Brush Up! 権利の変動篇
解除の過去問アーカイブス 平成17年・問9
担保責任(全部他人物・抵当権等),解除権の行使と損害賠償,解約手付による解除
売買契約の解除に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか 。(平成17年・問9) |
1.「買主が、売主以外の第三者の所有物であることを知りつつ売買契約を締結し、売主が売却した当該目的物の所有権を取得して買主に移転することができない場合には、買主は売買契約の解除はできるが、損害賠償請求はできない。」 |
2.「売主が、買主の代金不払を理由として売買契約を解除した場合には、売買契約はさかのぼって消滅するので、売主は買主に対して損害賠償請求はできない。」 |
3.「買主が、抵当権が存在していることを知りつつ不動産の売買契約を締結し、当該抵当権の行使によって買主が所有権を失った場合には、買主は、売買契約の解除はできるが、売主に対して損害賠償請求はできない。」 |
4.「買主が、売主に対して手付金を支払っていた場合には、売主は、自らが売買契約の履行に着手するまでは、買主が履行に着手していても、手付金の倍額を買主に支払うことによって、売買契約を解除することができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
正答率 | 65.7% |
1.「買主が、売主以外の第三者の所有物であることを知りつつ売買契約を締結し、売主が売却した当該目的物の所有権を取得して買主に移転することができない場合には、買主は売買契約の解除はできるが、損害賠償請求はできない。」 |
【正解:○】 売主は,他人の権利を売買の目的物としたときは,その権利を取得して買主に移転する義務を負う(民法560条)。 売主がその権利を取得して買主に移転できないとき(売主に帰責事由がない場合)は,買主は契約の解除をすることができるが,この場合悪意の買主は損害賠償請求はできない(民法561条)ので正しい。悪意であれば,売主が権利を取得できないリスクも予期できるからである。 |
●アウトライン−善意・悪意に関係なく,買主は,解除することができる
買主 | 解除 | 損害賠償 | 除斥期間 | |
全部他人物売買 | 善意 | ○ | ○ | なし |
悪意 | ○ | × | なし |
2.「売主が、買主の代金不払を理由として売買契約を解除した場合には、売買契約はさかのぼって消滅するので、売主は買主に対して損害賠償請求はできない。」 |
【正解:×】 債務不履行による解除では,契約を解除して,あわせて損害賠償の請求をすることができる(民法545条3項)。解除の遡及効により当事者間には原状回復義務があるとはいえ(民法545条1項),この原状回復だけでは債務不履行によって債権者が受けた損害を償うには足りないことがあるため,その救済措置として損害賠償請求をすることができるようにしているのである。 したがって,解除権を行使した者は債務不履行による損害賠償を請求することもできるので(民法545条3項),本肢は誤りである。 |
3.「買主が、抵当権が存在していることを知りつつ不動産の売買契約を締結し、当該抵当権の行使によって買主が所有権を失った場合には、買主は、売買契約の解除はできるが、売主に対して損害賠償請求はできない。」 |
【正解:×】 抵当権・先取特権がある場合の売主の担保責任は無過失責任であるが(判例),買主の善意・悪意を問わず,抵当権者等の権利の行使によって買主が目的物の所有権を失ったり,買主が自己の費用を支出して所有権を保存したときに,売主の担保責任が生じる(民法567条)。 買主が抵当権者等の権利の行使によって買主が目的物の所有権を失った場合は,買主は解除することができ,損害を受けたときは損害賠償を請求することができる。(買主が自己の費用を支出して所有権を保存したときは,売主に費用の償還を請求することができ,損害を受けたときは損害賠償を請求することができる。) これは,買主が,抵当権が存在していることを知りつつ不動産の売買契約を締結したとしても,変わらないので,<買主は、売買契約の解除はできるが、売主に対して損害賠償請求はできない。>とする本肢は誤りである。 悪意の買主でも保護されるのは,「抵当権がついていても売主が抵当権を抹消させてくれるだろう」と買主が期待するのは当然だからである。 ▼ただし,当事者間で,不動産の価格から抵当権の被担保債権の額を控除して売買代金を決定した場合には,この担保責任の規定は適用されないと解される。 |
●担保物権の実行により所有権を喪失したときの担保責任の考え方
善意・悪意の買主・解除 |
買主 | 解除 | 損害賠償 | 除斥期間 | |
抵当権による所有権の喪失 | 善意 | ○ | ○ | ない |
悪意 | ○ | ○ | ない |
4.「買主が、売主に対して手付金を支払っていた場合には、売主は、自らが売買契約の履行に着手するまでは、買主が履行に着手していても、手付金の倍額を買主に支払うことによって、売買契約を解除することができる。」 |
【正解:×】 買主が,売主に対して手付金を支払っていた場合には,当事者の一方(本肢では売主)は自ら履行に着手していても,相手方(本肢では買主)が履行に着手するまでは解除権を行使できる(判例)。 本肢では,<自らが売買契約の履行に着手するまでは、買主が履行に着手していても、売買契約を解除することができる。>としているので誤りである。 ▼売主が解約手付による解除をする場合は,手付金の倍額を買主に償還する(民法557条1項)。 |