宅建過去問 権利の変動篇 

物権変動等の過去問アーカイブス 平成19年・問3 


Aが所有者として登記されている甲土地の売買契約に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。  (平成19年・問3)

1 と売買契約を締結したが、平穏かつ公然と甲土地の占有を始め、善意無過失であれば、甲土地がの土地ではなく第三者の土地であったとしても、は即時に所有権を取得することができる。

2 と売買契約を締結したが、登記を信頼して売買契約を行った場合、甲土地がの土地ではなく第三者の土地であったとしても、の過失の有無にかかわらず、は所有権を取得することができる。

3 と売買契約を締結して所有権を取得したは、所有権の移転登記を備えていない場合であっても、正当な権原なく甲土地を占有しているに対し、所有権を主張して甲土地の明渡しを請求することができる。

4 を所有者とする甲土地につき、との間で10月1日に、との間で10月10日に、それぞれ売買契約を締結した場合、共に登記を備えていないときには、先に売買契約を締結したに対して所有権を主張することができる。

<コメント>  
 
●出題論点●
 (肢1) 占有開始時に善意無過失の者が所有権を取得時効によって取得するには10年間の占有が必要。

 (肢2) 不実の登記を信頼した者は,登記には公信力がないため,原則として保護されないが,真の所有者に不実の登記について過失があれば,保護される場合がある。

 (肢3) 不法占有者に対しては登記がなくても対抗できる。

 (肢4) 不動産の物権変動−二重譲渡

【正解】3

× × ×

 正答率  74.2%

1 と売買契約を締結したが、平穏かつ公然と甲土地の占有を始め、善意無過失であれば、甲土地がの土地ではなく第三者の土地であったとしても、は即時に所有権を取得することができる。

【正解:×
◆不動産の取得時効

 取引行為によって,平穏に,かつ,公然と動産の占有を始めた者は、善意無過失であれば,その動産の所有権を即時に取得します(民法192条)

 しかし,この規定は不動産には適用されません。

  所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人の不動産を占有した場合にその所有権を取得するには,占有の開始の時に善意無過失であれば10年間の占有,悪意または善意有過失であれば20年間の占有が必要です(民法162条)

買った土地の一部が実は第三者の所有する土地であった場合に,取得時効を援用することがあり,本肢はそれを素材にしています。

2 と売買契約を締結したが、登記を信頼して売買契約を行った場合、甲土地がの土地ではなく第三者の土地であったとしても、の過失の有無にかかわらず、は所有権を取得することができる。

【正解:×
◆不実の登記を信頼した者の対抗力

 登記には公信力がないので,不実の登記を信頼して売買契約を締結しても,原則として保護されません。

 しかし,当該不動産の真の所有者に過失がある場合〔例えば,自分の知らない間に不実の登記がされ,知った後もそれを放置して,容認するような行動をとり,虚偽の外観の作出に関与したと考えられる場合〕は,民法94条2項の通謀虚偽表示の規定が類推適用され,不実の登記について善意無過失の者は保護されます(最高裁・昭和45.9.22)

 したがって,「(真の所有者)の過失の有無にかかわらず,(不実の登記を信頼した者)は所有権を取得することができる。」とする本肢は誤りです。

関連判例として,不動産の真の所有者に過失がなかったとして,不実の登記を信頼した者の対効力を否定した事例があります。

 不実の登記がされたときに,不動産の真の所有者が放置していたのではなく,虚偽の外観の作出に関与していたのでもない場合は,民法94条2項の類推適用をすることはできず,不動産の真の所有者は,不実の登記について善意無過失の者に対抗できる(最高裁・平成15.6.13)

3 と売買契約を締結して所有権を取得したは、所有権の移転登記を備えていない場合であっても、正当な権原なく甲土地を占有しているに対し、所有権を主張して甲土地の明渡しを請求することができる。

【正解:
◆不法占有者に対しては登記がなくても対抗できる

 判例によれば,正当の権原なくして占有〔占拠〕する不動産の不法占有者は民法177条にいう「登記がなければ対抗できない第三者」に該当せず,これに対しては登記がなくても所有権の取得を対抗できます(最高裁・昭和25.12.19)

 したがって,は,所有権の移転登記を備えていない場合であっても,不法占有者であるに対し,所有権を主張して甲土地の明渡しを請求することができ,損害賠償を請求することもできます。

4 を所有者とする甲土地につき、との間で10月1日に、との間で10月10日に、それぞれ売買契約を締結した場合、共に登記を備えていないときには、先に売買契約を締結したに対して所有権を主張することができる。

【正解:×
◆二重譲渡

 不動産の二重譲渡があった場合に,不動産の所有権は,売買契約の日付の先後ではなく,登記の先後によります。

 したがって,共に所有権移転登記を経なければ,甲土地の所有権の取得を主張できないので,本肢は誤りです。


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