Brush Up! 権利の変動篇
時効の過去問アーカイブス 平成17年・問4 消滅時効
Aが有する権利の消滅時効に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。(平成17年・問4) |
1.「Aが有する所有権は、取得のときから20年間行使しなかった場合、時効により消滅する。」 |
2.「AのBに対する債権を被担保債権として、AがB所有の土地に抵当権を有している場合、被担保債権が時効により消滅するか否かにかかわらず、設定時から10年が経過すれば、抵当権はBに対しては時効により消滅する。」 |
3.「AのCに対する債権が、CのAに対する債権と相殺できる状態であったにもかかわらず、Aが相殺することなく放置していたためにAのCに対する債権が時効により消滅した場合、Aは相殺することはできない。」 |
4.「AのDに対する債権について、Dが消滅時効の完成後にAに対して債務を承認した場合には、Dが時効完成の事実を知らなかったとしても、Dは完成した消滅時効を援用することはできない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | × | ○ |
正答率 | 56.6% |
1.「Aが有する所有権は、取得のときから20年間行使しなかった場合、時効により消滅する。」 |
【正解:×】 所有権は消滅時効にはかからない(民法162条)。所有権は他人の取得時効によって権利が失われることはあるが,所有権の消滅時効によるものではないので誤り。 |
2.「AのBに対する債権を被担保債権として、AがB所有の土地に抵当権を有している場合、被担保債権が時効により消滅するか否かにかかわらず、設定時から10年が経過すれば、抵当権はBに対しては時効により消滅する。」 |
【正解:×】 抵当権は,債務者や抵当権設定者に対しては,被担保債権と同時でなければ時効によって消滅することはない(民法396条)。被担保債権が消滅時効にかからないのに抵当権だけが消滅時効にかかることを防ぐためである。このため,本肢は誤りになる。 ▼ただし,第三取得者や後順位抵当権者との関係では,被担保債権が消滅時効にかからなくても抵当権だけが20年の消滅時効にかかる(判例)。 ▼民法や他の法令に別段の定めがない債権は,10年間行使しないときは消滅する(民法167条1項)。債権または所有権以外の財産権は20年間行使しないときは消滅する(民法167条2項)。 |
3.「AのCに対する債権が、CのAに対する債権と相殺できる状態であったにもかかわらず、Aが相殺することなく放置していたためにAのCに対する債権が時効により消滅した場合、Aは相殺することはできない。」 |
【正解:×】 相殺できる状態であったにもかかわらず,相殺することなく放置していたために債権が時効により消滅した場合でも相殺することができるので誤り(民法508条)。 ▼時効完成前に相殺適状になっていれば,消滅時効にかかった債権でも自働債権として相殺することができる。 ただし,すでに消滅時効になった債権を譲り受けた者が,これを自働債権として相殺しようとしても,消滅時効が援用されれば相殺は効力を生じない(判例)。 |
4.「AのDに対する債権について、Dが消滅時効の完成後にAに対して債務を承認した場合には、Dが時効完成の事実を知らなかったとしても、Dは完成した消滅時効を援用することはできない。」 |
【正解:○】 消滅時効の完成後に,時効完成の事実を知らずに債務を承認した場合は,信義則によりその後消滅時効の援用をすることはできなくなる(判例,昭和41.4.20)。 ▼時効が完成した後に債務者が債務を承認すれば,相手方(債権者)は,「債務者は時効をもはや援用しない」と考えるから,その後債務者が時効の援用をすることは許されない。 |