宅建過去問 権利の変動篇
物権変動の過去問アーカイブス 平成19年・問6
不動産の物権変動の対抗要件に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、この問において、第三者とはいわゆる背信的悪意者を含まないものとする。 (平成19年・問6) |
1 不動産売買契約に基づく所有権移転登記がなされた後に、売主が当該契約に係る意思表示を詐欺によるものとして適法に取り消した場合、売主は、その旨の登記をしなければ、当該取消後に当該不動産を買主から取得して所有権移転登記を経た第三者に所有権を対抗できない。 |
2 不動産売買契約に基づく所有権移転登記がなされた後に、売主が当該契約を適法に解除した場合、売主は、その旨の登記をしなければ、当該契約の解除後に当該不動産を買主から取得して所有権移転登記を経た第三者に所有権を対抗できない。 |
3 甲不動産につき兄と弟が各自2分の1の共有持分で共同相続した後に、兄が弟に断ることなく単独で所有権を相続取得した旨の登記をした場合、弟は、その共同相続の登記をしなければ、共同相続後に甲不動産を兄から取得して所有権移転登記を経た第三者に自己の持分権を対抗できない。 |
4 取得時効の完成により乙不動産の所有権を適法に取得した者は、その旨を登記しなければ、時効完成後に乙不動産を旧所有者から取得して所有権移転登記を経た第三者に所有権を対抗できない。 |
<コメント> |
正解肢は平成17年にも出題されていたので受験者は知っていたはずですが,正答率はそれほど高くはありません。苦手意識によるものと思われますが,出題されたのはすべて基本事項です。
なお,問題文で「第三者とはいわゆる背信的悪意者を含まないものとする。」としたのは,原則通りに考えてよいという親心でつけたものと思われます。肢1,肢2については第三者が背信的悪意者であれば結論が変わる可能性があるからです。 |
●出題論点● |
(肢1) 取消し後の第三者には,登記がなければ対抗できない
(肢2) 解除後の第三者には,登記がなければ対抗できない (肢3) 共同相続人は,共同相続した旨の登記がなくても,自己の持分の取得を対抗できる (肢4) 取得時効が完成しても,その旨の登記がなければ,時効完成後の第三者に対抗できない |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | × | ○ |
正答率 | 73.2% |
1 不動産売買契約に基づく所有権移転登記がなされた後に、売主が当該契約に係る意思表示を詐欺によるものとして適法に取り消した場合、売主は、その旨の登記をしなければ、当該取消後に当該不動産を買主から取得して所有権移転登記を経た第三者に所有権を対抗できない。 |
【正解:○】
判例では,売買契約の取消によって買主から売主への復帰的物権変動があり,一方で買主から第三者への物権変動があったのだから,二重譲渡と同様に,登記の先後で,その優劣が決するとしました。 契約を取り消した売主 判例では,その理由として,「売買契約を取り消した売主はいつでもその登記を回復できるはずなのに,グズグズしていて登記の回復を怠った。そのため,転得者となる第三者が現れたのだ。」としています。 ▼対比 詐欺による取消し前の第三者 詐欺による取消し前に,買主が第三者に転売した場合は,その第三者が善意であれば,売主は,その第三者に登記がなくても,対抗できない(民法96条3項,判例)。 |
2 不動産売買契約に基づく所有権移転登記がなされた後に,売主が当該契約を適法に解除した場合,売主は,その旨の登記をしなければ,当該契約の解除後に当該不動産を買主から取得して所有権移転登記を経た第三者に所有権を対抗できない。 |
【正解:○】
判例では,売買契約の解除によって買主から売主への復帰的物権変動があり,一方で買主から第三者への物権変動があったのだから,二重譲渡と同様に,登記の先後で,その優劣が決するとしました。 契約を解除した売主 ▼対比 解除前の第三者 売買契約が解除される前に,買主が第三者に転売した場合に,その第三者が保護されるには,善意・悪意には関係なく,対抗要件としてその旨の登記〔買主からその第三者への所有権移転登記〕が必要である(民法545条1項但書,判例)。 合意解約の前の第三者について(最高裁・昭和33.6.14) 合意解約についても第三者の権利を害することはできない。しかし,その第三者が合意解約前に不動産の所有権を取得した場合において保護されるためにはその所有権について不動産登記が経由されていることを必要とする(その第三者が登記を経由していないときは第三者として保護されない。) |
3 甲不動産につき兄と弟が各自2分の1の共有持分で共同相続した後に、兄が弟に断ることなく単独で所有権を相続取得した旨の登記をした場合、弟は、その共同相続の登記をしなければ、共同相続後に甲不動産を兄から取得して所有権移転登記を経た第三者に自己の持分権を対抗できない。 |
【正解:×】平成9年・問6・肢2,平成17年・問8・肢2,
本肢の場合,兄弟ともそれぞれ2分の1の共有持分で共同相続したにもかかわらず,兄は単独相続した旨の登記(登記原因を相続とする所有権移転)をしています。 しかし,兄は相続により共有持分2分の1を限度に取得していますが,弟の共有持分2分の1については兄は無権利者です。 したがって,兄から甲不動産を譲り受けた第三者は,兄の本来の持分2分の1の取得については認められますが,弟の持分2分の1の取得については,無権利者である兄から譲り受けているので,無権利者ということになります〔登記には公信力がないため〕。 そのため,弟は,自己の持分について無権利者である第三者に対して,共同相続した旨の登記(共有の登記)がなくても,自己の持分権を対抗できます。 本肢の場合,弟は,兄と第三者に対して,登記を弟自身とその第三者の共有とするように請求することができます。 |
4 取得時効の完成により乙不動産の所有権を適法に取得した者は、その旨を登記しなければ、時効完成後に乙不動産を旧所有者から取得して所有権移転登記を経た第三者に所有権を対抗できない。 |
【正解:○】
判例では,取得時効の完成によって旧所有者から時効による取得者へ物権変動があり,一方で旧所有者から第三者への物権変動があったのだから,二重譲渡と同様に,登記の先後で,その優劣が決するとしました。 取得時効が完成した者 |