Brush Up! 権利の変動篇

弁済の過去問アーカイブス 平成18年・問8 


との間で、土地の売買契約を締結し、の所有権移転登記手続との代金の支払を同時に履行させることとした。決済約定日に、は所有権移転登記手続を行う債務の履行の提供をしたが、が代金債務につき弁済の提供をしなかったので、は履行を拒否した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。 (平成18年・問8)

1.「は、履行遅滞に陥り、遅延損害金支払債務を負う。」

2.「は、一旦履行の提供をしているので、これを継続しなくても、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内にが履行しないときは土地の売買契約を解除できる。」

3.「は、一旦履行の提供をしているので、に対して代金の支払を求める訴えを提起した場合、引換給付判決ではなく、無条件の給付判決がなされる。 」

4.「が、改めて代金債務を履行するとして、自分振出しの小切手をの所に持参しても、債務の本旨に従った弁済の提供とはならない。」

<コメント>  
 正答率だけで見ると,そこそこ60%を超えていますが,体感的には相当な難問であったことが受験者の談話などからうかがえます。宅建試験本番のときに難しく感じるものであっても,試験対策の方法によって,得点・不得点が如実に現れる問題の一つであったようです。

 492条の弁済の提供と533条の債務の履行の提供とは,ほぼ同じものであることに気がつかないと,1〜3各肢の関連がわからなくなるし,正誤の判断ができなくなります。

 <法律関係図>
 (売主) ――――― (買主)

  移転登記の      代金債務について
  債務の履行を     弁済の提供を
  提供         しなかった

●出題論点●
<同時履行の抗弁権と弁済の提供の効果>

●同時履行の抗弁権 (533条)
 双務契約の当事者の一方は,相手方がその債務の履行を提供するまでは、
 自己の債務の履行を拒むことができる。
 ただし,相手方の債務が弁済期にないときは,この限りでない。

 は, 所有権移転登記手続を行う債務の履行の提供をしているので,
 履行遅滞にはなりません。
 は,が代金債務の弁済をしなければ,移転登記手続について協力する
 ことを拒むことができます。

●弁済の提供
 弁済の提供の効果は,次の二つの側面があります。

1) 弁済の提供により,債務不履行を免れる。

 債務者が弁済の提供をすると,債務不履行によって生ずる一切の責任を免れ
,履行遅滞にはなりません(492条)。つまり,本問題でのAは,債務不履行を
理由とする損害賠償を支払う必要がなくなります。

 しかし,の債務がなくなったわけではないことに注意してください。
あくまでも履行遅滞にならないだけです。

2) 弁済の提供により,相手方は,同時履行の抗弁権を失い,履行遅滞に陥る。
 
 の履行の提供により,が代金債務を弁済しなければ,は履行遅滞に
 なります。

 このため,は,は債務不履行による損害賠償を請求できるし(415条)
 は,相当の期間を定めて履行を催告し,が履行しないときは,との
 契約を解除することができます(541条)。※

※解除権を行使しても,損害賠償を請求することができます(545条3項)

●関連過去問
 宅地の売買契約における買主が,代金支払債務の弁済期の到来後も,その
 履行の提供をしない場合,売主は,当該宅地の引渡しと登記を拒むことが
 できる。(平成11年・問8・肢1)

 http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/contract-n118.html

 <関連> 買主の同時履行の抗弁権の過去問 (平成8年・問9) 
  http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/cancel-ans4.html

【正解】

×

 正答率  64.8%

 

1.「は、履行遅滞に陥り、遅延損害金支払債務を負う。」

【正解:
◆弁済の提供の効果 (1) 履行遅滞による損害賠償請求

 は, 所有権移転登記手続を行う債務の履行の提供をしているので,自分のするべき義務は果たしています。

 は,との契約を解除する場合でも,解除しない場合のどちらであっても,が代金債務の弁済の提供をしていない以上,に対して,債務不履行による損害賠償を請求できます(415条)。 

2.「は、一旦履行の提供をしているので、これを継続しなくても、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内にが履行しないときは土地の売買契約を解除できる。」

【正解:
◆弁済の提供の効果 (2) 履行遅滞による解除権の行使 

 は, 所有権移転登記手続を行う債務の履行の提供をしているので,は,相当の期間を定めて履行を催告し,が履行しないときは,との契約を解除することができます(541条)

 なお,は履行の提供をしているので,履行遅滞を理由に解除する場合に,履行の提供を継続する必要はありません(判例)

●関連過去問
□平成4年・問8・肢2
 買主が支払期日に代金を支払わない場合,売主は,不動産の引渡しについて
 履行の提供をしなくても,催告をすれば,当該契約を解除することができる。

 【正解】×
 http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/cancel-ans2.html

□平成5年・問7・肢1
 がその所有する土地建物をに売却する契約をと締結したが,その後
 が資金計画に支障をきたし,が履行の提供をしても,が残代金の支払い
 をしないため,が契約を解除しようとしている。
 この場合,次のそれぞれの記述は,民法の規定及び判例によれば○か,×か。

 は,に対し相当の期間を定めて履行を催告し,その期間内にの履行が
 ないときは,その契約を解除し,あわせて損害賠償の請求をすることができ
 る。

 【正解】○
  http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/cancel-ans1.html

3.「は、一旦履行の提供をしているので、に対して代金の支払を求める訴えを提起した場合、引換給付判決ではなく、無条件の給付判決がなされる。 」

【正解:×
◆Bが同時履行の抗弁権を援用したとき→引換え給付判決

 との契約を解除しないで,に代金を請求する場合には,は,履行遅滞であっても,同時履行の抗弁権を援用して, が所有権移転登記をしなければ,代金支払をしないと主張できます(判例)
 にしてみれば,いくら履行遅滞であっても,が移転登記をしないのに,代金を払わされるというのではタマッたものではないからです。

 は,一旦履行の提供をしていても,の債務について履行遅滞にならないだけであって,依然移転登記に協力する債務は残っています。

 そのため,が代金支払を求めて訴えを提起した場合,裁判所は,の所有権移転登記と引換えにに代金の支払を命じる「引換給付判決」をすることになります。

 裁判所は,無条件の給付判決をするのではないので,本肢は誤りです。 

◆混同注意◆
 肢2 AがBとの契約を解除する場合
     → Bは,同時履行の抗弁権を主張できない。

 肢3 AがBとの契約を解除しないで代金を請求する場合
     → Bは,同時履行の抗弁権を主張できる。

4.「が、改めて代金債務を履行するとして、自分振出しの小切手をの所に持参しても、債務の本旨に従った弁済の提供とはならない。」

【正解:
◆弁済の提供の方法

 弁済の提供は,債務の本旨に従って現実にしなければなりません(493条)
 金銭債務で有効な提供となるのは,金銭のほか,郵便為替や銀行振出の小切手,銀行の支払保証のある小切手を提供した場合です(最高裁・昭和37.9.21)。

 個人振出の小切手を提供しても,原則として,弁済の提供にはなりません(最高裁・昭和35.11.22)。個人振出の小切手は現金化できない場合があるので,確実なものとは言えないからです。

●関連過去問
は、土地所有者から土地を賃借し、その土地上に建物を所有してに賃貸している。に対する借賃の支払債務に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、次の記述は正しいか。(平成17年・問7)

 が、当該借賃を額面とする振出しに係る小切手 (銀行振出しではないもの) をに提供した場合、債務の本旨に従った適法な弁済の提供となる。

 B (土地の所有者)
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 A (土地の賃借人,建物の賃貸人) ―   (借地上の建物の賃借人)

 【正解】×


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