Brush Up! 権利の変動篇

条件と期限の過去問アーカイブス 平成18年・問3 停止条件付契約 


は、との間で、所有の山林の売却について買主のあっせんを依頼し、その売買契約が締結され履行に至ったとき、売買代金の2%の報酬を支払う旨の停止条件付きの報酬契約を締結した。この契約において他に特段の合意はない。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。  (平成18年・問3)

1.「あっせん期間が長期間に及んだことを理由として、が報酬の一部前払を要求してきても、には報酬を支払う義務はない。」

2.「があっせんした買主との間でが当該山林の売買契約を締結しても、売買代金が支払われる前にが第三者との間で当該山林の売買契約を締結して履行してしまえば、の報酬請求権は効力を生ずることはない。」

3.「停止条件付きの報酬契約締結の時点で、既にが第三者との間で当該山林の売買契約を締結して履行も完了していた場合には、の報酬請求権が効力を生ずることはない。」

4.「当該山林の売買契約が締結されていない時点であっても、は停止条件付きの報酬請求権を第三者に譲渡することができる。」

<コメント>  
  用途地域外で山林に建物を建てる目的の場合や,用途地域内の山林の売買の場合は宅地の売却のあっせんとなり,宅建業法が適用されますが,本問題ではそのことに注目する必要はありません。これも受験者を疑心暗鬼にさせる手口の一環であり,こんなところでエネルギーを使ってしまうと本題の肢1〜肢4が解けなくなってしまいます。

 ここでは報酬契約が停止条件付の契約であることにのみ,着目して解いていきます。
民法総則の「条件と期限」の問題であることに気がつけば,特に迷うことはありませんが,準委任とか請負の問題だと考えてしまうと,ドツボにはまってしまった方もいるかもしれません

 正解肢の肢2の論点は,平成11年問6肢2,15年問2肢4で出題歴がありました。

 ◎1000本ノックでの該当箇所
 http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/contract-n116.html
 http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/contract-n1502.html
●出題論点●
 

【正解】

×

 正答率  57.4%

1.「あっせん期間が長期間に及んだことを理由として、が報酬の一部前払を要求してきても、には報酬を支払う義務はない。」

【正解:
◆停止条件付法律行為の効力

 契約に停止条件がついていると,その停止条件が成就したときから,その効力が生じます(127条1項)。

 本肢では,他に特段の契約もなく,<報酬の一部前払を要求>となっていますから,売買契約が締結された後であっても,まだその履行に至っていない時点で,が一部支払をに要求したことになります。

 Aは,売買契約が締結され履行に至っていない時点では,停止条件が成就していないのですから,報酬を支払う義務はありません。 

(条件が成就した場合の効果)
第127条1項
 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。

2.「があっせんした買主との間でが当該山林の売買契約を締結しても、売買代金が支払われる前にが第三者との間で当該山林の売買契約を締結して履行してしまえば、の報酬請求権は効力を生ずることはない。」

【正解:×
◆条件の成就の妨害 (二重売買)

  (売主)――(買主)があっせん

 |

  (買主) 売買契約を締結して履行。

 があっせんした買主との間でが当該山林の売買契約を締結していても,履行されるに至っていない時点では条件は成就されていません。

 しかし,本肢の場合は,以外の第三者と売買契約を締結して履行しているので,条件が成就するのをが故意に妨害しています。(との売買価格よりも の売買価格のほうが高いときなどにこのようなことが起こりうる。)

 このように条件が成就することで不利益を受ける当事者が条件の成就を故意に妨害したときは,その条件は成就したものとみなされます(民法130条)

 条件が成就したとみなされるということは,に報酬を請求できることになるわけです。したがって,本肢は誤りです。

※判例(最高裁・昭和39.1.23)で,この130条を適用した山林売買の例があります。

 その判例は,本肢でのが仮契約,が本契約のときのものでした。
 本肢はこの判例から着想したものと思われます。  

(条件の成就の妨害)

第130条  条件が成就することによって不利益を受ける当事者が

       故意にその条件の成就を妨げたときは、

      相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。

3.「停止条件付きの報酬契約締結の時点で、既にが第三者との間で当該山林の売買契約を締結して履行も完了していた場合には、の報酬請求権が効力を生ずることはない。」

【正解:
◆停止条件が成就しないことが確定しているとき

 契約締結時点で,停止条件が成就しないことが確定している場合 は,その停止条件を付した契約自体が無効となります(131条2項)

 と停止条件付契約をする前に,すでに第三者との間で売買契約を締結し履行しているので,停止条件が成就しないことが確定しています。この場合,の報酬契約は無効であり,の報酬請求権は効力を生じません。  

(既成条件)
第131条2項
 条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無効とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする。

世の中には,二重売買や他人物売買というものもあるようだから,第三者との間で山林の売買契約を締結して履行も完了していた場合であつても,必ずしも「停止条件が成就しないことが確定している」とは限らないだろうと疑問を持つ方もいらっしゃると思いますが,ここは常識的に考えます。

4.「当該山林の売買契約が締結されていない時点であっても、は停止条件付きの報酬請求権を第三者に譲渡することができる。」

【正解:
◆条件の成否未定の間

 条件が成否未定の間は,当事者の権利義務(ここでは報酬請求権)は処分すること
 ができます(129条)

 したがって,は,条件が成否未定の間に,報酬請求権について債権譲渡する
 ことができます。 

(条件の成否未定の間における権利の処分等)
第129条  条件の成否が未定である間における当事者の権利義務は、
       一般の規定に従い、処分し、相続し、若しくは保存し、又はそのために担保を
       供することができる。

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