越えて侵入している場合は、自分で切り取ることができます。(233条2項)←平成11年出題

 隣地の竹木の枝が境界線を越えて侵入している場合は、その所有者に切り取るように請求することができます。(233条1項)←昭和62年出題

    → 竹木の所有者に切らせることができる

―――――――――――――――――――――――

    → 自分で切り取ることができる

ここは、根ではなく茎ではどうだろうか、果実が落ちていたらどうだろうかと疑問が出てくるのは当然ですが、専門的な議論になってしまうので、条文のみに留めておきましょう。

●類題
「隣地の柿の木が境界線を越えて自己の所有地に入ってきた場合は,その柿の木の所有者にその枝を切らせることができる。」(昭和62年・問9・肢1)
【正解:】上述のとおり。

4.「他人の宅地を観望できる窓又は縁側を境界線から1m未満の距離に設ける場合は,目隠しを付けなければならない。」

【正解:
◆境界線付近の建築

 235条1項そのままの出題です。問題文の但書きで「民法の規定と異なる慣習については考慮しない」とあったのは、236条で「前二条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。」とあるためと思われます。このように、民法の規定と異なる慣習が優先される場合があります。(ほかには、263,269条など)

このほか民法と異なる規定を法律が定める場合があります。有名なのは,建築基準法65条の隣地境界線に接する外壁の規定です。〔防火地域又は準防火地域内にある建築物で,外壁が耐火構造のものについては,その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。この規定は,民法234条1項の特則だとされています。(最高裁・平成元.9.19)

民法234条1項・・・建物を築造するには境界線より50センチメートル以上の距離を空けなければならない。


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