宅建過去問 権利の変動篇
相続の過去問アーカイブス 平成19年・問12 単純承認と限定承認,相続放棄,
相続財産管理人,相続債権者
AがBに対して1,000万円の貸金債権を有していたところ、Bが相続人C及びDを残して死亡した場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。 (平成19年・問12) |
1 Cが単純承認を希望し、Dが限定承認を希望した場合には、相続の開始を知った時から3か月以内に、Cは単純承認を、Dは限定承認をしなければならない。 |
2 C及びDが相続開始の事実を知りながら、Bが所有していた財産の一部を売却した場合には、C及びDは相続の単純承認をしたものとみなされる。 |
3 C及びDが単純承認をした場合には、法律上当然に分割されたAに対する債務を相続分に応じてそれぞれが承継する。 |
4 C及びDが相続放棄をした場合であっても、AはBの相続財産管理人の選任を請求することによって、Bに対する貸金債権の回収を図ることが可能となることがある。 |
<コメント> |
●出題論点● |
(肢1) 限定承認は,共同相続人全員でしなければならない
(肢2) 相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは,単純承認したものとみなされる。 (肢3) 単純承認したときは,債務も相続分に応じて承継される (肢4) 相続人の不存在のとき,相続財産の管理人が選任されることにより,相続債権者が弁済を受けられることがある。 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | ○ | ○ |
正答率 | 79.8% |
1 Cが単純承認を希望し、Dが限定承認を希望した場合には、相続の開始を知った時から3か月以内に、Cは単純承認を、Dは限定承認をしなければならない。 |
【正解:×】平成14年・問12・肢2, 相続人は,自己のために相続開始があったことを知った時から3ヵ月以内に,相続を承認〔単純承認,限定承認〕するか,放棄するかを選択しなければなりません(民法915条1項)。 しかし,相続人が数人あるとき,限定承認は,共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができるとされています(民法923条)。⇒ 手続きが複雑になるのを避けるため。 つまり,共同相続人のうち一人でも限定承認に同意しなかった場合〔単純承認した場合※〕は,限定承認をすることはできないので,本肢は誤りです。 ▼共同相続人のうち一部の者が相続放棄をしたときは,はじめから相続人とならなかったとみなされないので(民法939条),他の共同相続人だけで限定承認をすることができます。 ※相続人の一部の者〔相続人の一人であっても〕が肢2の単純承認をしたとみなされる行為をしたとき〔法定単純承認事由〕も,限定承認をすることはできません。 |
●熟慮期間−自己のために相続開始があったことを知った時から3ヵ月 |
相続人になり得る範囲は,法定相続人の規定(民法900条,901条)によって定められています。しかし,これは法定相続人ならば必ず被相続人の財産を相続しなければならないということではありません。相続することが必ずしも相続人の利益になるとは限らず〔被相続人に多額の債務があるなど〕,また相続したくないという意思が相続人にある場合もあります。
そのため,民法では,相続を承認するか,放棄するかを相続人に選択させ,じっくりと考えさせるために,<自己のために相続開始があったことを知った時から3ヵ月>の熟慮期間を置いています(民法915条1項)。 ただし,この3ヵ月という期間は,利害関係人や検察官の請求によって,家庭裁判所が伸長することができます(民法915条1項但書)。 |
相続の承認 | 単純承認 | 債務と相続財産を無条件・無制限に引き継ぐ。
相続人は相続分のほかに相続人固有の財産を出してでも |
限定承認 | 債務のうち相続財産を超える部分の弁済義務は 引き継がない。 相続人は、相続によって得た財産の限度で被相続人の債務 マイナスの財産>プラスの財産 ・ ・ ・不足分を支払う必要がない マイナスの財産<プラスの財産 ・ ・ ・残りがあれば引き継ぐ。 |
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相続の放棄 | 債務や相続財産の一切を引き継がない。 | |
▼相続人は,相続の承認や放棄をするまでの間,その固有財産におけるのと同一 |
2 C及びDが相続開始の事実を知りながら、Bが所有していた財産の一部を売却した場合には、C及びDは相続の単純承認をしたものとみなされる。 |
【正解:○】初出題 熟慮期間が経過すると,相続人は単純承認をしたものとみなされます(民法921条2号)。 しかし,熟慮期間が経過しなくても,相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは,単純承認したものとみなされます(民法921条1号)。 本肢の「財産の一部を売却するという行為」は,相続財産の一部を処分したことになるため,C及びDは相続の単純承認をしたものとみなされます。
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3 C及びDが単純承認をした場合には、法律上当然に分割されたAに対する債務を相続分に応じてそれぞれが承継する。 |
【正解:○】 相続人が単純承認をすると,無限に被相続人の権利義務を承継します(民法920条)。債権も債務も全面的に引き継ぐということです。 各共同相続人は,その相続分に応じて,被相続人の権利義務を承継するので(民法899条),C及びDが単純承認をした場合には,被相続人の債務は,それぞれの相続分に応じて分割され,それぞれが承継します。 ▼単純承認の恐ろしいところは,条文の「無限に・・・承継する」というところからもうかがわれますが,具体的には,被相続人から財産した財産で弁済できないときは,相続人は自分の財産で弁済しなければならないということです。 |
4 C及びDが相続放棄をした場合であっても、AはBの相続財産管理人の選任を請求することによって、Bに対する貸金債権の回収を図ることが可能となることがある。 |
【正解:○】初出題 相続人のあることが明らかでない場合〔相続欠格,廃除,相続放棄などにより相続人がいないときもこれに該当する〕には,相続財産は法人となります(民法951条,相続財産法人の成立)。相続財産法人は,相続人を探し,相続財産の管理・清算をするためのものです。 この場合,家庭裁判所は,利害関係人または検察官の請求によって相続財産の管理人を選任しなければなりません(民法952条1項)。 相続財産の管理人が,相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。)及び受遺者に対して,その請求の申出をすべき旨を官報に掲載することによって公告し(民法957条1項),Aがその申出をしたときに,債権回収を図ることが可能となる場合があります。 |