Brush Up! 権利の変動篇

遺言の過去問アーカイブス 平成17年・問12 遺言と遺留分


遺言及び遺留分に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。(平成17年・問12)

1.「自筆証書による遺言をする場合、証人二人以上の立会いが必要である。」

2.「自筆証書による遺言書を保管している者が、相続の開始後、これを家庭裁判所に提出してその検認を経ることを怠り、そのままその遺言が執行された場合、その遺言書の効力は失われる。」

3.「適法な遺言をした者が、その後更に適法な遺言をした場合、前の遺言のうち後の遺言と抵触する部分は、後の遺言により取り消したものとみなされる。」

4.「法定相続人が配偶者と子だけである場合、に全財産を相続させるとの適法な遺言がなされた場合、は遺留分権利者とならない。」

【正解】

× × ×

 正答率  84.8%

1.「自筆証書による遺言をする場合、証人二人以上の立会いが必要である。」

【正解:×
◆自筆証書による遺言では立会いは不要

 自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文・日付・氏名を自書し,押印しなければなりませんが,立会人は必要とされていない(民法968条1項)ので誤りです。

証人二人以上の立会が必要なのは,公正証書遺言(民法969条,969条の2),秘密証書遺言(民法970条)です。

●普通の方式による遺言
 自筆証書(968条,971条)

 公正証書(969条,969条の2)・・・証人2人以上の立会いが必要。

 秘密証書(970条,972条)・・・公証人1人,証人2人以上の前に封書を提出。
   この方式に欠けるものがあっても,968条に定める方式を具備しているときは
     自筆証書による遺言としてその効力を有する。

2.「自筆証書による遺言書を保管している者が、相続の開始後、これを家庭裁判所に提出してその検認を経ることを怠り、そのままその遺言が執行された場合、その遺言書の効力は失われる。」

【正解:×
◆遺言の保管者が検認を経るのを怠ったとき

  検認を経るのを怠ったとしても,保管者が過料に処されるだけで,遺言の効力が失われることはないことに注意してください。適法に遺言を残した者の生前の最後のメッセージが保管者の手続ミス等で無効になるというのはおかしな話だと気がつかなければいけません。

 遺言の保管者は,相続の開始を知った後,遅滞なく,家庭裁判所に遺言書を提出して,その検認を請求しなければなりません(民法1004条1項)

 遺言書の家庭裁判所への提出を怠り,家庭裁判所の検認を経ないで遺言を執行したり,家庭裁判所外で遺言書を開封した者は,5万円以下の過料に処せられる(民法1005条)ますが,遺言書の効力が失われるわけではありません。

 したがって,本肢は誤りです。

家庭裁判所の検認を経なかった場合の遺言の効力については,平成6年・問13・肢2に出題歴があります。

 (1000本ノックの該当箇所) http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/igon-ans2.html

3.「適法な遺言をした者が、その後更に適法な遺言をした場合、前の遺言のうち後の遺言と抵触する部分は、後の遺言により取り消したものとみなされる。」

【正解:
◆遺言の撤回

 遺言者は,いつでも,遺言の方式に従ったものであれば,それより前にした遺言の全部又は一部を撤回することができる(民法1022条)

 適法な遺言をした者が,その後更に適法な遺言をした場合,前の遺言のうち後の遺言と抵触する部分は,後の遺言により撤回したものとみなされる(民法1023条1項)

 (1000本ノックの関連箇所) http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/igon-ans3.html

問題文では,<前の遺言のうち後の遺言と抵触する部分は、後の遺言により取り消したものとみなされる。>となっていますが,ここは平成17年4月1日に施行された改正民法1023条では,用語が取消し⇒撤回 と変更になったところです。

 しかし,改正前の民法1023条の<取消し>は<撤回>であると広く解釈されていたことから,文言が改正前の表現ではないかと疑心暗鬼になったり,神経質になる必要はありません。

 問題文が法改正に対応していないではないかと,妙なケチをつけないようにしましょう。

4.「法定相続人が配偶者と子だけである場合、に全財産を相続させるとの適法な遺言がなされた場合、は遺留分権利者とならない。」

【正解:×
◆遺留分

 遺留分が認められるのは,配偶者・子(または,子の代襲相続人,生きて生まれれば胎児。)・直系尊属です(民法1028条)。(被相続人の兄弟姉妹には遺留分はないことに注意。)

 法定相続人が配偶者と子だけである場合に,に全財産を相続させるとの適法な遺言がなされた場合でも,子は遺留分権利者となるので誤りです。

本肢では,被相続人の財産の1/2が総体的遺留分(相続人全体に割り当てられた遺留分) となりますが,遺留分権利者である子の個別の遺留分は全体の遺留分の1/2にの法定相続分率1/2(妻,子1人の場合の子の法定相続分率)を乗じて得た1/4です(民法1028条2項)

遺留分は,昭和63年・問8,平成2年・問11,平成4年・問13・肢2,平成9年・問10,平成12年・問10・肢2に出題歴があります。


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