Brush Up! 権利の変動篇

委任の過去問アーカイブス 平成18年・問9 委任契約の終了 


民法上の委任契約に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。  (平成18年・問9)

1.「委任契約は、委任者又は受任者のいずれからも、いつでもその解除をすることができる。ただし、相手方に不利な時期に委任契約の解除をしたときは、相手方に対して損害賠償責任を負う場合がある。」

2.「委任者が破産手続開始決定を受けた場合、委任契約は終了する。」

3.「委任契約が委任者の死亡により終了した場合、受任者は、委任者の相続人から終了についての承諾を得るときまで、委任事務を処理する義務を負う。」

4.「委任契約の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知ったときでなければ、相手方に対抗することができず、そのときまで当事者は委任契約上の義務を負う。」

<コメント>  
 委任は,平成14年・問10以来の出題です。肢4を除いて出題歴があります。 
この問題の正解肢は<平成7年・問9・肢3>と同じ論点でした。
 正答率は60%台と意外に低い数字になっていますが,肢3と肢4(初出題)の
どちらを選ぶのかで迷った人がいるためと思われます。

 委任の単独問題は,これまで,昭和63年,平成7年,9年,14年に出題があり
ました。   http://tokagekyo.7777.net/brush_echo/inin-top.html
●出題論点●
 

【正解】

×

 正答率  62.0%

1.「委任契約は、委任者又は受任者のいずれからも、いつでもその解除をすることができる。ただし、相手方に不利な時期に委任契約の解除をしたときは、相手方に対して損害賠償責任を負う場合がある。」

【正解:
◆委任解除での損害賠償

 委任契約は,原則として,いつでも当事者は解除することができます(解除権放棄の特約があれば,解除できませんが,肢1では問題文に書いていないので考える必要はありません。) (民法651条1項)

 ただし,相手方の不利な状況で解除するには,損害賠償責任を負わなければなりません(651条2項但書)

相手に不利な時期の解除権の行使には、原則として損害賠償することが必要ですが、やむを得ない事由があるときには損害賠償する必要はないとされています(651条2項但書)

 問題文で,<相手方に対して損害賠償責任を負う場合がある。>としているのは,<やむを得ない事由があるときには損害賠償する必要はない>ためです。

●関連過去問
(平成14年・問10・肢4)

 委任はいつでも解除することができるから,有償の合意があり,売買契約成立寸前にAが理由なく解除してBに不利益を与えたときでも,BはAに対して損害賠償を請求することはできない。

【正解】×
 委任は有償・無償どちらの場合も,相手方の不利な時期に解除するには,原則として,損害賠償責任を負います。

2.「委任者が破産手続開始決定を受けた場合、委任契約は終了する。」

【正解:昭和55年・問10,昭和59年・問11・肢2,昭和63年・問4・肢4,平成7年・問9,

◆委任の終了事由

 委任者,受任者の一方について破産手続開始の決定があったとき,委任契約は
終了します(民法653条2号)

●委任の終了事由 (委任による代理権の消滅事由と同じ。)

               委任者      受任者 

 死亡             ○         ○

 破産手続開始の決定   ○         ○

 後見開始の審判      ×         

3.「委任契約が委任者の死亡により終了した場合、受任者は、委任者の相続人から終了についての承諾を得るときまで、委任事務を処理する義務を負う。」

【正解:×
◆委任契約終了時の必要な処分

 誤 … 委任者の相続人から終了についての承諾を得るときまで
 正 … 委任者,その相続人,またはその法定代理人が委任事務を処理することが
      できるに至るまで

 委任契約が委任者の死亡により終了した場合に,急迫の事情があるときは,受任者は,その相続人・その法定代理人が委任事務を処理できるようになるまでの間は,委任事務を処理する義務を負います(654条)

 委任契約が終了した後,受任者には,遅滞なくその経過や結果を報告する義務がありますし(民法645条),切迫した事情があるにもかかわらず委任事務を中絶して放置することは,委任者・その相続人・その法定代理人に不測の損害を与えることにもなりかねないからです。

 委任は,互いの信頼関係の上に成り立っています。いくら委任契約が終了したからといって,急迫の
事情があるときにそのまま放置することは許されません。

(委任の終了後の処分)
第654条
 委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。

●関連過去問
●平成7年・問9・肢3

 Aは,Bにマンションの一室を賃貸するに当たり,管理を業としないCとの間で管理委託契約を締結して,Cに賃料取立て等の代理権を与えた。
 Aが死亡したとき,委託契約は終了するが,急迫の事情がある場合においては,Cは,その管理業務を行う必要がある。

【正解】○

4.「委任契約の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知ったときでなければ、相手方に対抗することができず、そのときまで当事者は委任契約上の義務を負う。」

【正解:初出題
◆委任終了の対抗要件

 委任の終了を相手方に通知するときまで,または,相手方が知るときまで,当事者は委任契約上の義務を負います。

 委任契約の当事者の一方が行き違いで,委任の終了を知らないために,損失を受けることを防止する規定が民法にはあります。それが次の民法655条です。

(委任終了の対抗要件)
第655条
 委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない。

 例えば,委任者が委任の終了を知らないのに,受任者が委任が終了したからといって一方的に委任事務を中断すれば,委任者にとって不利な事態を招くおそれがあります。
 このような場合に,民法では,受任者の責任が追及できるようにしています。


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